不安になる夢
その時、俺は人ごみの中にいた。
大勢の人で賑わう市場にいた。
「……あれ?」
ふと、大事な事を思い出した。
俺は、誰かと一緒にここに来ている。
そして、その誰かとはぐれてしまった。
それが解った途端、とてつもなく不安になってきた。
辺りを見渡しても、見知らぬ人だらけで、焦りが募る。
人をかき分け、進もうとするが、人以外に何も見えてこない。
その時、誰かに手を掴まれた―――。
「……! 起きなさい!」
「!!」
次の瞬間、俺は自分の机の椅子に座っていた。
……どうやら、突っ伏して寝ていたらしい。
「あんた、大丈夫? うなされてたわよ……」
母親が心配そうに顔を覗き込んだ。
「だ、大丈夫……多分」
「また悪夢? ここのところ多いって……」
「いや、今のは、ちょっと毛色が違う」
ここ最近、悪夢にうなされることが多くなった。普通の人なら、気のせいとか、心理的な問題で済むかもしれないが、寝ると必ず夢を見るこの体質だと、少し不安になる。
夢を見るのが怖くて、勉強をしたりして眠らないようにしようとしたのだが、睡魔には勝てず、運悪く眠ってしまった。ノートにミミズが這った様な線がある。
「無理は良くないよ、早いうちに爺ちゃんに相談しよう?」
「うん……」
この体質の事が解る祖父に相談しようという事になったのだが、未だに実現出来ていないでいる。
理由は、三日前に入ったとある知らせによるものだった。
「……叔父さん、まだ目覚めてないのか?」
母親に訊くと、暗い顔をして頷いた。
叔父さん……正確には母の弟が、とある事情で現在病院にいるのだが、意識不明らしい。叔父さんの父である祖父にも話が行き、向こうは向こうでバタバタしているそうだ。
「夢……見てるのかな、あいつ」
母の言葉にハッとした。
夢は、目覚めれば終わる。
でも、叔父さんは、意識不明……夢を、見続けている。
終わらない悪夢を見ているのかもしれない……。
「叔父さんの所に行く」
「え?」
立ち上がって身支度を始めた。
「叔父さんを一人ぼっちには出来ない……」
「……ちょっと待ってなさい、車用意するから」
急いで部屋を出て行った。