雨降って地かたまる、っていうアレ
鉄塔の一件から、数日後。
教室の扉を勢い良く開けて、おれは邦彦くんを呼んだ。
「ちょっと話があるんだけど」
邦彦くんは目を見開いて固まってしまった。
「そりゃ久々にまともに顔合わせるけどさ、そんなに驚くことないでしょ」
「いや驚くだろ……」
邦彦くんは恐る恐る指を差した。
「お前、髪どうした!?」
そんなに意外だろうか、と金髪に染めたばかりの前髪を引っ張る。
何を隠そう、つい先程まで生徒指導に別室でめっちゃ怒られていたのだ。受験を控えたこの時期にお前は一体何をやっているのかと。
別に問題ない、瑞明高校の校則は緩いから染めている人もいる、と答えたら同席していた担任の先生がひっくり返ってしまった。
もっと上の難関高を目指せるのに、と泣かれた時は参ったが、心を変えるつもりはなかった。
どこの学校を選び、どんな人生を歩むかはおれ自身が決めることだ。
「別に髪の色の話をしにきたんじゃないんだよ」
教室にズカズカ入って行って、たまたま空いていた邦彦くんの前の席にドッカリ座る。
クラス中から「なんだこのよそ者は」みたいな視線がちらちらと向けられたが、あえて無視する。どちらにせよ、手短かに済ませるつもりだ。
「邦彦くん、ナギさんたちにおれのこと見張らせてたでしょ」
あの日、おれの靴が川に投げ込まれたことを知らなければ、連中に報復なんかできるはずがない。
つまり、邦彦くんはおれに監視をつけていた。
「……あぁ。ナギさんが喋ったのか、お節介な……」
こっそりやっていたイタズラに気付かれたように、気まずそうに邦彦くんは顔を顰めた。
「お節介は君の方じゃないか。おれは仕返しまでしてくれなんて頼んでないよ」
「悪かったよ。分かってる。……ただの俺の自己満だ」
文句を言ってみると、邦彦くんは殊勝にも謝ってくれた。
一応、やりすぎたという認識はあるようだ。
邦彦くんは大きくため息を吐いた。
「ったく、見るたびに背負ってるモンが増えてくわ、周囲の空気は澱んでいくわ、お前の顔色は悪くなってくわ……。自分がどれぐらい危険な状況だったか分かってねぇだろ」
心配した、と素直に言わないのは邦彦くんらしい。
少し前なら苛ついたであろう物言いなのに、今は苦笑すら漏れた。
「ありがとう」
だから、ようやくお礼が言えた。
邦彦くんがおばけが見えると言わなくなったのは、おれを守るためだとちゃんと分かってる。
おれにおばけがいるなどと言うなと告げたのは、
これ以上おれが孤立しないためだ。
じっと邦彦くんはおれを見つめた。
正確には、俺の背後を。
「綺麗に消えてんな」
「カラスの皆さんに食べてもらったからね」
離れていた距離を埋めるように、おれたちは言葉を交わす。
「ねえ、邦彦くん。もうおれを守ろうとなんかしないでよ」
おれは、邦彦くんにお願いした。
「守られてばっかりじゃ、負い目を感じて君の友達を名乗れないじゃないか」
邦彦くんは目を見開いた。
「俺は……俺のせいでお前の人生狂わせたんじゃねぇかと思ってた」
震えた唇から、掠れた声が漏れる。
そんな訳がないじゃないか。
おれは声を上げて笑ってやった。
「やっぱり、邦彦くんはバカだなぁ」
次回11月27日7:00に更新します。
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