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Q.それは誰かのためですか?  作者: ベジタ某
3/8

一人目 後編

「ふーん。つまりあんたらは神様の見習いで、俺を助けに来たって?」

 イスズとロカ、二人が代わる代わる話した内容をまとめるとそうなる。

「そうだよ! 私たちは君を笑顔にしたいの!」

 イスズが高らかに言う横でロカも大きく頷いている。神だ何だというのは正直理解しがたいが、二人は輝いて見えた。目標に向かって邁進する姿がそう思わせるのだろう。


 きらきらとまばゆい見習いに、たくまの胸がうずく。視線が落ち、つま先しか見えなくなる。

(俺は全然だってのになぁ)

「君は何を悩んでるのぉ?」

 自分の靴を見つめていたたくまの視界に、ロカが入り込んできた。体を折り曲げて、下からのぞき込む。


「試合に出られないんだよっっ!」

 自信にあふれた二人が劣等感を刺激する。知らず、口調がきつくなる。それでも素直に心情を吐露したのは、いるかどうかもわからない神に縋りたかったからかもしれない。

「努力が足りないとかぁ?」

「努力する意味がわかんねぇよ」

 いっそ無邪気とも言える一言に胸がむかむかする。努力はしているつもりだった。けれど結果が出ない。いつしか努力することに意味が見いだせなくなっていた。


「好きなのに?」

 今度は栗色の神の見習いが問いかけてきた。片割れと同じく、素朴な疑問をきく調子だ。

「最初は! そうだった、かも、知んねぇけど……」

 そうだ、最初は好きだったのだ。ボールを追いかけ、パスを回し、ディフェンスをくぐり抜けて頭上のゴールへとボールを放る。チームに貢献できたときは気分が良いし、うまく立ち回れなかったら情けない。勝てば嬉しくて負ければ悔しい。

 最近は負けることすらない。試合に出られないのだから当然だ。相手がいなければ、負けて悔しがることすらできない。ただただ苦しくて退屈な日々だった。


「バスケ、やめようかな……」

 自分の口から出た言葉にはっとする。慌てて二人の少女を見やれば、不思議そうに首をかしげている。

「好きなんでしょ? なのにやめるの?」

「やめちゃったら後悔するよねぇ?」

 言い分はもっともだ。バスケが嫌いになったわけではない。嫌いなのは成長できない自分だけだ。今やめたら後悔するのは間違いない。いずれやめる時は来るだろうが、それはこんな中途半端な気持ちではないだろう。

 やめるという選択肢は、逃げると同義だ。まなうらから消えてくれない幼なじみも、今度こそ愛想を尽くすかも知れない。


 それでも。それでも、努力することに疲れた。結果の出ない練習は、ゴールのないマラソンだ。いつまで頑張れば良いのか、本当にゴールに向かっているのか。もしかしたら逆走しているのではないか。

 疲れ切ってしまったのだ。力なくうなだれたたくまを見て、漠然とわかった。二人で目を見交わす。やるべきことは決まった。あとは実行するだけだ。


「初心忘れるべからず、だっけ? 昔の君を見に行こう!!」

 イスズが腕を引き、ロカが背を押す。

「なっ!? おい、ちょっと待て!」

 たくまの静止など何処吹く風。ひときわ力強くイスズが腕を引いた瞬間、景色が変わった。

 どこかの家の一室。雑多に物が置かれ、生活感があふれている部屋には、今日び見ないブラウン管のテレビが据えられている。

 高画質になれたたくまの目からするとずいぶん粗い画像。その画面を食い入るように見つめていたのは、小学生になりたての――


(俺?)

 たくまだった。

 学校を終えたばかりなのか、ランドセルすら下ろさずテレビにかじりついている。

 目の前に幼い頃の自分がいる。普通ならあり得ない出来事に、なぜかたくまは冷静だった。夢でも見ているかのように現実感がない。あるいは、眼前の幼いたくまと同じ、テレビ画面を眺めているような感覚。どこか判然としない感覚のおかげで、素直に状況を受け入れられた。


 たくまはただ、小学校時の自分を見ているだけ。それだけで特に問題はない。

 気になったのは、幼いたくまが見つめる画面。その内容だ。なにせ児童一人がへばりついているので、よく見えなかったのだ。自らもテレビに近づき、上からのぞき込む。

 映っていたのは、とあるバスケの試合だった。世界の王者を決める大会。それに出場する日本のチーム。

 外国の選手はみな体格がよく、到底闘えるようには思えない。それでもボールを手足のように操り、人の隙間を抜けてゴールを決める。点差なんて関係ない。バスケットゴールにボールを入れる、その瞬間のためだけにコート内を走り、ボールを追う。


(ああ、そっか。俺は)

 ――その姿に魅了されたのだ。

 画面の向こうで繰り広げられる攻防に、幼いたくまは歓声をあげる。ゴールが決まれば腕を振り上げ、外せば声援を送る。どちらのチームが勝っているとか、そんなのは気にしていない。ただボールの行方に一喜一憂する。


(なんだ、簡単じゃねぇか)

 純粋にして単純。ただバスケが好き。

 その思いだけが、少年を支配している。

 その思いだけが、たくまがバスケを続けてきた理由。

 なにも難しく考える必要はない。試合に出られないのは面白くないが、それでバスケをやめるなんてもったいない。バスケは楽しいものだ。いつからか、試合のことばかり考えるようになって、楽しめなくなっていた。


(俺、やっぱバスケ好きなんじゃん)

 ぐるぐる考えていた自分に苦笑がもれる。何を迷っていたのだか。努力する理由も意味もない。楽しいから頑張る。それでいいのだ。

 余計な力が抜けた。幾度か瞬くと、目の前に見習い二人が立っている。白昼夢でも見ていたようだ。わくわくした顔の見習いに、名前と目的以外知らない少女に、笑顔を向ける。

「俺、もう一回頑張るよ!」

 たくまの憂いの晴れた笑顔を見て、イスズとロカもはじけるように笑った。



ここまでお読みくださりありがとうございました。

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