二人目 前編
「またやっちゃった……」
たくまにきつく言い過ぎた。普段はきりっとした眉も、このときばかりは情けなく垂れている。
「まあまあ」
黒髪をポニーテールにした少女がなだめるも、深くうつむけた顔を上げない。
「ダメ、ダメだよかれん。今回はダメ、ぜっっったい嫌われた」
「大丈夫だって!」
自らの行いを猛省しているりんかと、それを必死に慰めるかれんの姿は、身近な者はよく知っている恒例行事であった。
「なんで、あんな、あんなこと。でもあれはたくまも悪いし」
たくまはりんかの言葉がきついと思っているようだが、りんかがきつく言うのは実はたくまだけだ。他の部員には、もう少しオブラートに包んで、かつ具体的に欠点を指摘できる。間違っても、『お前がダメだ』などと言わない。
「うんうん、たくま君もきっとわかってるよ。幼なじみなんでしょ?」
かれんの慰めなど耳に入らない。自分の世界に入って言い訳と反省を繰り返すだけだ。かれんも慣れたもので、反応がなくても怒らない。根気よく、肩を叩いたり背中を撫でたりして友人が落ち着くのを待つ。
幼なじみであるという気安さ、想いを向ける相手であるという照れから、片思いの相手にきつい態度を取ってしまいがちな友人の、一人反省会に付き合う。いつものことだ。
いつものことであり、何度となく繰り返してきたのに、胸に疼痛を覚える。気づかないふりをするには困難な胸の痛みに、かれんは顔を歪めた。
りんかは自分の行いを正当化するのに忙しく、かれんを見ない。反省会の最中に、りんかがかれんを見たことはない。だからりんかは知らない。かれんがどんな顔をして、たくまの幼なじみ(りんか)の傍にいるのか。きっとこれからも知ることはないだろう。
一度目を瞑り小さく深呼吸、りんかに声をかけようとした。
「何があったのぉ?」
割り込んできたのは、のほほんと間延びした声。驚いて振り向くと、二人の少女が興味深げにこちらを見つめている。
「誰!?」
見たことがない二人組だ。かれんは鋭く誰何の声をあげる。二人はニコニコとして、人畜無害に見える。なんとなく安全そうだ。根拠もなく漠然とそう思う。
「私たちは――」
「おーい、そろそろ試合始まるぞ!」
「はーい、今行きます!」
謎の二人組が意気揚々と名乗りあげるのを、誰かの声が遮る。テニス部の先輩だ。建物の陰から、選手であるかれんを手招きしている。無視するわけには行かない。置いていくりんかに心配そうなまなざしを、二人組のわきをすり抜けるときには、警戒もあらわなまなざしを、それぞれ向けて小走りに去って行く。
りんかに何かしたら許さない。かれんの目は強くそう語っていた。ワカにも劣らぬ迫力に、イスズとロカの見習い二人は小さく身を震わせた。
かれんの姿が見えなくなるのを待ち、ロカはりんかとの距離を詰めた。
「何か悩んでるのぉ?」
間延びした声だが茶化す雰囲気はなく、真剣さが滲んでいる。
今あったばかりの見ず知らずの相手に、普通相談事など持ちかけない。しかし、恋に悩み行き詰まったりんかは、縋れるものすべてに縋りたい気分であった。それがいかにうさんくさい相手であったとしても、おぼれる者は藁をもつかむのである。
「私、思ってることを素直に言えないの!」
りんかは現在自分を悩ませている悩みを、心中を、洗いざらいぶちまけることにした。
「本当は違う言葉を言いたいのに! もっと優しい言葉をかけたいのに!!」
感情が高ぶり、最後は涙混じりに声が震えてしまう。イスズが回り込んで、りんかに寄り添う。
「気持ちを言えない相手は決まってる?」
柔らかい問いかけに、りんかは幼子のように頷いた。
「うん。たくまの前に立つと、どうしても恥ずかしくなって……」
「言葉がきつくなっちゃうんだね」
言葉尻を引き取ったイスズの言葉に、首を縦に倒す。
想い人を前にすると緊張から素直な言葉が出てこない。小学生でもあるまいし、とは思うが実際にそうしてしまうのだから質が悪い。りんかは悄然とうなだれることしかできなかった。
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