奪われし者
その昔、大陸最北端の地に一つの小さな国があった。国家の歴史を辿れば、別の大陸より渡ってきた異民族らによって成立したとされているが、証拠となる文献は、今はどことも知れない。
唯一の証と呼べるものは彼らの底知れない生命力というでもいうのだろうか、国家成立より十数年の後、血も凍るような北端の地を逃れるべく、大陸史上類を見ない灼熱の闘争心でもって均衡状態にあった大陸国家を次々と征服していったのだ。彼らの王は自らを大陸の皇帝と称し、小国家時代の国号を廃し、自らの支配圏全てを含んだ《帝国》として一大帝国を創り上げたのだ。
時を遡ること百三十年。後に帝国大躍進時代と呼ばれる戦国時代の到来であった。
北方最大の国家にまで支配圏を広げた帝国は、立ちはだかる国を討ち滅ぼし、征服しながら東の海岸沿いに遥か南の地を目指した。大陸東南の端までを帝国領とする頃には、もはや比類しうる敵は皆無であったかに思われたが、帝国による大陸中央進出は国土にして十分の一以下の矮小なる国家によって阻まれたのである。
帝国大躍進時代に突入してちょうど五十年という節目となるはずだった年のこと。これまで群雄割拠たる大陸中央を統べ続けていた大国、《黄櫨染》の<魔軍>を前に帝国は大敗を喫することとなった。そうして帝国の攻勢が一時の衰えをみせた合間、黄櫨染は、西側に国境を接する《蒼の皇国》との軍事同盟を締結したのだ。蒼の皇国は大陸最長の歴史をもち、その軍事力は黄櫨染と双璧を成す紛れも無い強国であった。
これを契機に帝国は領土拡大政策を取りやめ、帝国大躍進時代はここに一応の幕を閉じたのである。
『近代大陸史――現代版――』より
「つまらんものを……」
枢姫は鳳明から譲り受けた書物を脇へ投げて、三日前のことを思い起こす。
鳳明の使いは、驚くくらいすんなりと終えることができた。拍子抜けともいっていい。
幽霊じみた挙動の司書長、地下をうろつく繁殖力旺盛な例の昆虫に驚きはしたけれど、枢姫の素直な感想としてはその程度に収まるだろう簡単なものであった。
そして現在、枢姫と清正は皇国北部に位置する《伍之都》へと舞い戻っていた。
皇国北部と一口に言ってもその範囲は人間から見れば広大だ。
《北壁》――神秘の護壁――が実際には皇国西端部から北部へ、そして北部東方にまで山脈の如くそびえるように、<北方異変>は北部西方というべき一帯で起きたものだ。伍之都は大陸中央寄り、皇国北部、東側にあるため、異変の地との間には直線距離にしておよそ二百キロメートル以上もの開きがあった。しかも間には三つもの山を隔てていることから、山道に慣れている人間でも片道で一週間はかかるだろう道のりだ。
故に《伍之都》では北方異変など遠国の噂のように語られるだけで、特別な影響は全くない。活気ある大通りに陰りが無いことからそれは明らかであった。
不規則に並びながらも凹凸のない石畳が敷かれた大通りをゆく馬車の御者台から、枢姫は珍物鑑賞でもするかのように呆れ半分に目を細めた。
「異様よなぁ」
というのも獅子の頭部と山羊の胴体が同居するような不均衡で形成される街並みを指してのこと。
皇国主要都市における主流、瓦屋根を持つ書院造の建築物がある一方で、帝国流の建築様式を取り入れたレンガを主体とした異国風の建築物が同居する街並み。近年は文化面の発展から、彫刻のように洗練された装飾が取り入れられた建築物や看板も目立つようになった。
人に目を向ければ、着物に帯という皇国民衆の衣から、ブーツを靴として南瓜状のパンツに、丈が長く裾口が開いた上品かつ動き易い帝国風の服装。さらには甲冑を着こんだ騎士、袴に刀を差した剣客、大荷物を背負った冒険者風の装い等、ここはどこの国だろうかと言わんばかりの文化のるつぼが広がっていた。
「帝国と国境を境にするからこその繁栄です。戦争の時代が過ぎ去って六十年、平和の証ですよ」
枢姫の隣り、馬の手綱を握る清正は朗らかに言い切った。というのも、宮廷にいるときの枢姫から発せられていた息詰まる緊迫感から解放されたことが一番の要因であった。
「まこと奇妙よな。帝国による被害を最も受けた都市が、帝国と最も深い交流を持つに至った。こういうのを近接の要因というのだったか」
「なんですって」と清正は聞き返す。
「南蛮における心の学問よ、近しい者同士が結びつく理のことだ。それも最初の内だけで、最終的には類似性の要因から似た嗜好、習慣を持つ者同士で集団を形成するそうだ。今の段階はまだ上っ面の付き合いに過ぎないのかもしれんぞ」
「上っ面だなんて……。そうだというのなら、こうまでの発展はあり得ません! 地理的要因とかいう上っ面ではなくてですね、もっと根本――思いやりで繋がった人の和によって、国と人種を超えた平和があるのですよ。きっとそうです!」
枢姫は清正の、それこそ上っ面の言葉を見抜いて「どうした、清正よ。不安症のお前にしてはえらく楽観的じゃないかの」と、にやり笑った。
強気で朗らかだった表情が軋むと、清正は大きく息を吸ってから癇癪を起こしたように大きく手を振った。
「楽観的にだってなりますよ。帝国による皇国弱体化政策だとか、思想侵略だとか、民族浄化だとか――考えればきりがないんですよ。でも僕は殿下の単なる側近ですからね、政治をやるわけじゃないんですから、いらない不安を抱えたくはないんです!」
「考えておるではないか」と枢姫はいじめっ子のように微笑んで清正の耳を引っ張った。「《帝国》が条約を破って侵略行動に出たらどうする。《緋桜の国》が協定を破棄して攻めこんできたら、南蛮から異邦人が攻めてきたら、《霊妙之森》から百鬼夜行が如き物の怪がやってきたら――――どうする、清正?」
「やめてくださいよ!」
清正がのけぞるのを見てから、枢姫は御者台の背もたれに寄りかかった。
「ま、清正の言う通りではある。余が帝位を継承することはないからの、いらん心配をする必要はない。政治は元叡斎の爺様らに任せればよい」
「なら、<北方異変>の調査に介入する必要もないでしょう。あれは公安の仕事、殿下の責務の範囲外です」
「責務の範囲外、とな。帝位こそつかないが、余は皇女であるぞ。皇国の為に動くということ以外、他に理由がいるか」
「皇女としての御自覚があるのなら、ご自身を『余』などと言わないでください、それは皇帝陛下にこそ相応しいものです。殿下ならもっと御淑やかで、奥手をイメージして『妾』なんてのはどうです。『私』でもよろしいのではないですか、ご令嬢のようで可愛らしいですよ」
「父上は自らを『朕』としたのだ、余が『余』を自称してもなんら問題はなかろう」
「そういうことではなくて、自身のお役目を考えてください、ということです。それにですね、いい加減、御父上――皇帝陛下への対抗心もどうにかしてくださいよ」
すると枢姫は「うるさいのー」とゴロンと身を転がした。宮廷を離れているからの気楽なサマであった。
清正も不機嫌よりはいいかと、それ以上は言葉を続けなかった。
しばらくして、北の都の郊外にどっしりと構える、広大な敷地を占有する赤煉瓦の屋敷が視界に入る。その頃になると周囲に人影は一つもなくなっていた。
この屋敷もまた帝国風の装いではあったが、周囲を囲む煉瓦の門は牙城のように強固で、壁に沿って伝う茨は街中にはない趣を放っている。石畳の街道をまっすぐ進んでいくと、堅牢な鉄格子の扉がゆっくりと開かれ、枢姫と清正は当然のように茨で装飾された門をくぐりぬけた。
二人を出迎えるように、邸宅へと続く沿道に女性の姿があった。
「お帰りなさいませ、劉枢様、清正様」
赤い髪の毛を後ろで三つ編みにした青い着物姿の女性が、奥ゆかしく頭を下げた。
「おう、来栖。今帰ったぞ」
「ただいま戻りました」
枢姫は馬車を飛び下りて、すらりと背の高い女性を見上げる。彼女の名は来栖。枢姫の屋敷にて奉公する数少ない女中、いわゆるメイドの一人だ。
来栖は青白い目元すら好印象に転換できるだろう柔らかな微笑みでもって応えてから、枢姫の羽織りものをそっと手に取った。
「婦長様がカンカンですよ。『御召し物を脱ぎ散らかして出かけるなんて』と」
「う、むぅ。いや、急いでいたのでつい……。一週間も前のことをまだ怒っておるのか。清正、なんとかせい」
涼しげな着物姿となった枢姫から助けを請われた清正は「椿さんには怒られるしかありませんよ。それにあの時僕は注意しましたからね。聞かなかった殿下が悪いですよ」と素っ気なく振舞う。怒られるべき時には怒られるべきなのだ。
枢姫は「うぐぅ」と息を詰まらせるが、かぶりを振って四面楚歌を脱する。
「椿のことはもう良い。アカメぞ、アカメはどこにおる!」
「あの子ですか?」と来栖は俯くと「今もまだ部屋に籠りきりです……。食事は相変わらず離乳食でなんとかして、毎日お風呂には入れているのですが、やはり全く反応してくれません」と自らの髪を物憂げにこねくり回した。
枢姫は「うむ!」とだけ答えると、草履を脱ぎ捨てて、足袋のまま少年の部屋めがけて駆け出した。
「殿下、履き物を! まだ外ですよ!」
清正は草履を回収して、来栖に「すみません、先に行きます。馬車の中に洗濯物を詰めた鞄があるので」と言い残してから枢姫を追う。
来栖は、折りたたんだ羽織りものを抱えて「清正さんも大変ね」と溜息をついた。
広い屋敷の中は通路に赤い絨毯が敷かれ、廊下には一定の間隔で奇妙な骨董品が置かれている。
奇妙というのは外見だけにあらず。例えば玄関口に置かれている“獅子が遠吠えをしている形の壺”は活けた花をばりばりと貪るし、清正の個室前に飾られている“武闘家を模った置物”は「後の先を取る」とか「お前の命はあと三秒」だとか渋い声で話しかけてきて、来栖に与えられた個室の前には“南国音頭の衣装に身を包んだ中年男性像”が鶴の舞を踊りだしたりと、法術による細工が施されたものが多数屋敷内に飾られていた。誰でもない、館の主人たる枢姫の趣味だ。
「ほんと、どうしてこんな物ばかりを……」
<法術>というのは<魔の理法>、即ち<物の法則>とは異なる人間精神に類するものを、ある法則によって具現する皇国独自の技術である。
この“人間精神に類する”という点は、<魔の理法>というものを嫌悪している清正でも理解できる。というよりも、理解したからこそ強い拒絶反応を示していた。
知性や悟性ではなく、もっと根源的な、本能だとか感性に訴えかけてくる感覚がそれだ。
――――男の下劣な情欲と女の打算的な愛欲が混じり合う感覚に似たモノ。
屋敷を覆う結界や飾られている品々からは感じないが、清正はそういった感覚に巡り合って以来、法術とか魔法――<魔の理法>の略称――には二度と深入りしないことを心に刻みつけたのだ。
清正は近くに置かれていた少女型の模型――小悪魔な性格のようでたまにセクシーボイスで誘惑してくる――を一瞥して、ため息をつきつつ件の部屋の扉を二度叩く。中から返事はない、鍵もかかってはいない。
「開けますよ」
清正は一応、中の住人に許可を求めてからドアノブを捻る。扉が開き切るよりも前に、枢姫は清正の背中を突き飛ばして室内へ飛び込んでいった。
「アカメよ、今帰ったぞ!」
開け放たれたドアが音を立てて跳ね返り、ギイギイとうめき声をあげる。
一緒に突き飛ばされた清正もまた似たようなうめき声をあげる。手で押さえた鼻元からは赤い液体がこぼれ出ていた。
「殿下……。僕これ、酷い鼻血ですよ。ほら見てください、絨毯が真っ赤ですよ。すごく痛い、歯が欠けたかも……」
「やかましいわ! 女々しいぞ清正。アカメが怖がるであろう、向こうへ行っておれ」
清正は「情けはないのですか」と肩を落としつつ立ち上がる。顔をあげた先、緑の絨毯が敷かれた二十畳ばかりの室内は子供部屋の趣意から成っていた。
部屋の脇には絵本や積木などの玩具が整頓されており、寝台に備え付けられている天井には星や鈴が吊るされ、出窓には犬猫の可愛らしい面を強調した装飾が施されたレースのカーテンなど。どれもこれもが、幼子を楽しませる目的でもって設置されていた。
枢姫は部屋の中央にてでかでかとした存在感を放つ寝台に飛び乗ると、寝台の中央で小さく丸くなっている少年の頭に手をやった。少年の斑状に黒い髪の毛ががさがさと音を立てる。
「おお、おお。寂しかったろうに」
いい子いい子と撫でられても、少年は反応を示さない。枢姫の後ろに、鼻に詰め物をした清正が立ってもピクリとも動かない。
清正は膝を抱えて動かない少年を覗き見て「どうしてアカメなんです」と問う。
枢姫は、少年のぼうぼうに茂った髪の毛を手でかき分けて「ほれ、こやつの瞳をよく見てみろ」と、その十歳ばかりの童顔を指す。
清正にはその二つの球体が、底の見えない巨大な穴に見えた。失意の瞳――そういうのが似合わない年頃なのに、それこそが少年に最も馴染んでいるように思えた。
「黒いですね。皇国における一般的なものです」
「目を離すな、もっとよく見てみい。じっと、ほれ」
清正はじっと少年の目を見る。少年もまたこちらを覗いているようであった。
みずみずしい眼球、虹彩は黒く角膜は真ん丸、底のない瞳孔は正常。充血した様子はない。まつ毛は長いというほどない。
とりたてて目を見張るような事柄はない。そう目を離そうとした清正の目の前で、変化が起きた。
少年の瞳がどろりと赤く濁ったのだ。それは血のように鮮やかな赤で、黒と赤とで融合することなく、水の中に溶かした絵具のように入り混じっている。
「こやつの瞳は赤く濁るのだ。濁るというよりは澄むというべきなのだろうが……。ともかく、故に“赤目”よ」
枢姫は大げさかつ自慢げに胸を張った。
「名乗らないからって、勝手に名前を付けるのはどうかと思いますよ」
「しかし、こやつは気に入っておるようだぞ。のう、アカメよ」
枢姫がうきうきと語る傍ら、清正は「ホントかなぁ」と首を傾げた。
北方異変の地で保護した少年――アカメを屋敷においてから既に一週間と半分が経過しようとしていた。彼は発見したときから変わらず、無反応無感動で一言も言葉を発しない。自ら食事をすることも無く、また糞尿も垂れ流しで膝を抱えて丸くなっているばかりであった。しかも常に体を小刻みに震わせている。
アカメの怯える様は、異変の地で何かを見たがゆえのもの――清正はそうあたりをつけていた。
「<北方異変>か」
清正がこの案件を考えるとき、きまって頭を過ぎるのはとある夢。
松明の灯りを目印に、薄紅の触手が村の男たちを絡め取って引きずりこむ、あの闇夜の集落における惨劇。山道を逃げる女子供の匂いを追い、周辺の森を消し去り、獲物を捕まえて喰らった、あの強欲な様。
奇妙なのは、呑み込まれていく彼らと、呑み込んだ自分。両者の感情が、かくも鮮明に脳裏に思い起こせる点。心臓が張り裂ける恐怖心と、痙攣を伴う精通じみた快感……。
混じり合う感情が罪悪感へ変わり吐き気を催す。
「……やめよう」
これ以上はよくないと清正は汗を拭って枢姫らのいる光景に戻る。
枢姫は覆いかぶさるようにして親愛の情を表わしているというのに、アカメは全く反応を示さない。清正には過剰な触れ合いに映った。
「殿下、それはやりすぎではないですか」
「何を言う、傷ついた心を癒すにはこれぐらいがちょうどいいものよ」
「そういうことではなくてですね……」
清正は言葉に詰まった。
万が一ともいうべき懸念あった。
アカメこそが<北方異変>の確信に至る――いや。もはや異変を引き起こした脅威そのものではないかという蜘蛛の糸ほどにか細い直感があった。異変の終点にいたから怪しいというものでなくて、論理や五感には属さない、自身の精神からの警告であった。
枢姫はアカメに対して実の兄弟、姉妹以上の愛着を示しているように思えた。おそらく身分というしがらみに捉われないアカメの立場が、枢姫にそこまでの愛着を持たせているのだろう。母親の面影か、アカメは無表情ながら愛嬌のある顔つきでもある。
故に、その万が一を告げるべきなのかどうなのかという葛藤が清正の言葉を阻み、最後には途絶えさせた。
清正は髪の毛を七三に整えて居直る。
「それで、この、アカメ君? ちゃん? ――この子より以前に保護された生存者二名はいつ頃到着すると?」
「明後日には到着するとのことだ。生存者のうち一方はアカメと同年代だと聞く」
枢姫は日向に転がる猫のように表情を緩めると、アカメに抱き付いて「よかったの、アカメよ。友達に会えるぞ」と激しく頬をこすりつけた。
清正は年相応の少女の姿に和みつつも、付き人として「落ち着いてください、殿下」と制止を促すが、そんなものまるで届かないようで、枢姫は思いついたようにアカメと目を合わせた。
「さて、そうなるとおめかししなくてはな。衣は清正のお下がりにするか? いや、新調してやろう。良い職人を知っておる。一日もあればそれなりの物ができよう。せっかくだ、赤い目を生かすように帝国貴族風に仕上げてみるか、ん?」
頭の先からつま先までを眺めながらうんうん頭を悩ませる枢姫の姿は、いつになく輝いている。
とやかく言うべきではないなと、清正は「じゃあ、僕は来栖さんのお手伝いに行きますから」と出口の方へ足を向ける。
枢姫からの返事はない。アカメに夢中のようで、今度は髪の毛に触れていた。清正はとうとう視線を切って「では」と扉の方へ足を進めた。
「髪の毛は来栖に切ってもらうがよい。一層愛らしくなるぞ」
しかし、枢姫のそんな言葉に続けて、乾いた破裂音が室内に木霊した。
清正がはっとして枢姫のほうに目をやると、体勢を崩した枢姫と、手を振り切ったのだろう体勢の少年――アカメの体が荒く上下している。
清正は護身用の短刀を懐から取り出して枢姫の背後につくが、そんなものは必要なかった。
「 」
目に見えるほどに震えるアカメの口がぼそぼそと動く。何事かを呟いているようだ。それは笛から空気が抜け出ているかのような、ただの隙間風にしか聞こえなかった。
枢姫が耳を寄せたのに続いて、清正も足音を立てないようにそっと近寄る。
そしてかすれ気味で、涙に震えるかのような言葉が紡ぎだされた。
「……また、おれからうばうのか」