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Q.それは誰かのためですか?  作者: ベジタ某
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プロローグ

初投稿です。よろしくお願いします。

 さわり、さわりと緑が揺れる。涼やかな風の吹くだだっ広い草原に、二つの人影があった。人影以外に建つ物のない、見渡す限りどこまでも平らな緑の絨毯の中で、人影は和やかに談笑していた。


「あなたは知っているかしら? 新しい子が来ること」

 人影の片割れ、月をも呑み込む真夜中の色の髪を持った女が尋ねた。

「ああ、知っているよ。見習いの子だね」


 明けてゆく空を映した、赤みがかった黒髪の男が応える。

 夜色の女は目を眇め、自然に色づいた唇にうっすらと笑みを佩く。明け方の男もまた、期待を隠せない様子で口元をほころばせた。

 もうすぐ、見習いがやってくる。この神を継ぐ、かわいい見習いたちが。


 * * * * * *


 イスズとロカは、息を整えていた。目の前には何の変哲もない門がある。しかし、門の他には何もない。加えて言えば、門の向こう側が見えない。薄ぼんやりとしたもやのようなものが漂っているだけで、門の柱だけが二人の年若い少女の前に存在していた。


「ロカ、いよいよだね……!」

「そうだねぇ、イスズ」


 明るい栗色の髪を顎のラインで切りそろえた快活そうな少女イスズが、緊張を隠せずにささやいた。ロカと呼ばれた少女も、おっとりと垂れたまなじりに不安を滲ませている。

 イスズとロカ、このたびめでたく神見習いとなった二人は、眼前の門から互いの顔へと視線を移し、力強く頷いた。同時に門の向こうへと足を踏み出す。


 いつの間にか閉じていた瞼を開くと、草原が広がっていた。

 視界に入るのはすべて芝生。青々と茂り、そよ風にさやさやとその身を揺らしている。緑一色の世界のなかで、四つ、異なる色彩があった。


 ささやかな風にも軽やかになびく髪は、新月の夜をそのままあてがったかのような漆黒。

 きりりとしながらも優しさを湛える瞳は、暮れていく日を惜しむ空の如き群青色。

 夕暮れから深夜の色彩を纏って凜と立つ、美しき女人がいた。

 山間から昇る朝と陰に残る夜が混じり合う、赤みがかった黒髪は短く整えられている。

 蒼穹と呼ぶにふさわしい澄み切った早朝の空をはめ込んだ瞳は、安心感を与えてくれる。

 夜明けの色に身を染めゆったりと佇む、穏やかな男性がいた。

 二対の視線から、先に我に返ったのはロカだった。


「こんにちは」

 震えそうになるのどを叱咤して、声を張り上げる。その場を支配していた緊張感が緩むのを肌で感じた。

「ようこそ、私たちの領域(せかい)へ」

「待っていたよ、僕らの継嗣」

 女性の凜然とした表情がほどけ、整った面に柔和な笑顔が浮かぶ。見た目の印象通りの穏やかさで、男性が歓迎の意を口にした。


「私の名前はワカ」

「僕の名前はニシキ」

 悠然と名乗ったワカに続き、ニシキも名を告げる。他者に名を教えるなど普段なら蛮行の極みであるが、いとけないとさえ言える見習い相手なら話は別だ。


「あ、あの、私はイスズと言います!」

「私は、ロカです」

 内から来る情熱に押されてつんのめりそうになりながらイスズが名乗り、おっとりとしたペースを崩さずにロカが続く。

 ロカは自分のペースを取り戻し、イスズは緊張ではなく昂揚で胸を高鳴らせる。イスズとロカは、それぞれに夜を纏った二人に近づいていった。


「あなたたちが、神見習いね」

 ワカが質問の形を取った確認をする。

「はい! あなたたちはもしかして?」

 イスズが胸を張って返答し、興奮を隠せぬ様子で問いかける。

「もちろん」

 一度言葉を切り、穏やかな微笑を崩さないニシキと視線を交わす。

「僕たちが神さまだよ」

 ニシキの言葉に、二人の見習いは頬を染めて喜ぶ。喜色満面、と言った様子だ。


「あなたたちは、神になるためには何が必要だと考えているのかしら?」

 はしゃぐ二人へ、ワカが問いかけた。いくら幼く感じようとも、この場に在る以上神を継ぐことは決定事項。その心を説かねばならない。場の空気が張り詰める。

「……お二人の知識?」

下手な返答は許されないと、イスズが慎重に、そして自信なさげに答えた。


「その通――」

 どうやらイスズの答えがお気に召したのはニシキだけだったようだ。肯定しようと飛び出した彼の首根っこを、素早い動きでワカがつかんで引き戻す。

 ニシキの情けない表情と、首をつかまれた猫の子のような姿があいまって、先ほどまで充溢していた緊張感が霧散する。あるいは狙ってやったのかも知れない。

 ワカの後ろにすごすごと下がるあたり、本気で正解だと思った可能性も否定できないが。

「神になるための条件はとても簡単なのよ」

 ニシキのことなどなかったかのようにワカが笑いかける。


「それは何ですか?」

 ワカの優しい微笑に押されて、ロカが素直に尋ねた。わからないことを恥じずに直截に聞くことができるのは美点だ。ワカが笑みをふかめた。

「それはね……」

「人を笑わせる、それだけさ!!」

 先ほど後ろに下がったのを忘れたのか、ワカを押しのけるようにして、ニシキが前に出た。草原に吹く風のごときさわやかな笑みをあふれさせ、高らかに告げる。獲物を見つけた猛禽のごとき俊敏さで、ワカがニシキの胸ぐらをつかんだ。首根っこのような優しさはなく、身長差ゆえに下から見上げる形でありながら、ニシキを威圧した。降参を示すように諸手を挙げたニシキを、放すまえに一睨みしてから解放する。

 ニシキを威圧したワカの迫力は空恐ろしいものがあったが、幸いにして二人の見習いはニシキの言葉を理解するのに忙しかったようだ。


「人を、笑わせる」

「笑顔にするんですね」

 かみしめるようにつぶやいたイスズに、ロカが同意を求めて神を見る。

「そういうことよ。じゃあ、早速だけどいってらっしゃい!」

 軽く頷きを返し、門を指さす。やはり門の向こう側は見えない。

「「いってきます!!」」

 今度は臆することなく、イスズとロカ、二人の若き見習いは先達に背を向け、先の見えぬ門をくぐった。


ここまでお読みくださりありがとうございました。

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