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リバース

作者: 飾緑舞

 この話は、はじめのうちは秘密にしておこうと思ったんだが、俺だけで抱えるにはあまりに重かった。日を追うごとに精神が病んでいくような気分だ。ひょっとしたら、俺は最初のあの事件から既に狂っているのかもしれない。

 とにかく、俺はこの気持ち悪さを洗いざらい吐き出して、少しでも気持ちを落ち着けたいんだ。別に、親身になってアドバイスしてくれってんじゃない。興味本位でもいいから、誰かに聞いてほしいんだ。

 できるだけ簡潔に話すから、どうかしばらく付き合ってくれ。



 俺はあの日、Aと一緒にとある心霊スポットに向かったんだ。

 Aってのは俺の友達…もっと言えば悪友ってとこだな。俺たちは大学生になってからすぐに仲良くなって、よく遊びに出掛けてた。

 それで、2年生になると、大学生活にも慣れきってさ、それまでなら避けるようなことまでやるようになったんだよ。この日も、幽霊がいるってなら見てやろうじゃねえか、みたいな、大学生にありがちなノリで決まったんだ。


 その心霊スポットなんだが、別にそこまで有名なところじゃない。俺もAも本当に幽霊が存在するなんて思っちゃいなかったし、ガソリン代を気にしてあんまり遠くには行きたくなかったのな。それで、地元で最近耳にするようになった、山奥の廃れた神社に行くことにした。

 神社までは俺の車で行ったんだが、道は悪いし、周りも木が茂って暗くてさ、雰囲気出すぎで2人とも変にテンション上がってやべえだの怖えだの言って笑ってた。

 神社に行くには道路脇から続く階段を上っていく必要があったから、俺たちは車を道端に止めて神社に向かった。

 神社そのものも、特に変わったところはなかった。想像以上にボロボロで、逆に風情みたいなのは感じたな。もう秋の終わりだったし、落ち葉の量もすごかった。


 境内をしばらく散策してたんだけど、隅の方の、人目につかない場所で、小さい祠みたいなのを見つけたんだ。小動物の家みたいなサイズの、神社のミニチュアみたいなのがあって、扉にお札がいっぱい貼ってあった。もちろん俺らは興奮してたよ。それは俺が見つけたんだけど、我ながらよく見つけたなってくらいわかりづらかったし、あまりにもそれっぽい見た目してたしな。

 んで、当然のように、それを開けてみようって話になった。Aが自分が開けたいって言ったから、俺も許可して、Aは扉を開けようとした。でも、扉は固く閉じられてて、明らかに誰かの意思で開かないようにされているって感じだった。その時点でなんか嫌な予感がして、やめとこうぜ、って言ったんだよ。でも、Aは興が乗ってきたみたいで、手頃な石でガツンガツンやり始めた。もちろん、木製の扉はその衝撃に耐えられるはずもなく、すぐに破壊された。

 中には何もなかった。2人で、つまんねーって言ってたけど、俺は正直心の中では何もなくてよかった、って思ってたよ。


 でも、今思えば、違ったんだ。そこには何かがあったんだ。


 祠から離れて、またしばらく境内の探索をしてたけど、結局祠の他にはめぼしいものはなかった。拍子抜けした感じはあったけど、まあ、肝試しなんてこんなもんか、って思って、帰ることにした。


 そして、階段に差し掛かったところで事件は起きた。

 階段を1人で上ってくる人間がいたんだ。まあ、俺らみたいに心霊目当ての人だろうな、と思って階段を下り始めた。そうしたら、足音で俺らの存在に気が付いたのか、クワッとこっち見上げてさ、ニヤって笑ったんだよ。んで、コートのポケットから何かを取り出した。それが何なのか、瞬時に理解できなかったね。だって、いきなり通行人がナイフを取り出すなんて思わないだろ。

 脳が状況を理解したところで、2人ほとんど同時に後ろを向いて走り出した。ナイフを持った男は、ウォォとかそんな感じで叫んで、追いかけてきた。

 しばらく走ったところで、Aが転んだ。多分、落ち葉で足を滑らせたんだろう。俺はAを起こそうと立ち止まって振り向いたんだが、男がすぐ近くにいて、頭が真っ白になった。


 その後のことは、よく覚えていない。Aが何か叫んでいたような気がするが、言葉として頭に入ってきて来なかったように思う。気が付いたら麓のコンビニにいた。

 そこで、しまったと思った。自分が嫌になった。俺は親友を見捨てて逃げてきたんだ。

 取り返しのつかないことをしてしまったと思いつつも、すぐに神社へ引き返した。


 Aは死んでいた。

 ちょうど神社の真ん中あたりで血の海に沈み、こっちに虚ろな目を向けていた。

 泣いて、吐いて、泣いた。最悪の気分だった。液体でぐちゃぐちゃになりながら、Aに謝り続けた。


 その後、まだ男が近くにいるかもしれなかったから、また麓のコンビニまで戻って、警察に通報した。警察が到着した頃には、既に日が暮れかかっていた。

 警察と一緒に現場まで向かった。またAの死体を見なきゃいけないと思うと、吐き気がこみ上げてきた。あの時見た虚ろな目が、俺への恨みがこもったようなあの目が、頭から離れなかった。

 でも、次に俺が死体を見たとき、感じたのは驚愕だった。そこにいたのはAではなかった。あのナイフで襲いかかってきた男が、血溜まりに転がってた。自分の目が信じられなかった。あの時死んでいたのは確かにAだった。そう警察に訴えたが、興奮していて勘違いをしていたんだろうと言われて取り合ってもらえなかった。


 結局、その日は後のことは警察に任せて自宅に帰った。途中でAの住む部屋に寄ったが、Aはいなかった。そりゃあそうさ、Aは死んだんだから。


 その晩、寝ようとしてベッドに潜ると、瞼の裏の暗闇の中に、あのAの顔が頭に浮かんできた。すぐ近くにAがいるような気がして、起き上がって周りを見たけど、誰もいなかった。額に汗を浮かべながら、なんとか俺は眠りについた。


 次の日も、その次の日も、Aと連絡を取ることはできなかった。

 新聞では、〇〇町で行方不明になっていた男が遺体で発見されたと報じられていた。


 さらに翌日、Aからメールが来た。〇〇で会えない?という内容だった。俺はすぐに身支度をし、家を飛び出した。

 そこにはAがいた。まさか、と思った。そして、その格好を見て鳥肌がたった。Aの着ていたコートは、あの男が着ていたものだった。


 あの日のことをAに尋ねたが、Aはそんなことはなかったと言って笑った。夢でも見ていたんじゃないかと言われた。ならあの日何をやっていたんだと聞くと、覚えていないと言う。ここ2日間のことを聞いても、返事は同じだった。ふざけている。もしかしたら、記憶喪失なのかもしれないと、医者に連れて行こうとしたが、逆に俺の頭がおかしいんじゃないかと言われ、行こうとしなかった。


 その日、Aはごく自然に、あそこへ行こうとか、あれやろうとか言って俺を連れ回した。その様子は、今までの俺たちとなんら変わりなかったと思う。ただ一つ、Aの格好を除いて。


 自宅へ戻ってから、あの男について調べた。案の定、捜索願が出ていたということで、警察が特徴を公開していた。

 そこのある部分、「茶色のトレンチコート」という部分に目が釘付けになる。やっぱり、あれはあの男の着ていたコートだ。今までAがコートを着ていたところは見たことがない。あの日だって、着ていたのはジャンパーだった。

 そこまで考えて、ふと、警察と一緒に見た、あの男の死体は何を着ていただろうと思い返した。顔に気を取られて、服装まで頭が回っていなかった気がした。警察に電話してみたが、詳しい情報は教えられないと言われ、結局その事実はわからない。


 それから2ヶ月ほど経ち、今、俺はこうしてこの話をしている。

 最近俺は、ある恐怖を感じながら毎日を過ごしている。それは、Aの亡霊が、自分を見殺しにした俺に復讐するために、ああして蘇ったんじゃないかってことだ。でも、Aには全くおかしなところはない。

 対する俺は、毎晩のように、Aの死に顔を思い出す。まるで俺だけがおかしいみたいだ。でも、絶対にAは1度死んだ。そう信じている。いや、信じていないと、いよいよ我を失ってしまいそうだ。


 もう一つ思うことがある。

 あの事件から1週間ほどしてから、俺はあの祠のことを思い出した。もしかしたら、あの祠に封印されていた何かが、今回の奇怪な現象を起こしたのかもしれない。Aはそのせいで、ゾンビになってしまったのかもしれない。

 そして、あの場にいたのはAだけではない。


 もし俺が死んだ時、俺はいったい…。

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