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◆高校生(=世界一おバカな生き物)による学校の怪談 【旧:うちの学校はおかしい】  作者: 駄文職人
築城京也の場合

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緊張の弛緩と安堵によりにじみでるアレ

「本物だ! すげぇ! 本物の妖怪だ!」

『ま、まあ元気になって何より。さっきまで酷い顔色していたから』


 ほら、と上で団子になっているカラスの群れを、ナギさんと名乗る彼女は嘴で差し示した。


 カラスたちが何か巨大なわたあめみたいな何かをついばんで引きちぎっている。絶対許さんとばかりの、ものすごい敵意だ。


『あれがアンタの頭に乗っていたんだよ』

「えっ」

『運が良かったわねぇ。ちょっと遅かったらアレに唆されてペシャンコよ。ほら、軽くなったでしょう?』


 言われてみると、確かに体が軽い。背中の大荷物を下ろしたみたいに、肩のあたりがすっきりしている。


『穢れ玉だよ』

「穢れ玉……? 聞いたことない」

『気配が希薄だからあんまり人には見えないのかしらね。アレがそばにあると気分が沈んできて辛気臭いったらありゃしない。見つけ次第散らすようにここらの子に言ってるけど、あんなに育っているのを見るのはアタシも初めてだわ。交霊術を連発してやるぐらいしないと、普通はああはならないはずだけどねぇ』


 心当たりがありすぎる。


 そういえば、邦彦くんも口酸っぱく「悪いモノを集めるからやめろ」って言っていたっけ。自業自得である。


 改めて見下ろした地面はさっきよりもずっと遠くて、どうして着地できそうなどと考えたのか不思議なくらいだった。



 死ぬところだった、と遅れて気が付いて、おれはゾッとした。



『他の人なら適当に追い払ってしまいだけどねぇ。アンタ邦彦ちゃんの友達でしょう?』

「邦彦くんのこと知ってるの?」

『そりゃあ知ってるわよ。あの子、この辺りじゃあ有名だもの。さっきなんかアンタをいじめてた連中を全員、きゅうりの漬物ぶっかけて川に蹴り落としてたわよ』

「もしかして、あのカッパが出るって川?」

『そうそう。全員もみくちゃにされてえらい騒ぎだったわ。あそこのカッパは柄が悪いからアンタも気を付けんのよ』


 明日からたぶん学校が静かになるだろう。


 ちなみに、おれが川にきゅうり持ってったら、カッパは見えないのにいつの間にかきゅうりだけがなくなってんだよな。なんでだろ?


『普通の人たちはみんなそうよ。邦彦ちゃんの遭遇率がおかしいだけだから。アタシのことも、今は黄昏時だからこうして見えるけど、普段のアンタには普通のカラスにしか見えていないはずよ』

「そんなぁ」

『アヤカシなんてそんなもんよ。人と生きてる世界がそもそも違うの』


 ナギさんはサバサバと答えた。


 そんなもんか。


 いつでも見えている邦彦くんの方が珍しいのだ。運がいい時に見えるモノ、そういわれると納得できた。


『聞いたわよ、アンタ。アヤカシに会いたいばかりに結構無茶してるらしいじゃない』

「お恥ずかしい限りで」


 カラスにまで話題になっているのか。


 最近の自分がいかに自暴自棄になっていたか思い知らされる。


『そんな苦労しなくっても、あそこの学校行きゃいいのよ。邦彦ちゃんじゃなくたってアヤカシに毎日会えるわよ』


 え、と見やるとほんの少し小高い丘にある高校が見えた。


「瑞明高校……? 確かに出るって噂は聞いたことがあるけど」


 なんせ八咫烏が言うのだ。間違いなく出るのだろう。


『昔、この辺りで暴れ回っていた大妖怪をあそこに封じているんだよ。そのせいで少しばかり次元がおかしいことになってんの。そこの大通りからこっち側は、他よりアヤカシが集まりやすいし紛れ込みやすくなっててね。学校周りは特にひどいねぇ。最近は悪魔の子が()()()()()()()()()()みたいだし』

「?」

『こっちの話よ』


 瑞明高校か。


 偏差値は確か中の上、夏の模試でもA判定の高校だ。冬の今から対策を練ってもきっと問題なく入試をパスできる。

 先生はもっと上の、首都圏にある難関高におれを挑ませようとしているみたいだけど、まあいいや。


 模試で思い出した。

 二年の冬の雨の日、おれの荷物を取り上げられて困っていたところを助けてくれた『通りすがりの美少女A』と名乗った少女を。


 邦彦くんに見つかってしまって気まずくて立ち去ってしまったが、彼女に礼も言わないままだった。後から気付いて悔やんだが、彼女の制服がどこの学校のものかも分からない。模試が終わってから探し回ってもみたが出会うことはできなかった。


 そうだ。

 彼女にもう一度会ってお礼を言うまで、おれは死ぬ訳にはいかないんだ。


 どこにいるかも分からないが、おれがアヤカシに遭遇するよりはいくらか確率は高いだろう。


『さ、アタシはそろそろ行くわ。騒がしくなってきたしね』


 大丈夫かー、と足元から声がした。


 気が付いたら、いつの間にか鉄塔の周りに人だかりができていた。おれがカラスに襲われていると思われたのかも知れない。


 バサリ、とナギさんは翼を広げてはばたいた。


『あんまり邦彦ちゃんに心配かけちゃダメよ』


 最後に一声鳴くと、ナギさんは他のカラスたちを引き連れてどこかの空へ飛び立っていった。





 その後、おれはレスキュー隊員によって地上に下ろされたのだった。


 落ちかけたところまでばっちり人に見られていたようで、誰かが通報をしたらしい。ちょっとした騒ぎになってしまった。


 命を粗末にするな、とか、危ないから二度とするな、とか後から来た警察の説教を聞き流しながら、おれは野次馬の向こうに息を切らした邦彦くんを見つけた。



 視線が合う。



 だが互いに遠いから声をかけなかった。


 遠目からでも邦彦くんが血相を変えて駆けつけてくれたのだと分かる。きっとナギさんが邦彦くんを呼んだんだろうな。


 おれを見た途端、泣きそうにくしゃりと顔を歪める。



 ーーあんまり邦彦ちゃんに心配かけちゃダメよ。



「全く……とりあえず、保護者の方の連絡先を教えてもらえる?」


 警察の問いかけを、遠くのカラスの鳴き声が遮った。

次回11月26日7:00に更新します。

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