二人目 後編
「じゃあ、言葉じゃなくて行動で気持ちを表わしてみよぉ!」
沈むりんかを尻目に、ロカが威勢の良い声をあげる。
「それ、いいね! でもどうやって?」
顔をつきあわせて話しこむ二人を、りんかが憮然として見つめる。
言葉が無理だから行動で。
筋は通っているが、それがすんなりとできるならこれほど思い悩んではいない。
「たくま君は何が好きなのかなぁ。知ってる?」
首をかしげてこちらを見つめるロカに眉をしかめることで答える。昔のことならいざ知らず、ろくに話しもできない今のたくまの好物など知るはずもない。
「あ、でも――」
「なになに! 何か思いついたの?」
りんかが漏らした声にイスズが食いつく。
今のたくまの好物など知るよしもないが、今も昔も変わらず好きなものなら知っている。昔は誰が見てもわかるほど大好きで、少し前にそれから離れそうになって、でも最近、昔と同じように、昔より大好きになったもの。
「バスケは、あいつが絶対に好きなものよ!」
これだけは胸を張って口にできる。ずっと傍で見ていたのだ。試合に勝ったときの喜びを、負けたときの悔し涙を、スタートメンバーに選ばれたときの興奮を、レギュラー落ちしたときの落胆を。ずっと見てきたのは、他でもない自分なのだ。
「わかってるなら早くしないと!」
意気込んだイスズが背中を押す。ロカも体当たりする勢いで背中にぶつかってきた。
たくまはバスケが好きだ。そんなたくまのことが好きだ。
今必要なのはその気持ちだけ。二人の見習いに押されて、りんかは走り出した。
* * * * * *
公園で一人、ドリブルの練習をしているたくまを見つける。たくまは最近変わった。
下を向いて不平を漏らすだけだった以前と違い、時間を見つけては積極的にボールに触れ、練習に励んでいる。部活だからと惰性でしているのではない。バスケが好きだから、試合に出るために練習しているのだ。
それは、コーチの体調不良で、練習がいつもより幾分早めに切り上げられた今日だって変わらない。
「たくま!」
ドリブルに精を出すたくまに呼びかける。集中しているときに声をかけるのはためらわれたが、最近はオーバーワーク気味なのでちょうどいいだろう。
呼びかけられて集中が乱れたのか、ボールが手を離れ転がる。それを追うでもなく、たくまがゆっくりと振り向いた。
鼓動が乱れる。上がった息が、汗ばむ額が、緩く上下する肩が、すべてが彼の努力を伝え、魅力となり、りんかの胸を弾ませる。
余計な言葉は要らない。たくまを傷つけるだけの言葉など必要ないのだ。
りんかは走ってたくまに近づいた。何も言わず、手に持っていたものをたくまの胸へと押しつける。目線を合わせぬまま力任せに押していると、戸惑いながらもたくまが手に取ったのがわかった。
素早く身体を離し、渡したものを返されぬよう距離を取る。
たくまの手には、シンプルなスポーツタオルが握られている。なんの変哲もない、ごくありふれたタオルだ。吸水性、速乾性に優れているのが売りの、よく見るタオルに、りんかは想いを乗せた。難しいことは考えず、思うままに行動する。
これは、その最後の仕上げだ。
手を伸ばしてもぎりぎりで届かない距離。顔を上げる。手中のタオルとりんかを交互に見やり、いぶかしげにりんかを見るたくまの目をしっかりと見返した。
照れに頬が染まり、困ったような、それでいて嬉しそうな笑みがりんかの顔を彩る。見とれてとっさに言葉が出ないほどに、その笑顔は輝いていた。
「がんばれ! 大好き!!」
誰に聞こえてもかまわないと言うように、りんかが大きく声をあげる。されどたった一人にだけ向けられた言葉は、あやまたず相手の胸を射貫いた。
言い終わると同時に身を翻し、走り去るりんかの背を呆然と見つめる。数日前、自称神見習いに出会ったときのように、白昼夢を見ているのかと思った。しかし、視線を下げた先にある自分の手にはタオルが残っている。
りんかが走り去った方を見て、徐々に小さくなるその背中に、こらえきれずに叫んだ。
「俺も!」
強く地面を蹴って走る。追いかけて、追いついて、捕まえたら。自分の言葉で、自分の口から、自分の心を言うのだ。
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