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Bitter end to me

初恋バレンタイン執筆から約4年。ふと書いてみた、そんな作品です。

 恋は、みんな身勝手だ。

 身勝手だから、片想いなんて言葉があって。

 身勝手だから、両想いでもダメになってしまう、なんてこともあって。

 身勝手だから、ダメだと分かっていても恋をしてしまう。

 私がしたのはそういう恋。

 身勝手で、どうしようもなくて、きっと実らない。

 そういう恋。


「優梨ー、英語のプリント見せてー」

 私、井上綾はぐったりと腕を垂らし、寝る寸前の体勢で気怠そうに呟く。私の親友である優梨は前の席から、

「あれくらい、前日までにやっときなよ、綾」

と律儀に答えてくれた。

 私はややぞんざいに、

「うるさぁい」

と文句で返す。なにかの負け惜しみかもしれない。

 腕を軽く振り回し、軽いノリだとアピールする。

 優梨はあきれたように、言った。

「私の劇部だって来週公演だし、これでも大変なのよ」

「ふぅん。まぁ、部活サボってでも、あたしだけは見に行ってやるから、安心しろ」

 私がそう返してやると、優梨は「はいはい」と苦笑しながらプリントをよこしてくれた。

 私は短く「あんがと」と返すのだった。

 私はそのお礼というか、私なりに構ってやろう、と思って、

「そいや、委員長とはどうなったぁ?」

と優梨にしか聞こえないくらいの声で聞いてみた。

 優梨は「なんのこと?」と疑問符を掲げている。オイオイオイ。

 私は軽く恨めしく思いながら、バッと顔を上げ、念のため声の大きさに更に注意して言った。

「図書委員長」

 そこまで言って意味を理解したのか、彼女はみるみるうちに頬を染める。これが彼女にとっては初恋なのは知ってるけど、いろいろと大丈夫だろうか、と不安になる。どうでもいいクラスメイトとか、彼に彼女の恋が知られてないか、と。

「なな、なにも。前に話した……っきり」

 そう言って彼女は、私にまでそっぽを向こうとする。私は初恋の時でもそこまで恥ずかしくなかったと思うけど、なんて考えてしまう。

「それに、あの時話せただけで、「十分なんて言っちゃダメよ、優梨」

 予想通りの言葉だったから、つい被せてしまった。しかも勢い余って前のめりで。ドスの効いた声にまで、なってしまっている。

 私は自分を落ち着かせようと、優梨に聞こえないくらいに小さく短く呼吸をして、続ける。

「名前も学年さえ知らなかった関係が、やっと話せるようになったんでしょ。だいたい、それだって何ヵ月かかって……」

「は、半年……」

 私はわざと大きなため息をつき、大げさに降参のポーズを取った。

「今時、こんな乙女、ほんっとどこ探してもいないでしょうね」

「べ、別に……乙女とかじゃなくて、必死なだけだもん」

「その発言だけで、すでに乙女よ。だいたい、最近急に昼ご飯の弁当畳むの早くなって、どうしたのかと思いきや、図書委員で見つけた好きな人に会いに行ってただけなんて。今、全世界に問うたら、満場一致で乙女判決が下るわ」

 大好きな『図書館戦争』の柴崎麻子のマネをしてみる。やっぱりこんな台詞かっこいいなぁ、と思いつつ。自画自賛だ。いっそ原作みたいに、このまま窓から叫んでやろうか。

 とはいえ、これ以上口を滑らせるわけにはいかない。だから最後はボソッと、

「バレンタインデー、考えときなよ。乙女にはもってこいの”言いに行く”日なんだからね」

とだけ言っておいた。それも柴崎のマネで、彼も好きなのかもしれない登場人物のマネだった。

 そんなことを言いながら、私も自分の恋に踏ん切りをつけないとな、と本気で感じていた。

 バレンタインデーだからではない。

 親友が告白する相手は、――私の好きな人なのだから。


 私と彼は、高校一年の最初の委員会がともに図書委員会だった。そこで私たちは息が合い、図書室での当番が一緒になることも多く、仕事の上で助けてもらったこともあった。だから他の男子より話す機会は多かったし、距離が近かったのは自覚していた。お互いに友達として気楽だったのだ。でも高校という環境で、やはり関係を勘違いされ、噂になったことがある。その期間は短かったし、せいぜい図書委員会内での話だった。だから、優梨はそれを知らない。そして当時の私はそういう関係になろうとは思わなかったし、彼も思わなかったようだ。

 私は彼に対して、友達としての好意はあった。その自覚はあったのだ。でも、それが本当は恋愛感情だとか、もしくはいつの間にか変化していたなんて気付いていなかった。気付かせたのは、ほかならぬ優梨だった。


 高二の秋から優梨が昼食を早く片付けるようになっていた。最初の数日は、ダイエットにでも目覚めたかと適当に考えていたが、それにしては期間が長い。どこかから帰ってきた優梨の表情には、変化があったことに気がついた。

 そこで私は優梨の後をつけてみた。まぁ、彼女はまっすぐ進んでいったので、簡単についていくだけだ。そして彼女が行き着いたのは、私が図書委員を辞めて以来久々に足を踏み入れることになる図書室で。行動を見る限り、彼に会いに行っていたと知った。その一連の行動を見て、私は彼女の恋心を察したのだった。

 まずは感心した。彼の良さは私も十二分に知っているから。

 私は優梨を親友であり妹のように感じている。私の昔持っていた純粋さを彼女から感じ、私は彼女のそれを大切にして欲しいと思っている。そういう面を持つ優梨を、彼なら任せられる。そう思った。親友としてよかった、と。

 だが、そこで私は一度立ち止まる。彼なら優梨を任せられる。けど、優梨に彼を任せるか……それは……………………。

 自分の中で黒い感情がほんの一瞬だけ芽生えたことを、私は見逃さなかった。その感情にひどく罪悪感を感じたのも、ちゃんと、本音で。私は親友に嫉妬を覚えたのだった。

 嫉妬を覚えたことで私は気付く。

 私も、私が、彼に恋をしていると。

 そして私は、してはいけない恋をした。


 恋愛はタイミングだ。最初に告白したやつが本命と戦う権利がある。そんな言葉を知っている。告白をするなら、早くしたほうがいい。状況を見て、肯定をもらえそうな段階を見極めることが必要だ。他に取られる、その前に。

 けど、好きになるタイミングなんて自分では選べないし、まず私は優梨に打ち明けようかと考えた。

 ――せめて彼女より先手を打てば、私が彼を好きだと言えば、彼女は折れて私に譲ってくれるかもしれない。

 ――いいや、それではちゃんと戦うことにはならないし、私も優梨も、彼に恋をする権利はある。

 ――でもこのまま取られてもいいの? 敵はなるべく作ってはダメ。ライバルになりそうなら、土俵にすら上げなければ楽に告白まで彼を独り占めできる。彼女に取られる心配は、一気になくなる。

 ――それでも優梨とケンカするとか、それを理由に仲が悪くなるとか絶対に嫌だ。

 思考の迷路は私を閉じ込め、それでも抜け出そうと、優梨に告げる言葉をずっとずっと考えていた。だけど、

「その、私、好きな人できたん……だ……」

 優梨はある日、突然そう言った。完全に意表を突かれた。

 私は急ピッチで頭を回転させる。

 ――私も、なの。

 そう言い出せるのはきっと今だけだ!そう思った。

 けど、言えなかった。彼女の乙女らしい純粋な恋まっしぐらな優梨を見て、私はいつの間にか、

「うっそぉ!そうなんだ!!誰々?どこの誰よ?」

 口は勝手にそう動き、彼だと知っても、

「そうなんだ!!良さそうじゃんそいつ!!」

 そうやって知らないフリをして、嘘を吐いて。

 嘘を吐いて、想いは捻れて、心は狂って、私はこんな私が嫌になった。

 恋愛小説や少女漫画だったら、恋敵であるライバルは堂々と主人公に宣言するんだ。彼は私のものだ、って。独占欲だとかそういうのを越えて、ライバルの清々しさは眩しい。いや、たいてい容姿が圧倒的に良いことが多い、ってのを置いておいても、だ。

 でも、親友と同じ相手に恋をしたらどうしたらいいの?ライバルになって対立して、ケンカして、それでも結局、どちらかが、その物語の主人公で彼を勝ち取るの?その後は軽く「良いライバルだったね」、なんて言い合って、フェードアウト?

 嫌だ。

 優梨とケンカはしたくないし、大切な友達だ。だから、……勝てるかどうかなんて度外視で、そんな恋が、そんな恋をしている私が、嫌になった。

『君に届け』のケントは恋をしたけど、もうその相手は付き合ってて諦めて。『猫物語』での羽川翼は相手が付き合った後に諦めて、それでも親友に対しての嫉妬で何度か狂ってしまう。主人公でない、主人公の相手ではない親友枠の人はそういう終わり方ばかりだ。

 私は、どんな結末を描くだろう。


 さて、バレンタイン前日の昼休みのことだ。いつものように昼食を食べながら、「で、昨日の講座はなんかあった?」と意表を突いてみる。

 優梨はむせながら、「ちょっ、どうし、て……!?」と焦っている。

 私は余裕をかまして、

「あたしさ、忘れ物を取りに教室に戻ったんだわ。そんとき、あいつが学室行くの、見たの」

 学室という教室で、月一で普段の授業とは別の、特別講義が行われるのだ。それを優梨と彼も、受けに行っていた。

 そして優梨はゆっくりと口を開く。その前で私は、その講義の前に会った時のことを回想していた。

 私は忘れ物を取りに自分の教室に向かった。放課後で、人もあまりいなくて、優梨とも一度別れた後だ。面倒だが歩いて教室へ向かう。廊下を進んでいくと、向こうで教室を出る彼を見つけた。久々の、二人っきりだった。

〈お久しぶり〉

〈おお、久しぶり〉

〈今から、どこ行くの?〉

〈学室だよ。あの講座〉

〈ああ。いってらっしゃい。私は忘れ物取りに来ただけだから〉

〈ん。行ってくる〉

 それだけ。たったそれだけの会話だった。でも柄にもなく、ドキドキしていた。嬉しかった。話せるだけで、十分だった。十分で、よかった。

 優梨の話を聞きながら、その時を考えた。明日はバレンタインだ。だからきっと、決めないといけない。

 この先、私はどうすべきで、どうしたくて、どうありたいのか。

 私は、決断したのだった。


 その、優梨との会話をした日の放課後。優梨のチョコ作りを手伝い、私も作った。

 そしてバレンタイン当日の朝、優梨が席に来たので、「はぁい、友チョコ」と差し出す。

「昨日食べたやつ?」

 彼女は無邪気にチョコを受け取り、小さな口に入れる。

「アホ言うな。あれから別の作品を作り上げたわ。味は保証するわ」

「ありがとう」

 私の軽口にもしっかり応えてくれて、私はホッとした。嬉しかった。友達として。

「ところで、そっちはいいのできたの?」

 優梨は恥ずかしそうにコクッと頭だけ下げる。

 私は「頑張れたみたいね」と無理にニヤニヤとする。

「まぁでも、決戦がまだよ。頑張れ、優梨」

 優梨は予定通り、今日の放課後、図書室でチョコを渡し、告白するつもりだと言っていたから。

 これが普通の恋愛小説なら、きっと私は友達思いな親友枠だ。主人公である優梨は恋を叶えて、ハッピーエンド。友達である主人公の恋を応援するばかりで、手助けするばかりで、私の恋愛事情は特に出ないだろう。

 それでいい。それがいい。私はそう願った。

 だから、最後の足掻きですらないことをここで話してもいいだろう。

 バレンタイン当日の昼休みに私はこっそり彼に会っていた。バレンタインだから、友チョコを渡すため、というこじつけだ。

 優梨には「用事があるから行ってくるー」とだけ伝えておいた。

 そして、図書室前である。雪の中でうずくまる猫を撫でてから、私は入る。図書委員だから分かる、『よっぽどのことがないと見つからないところ』だ。

 彼はもう、そこにいた。

「ん。友チョコ!」

 私は彼に、やや無理矢理にチョコを渡す。彼は優しく微笑み、「ありがとう」と受け取ってくれた。

 その優しい微笑みが、優しさが嬉しくて、私は再びドキリとする。

 一瞬だけ、やっぱり壊してしまおうかと思ってしまう。

 でも、ダメだ。ここまでやってきたんだ。無理してきたんだ。ここで壊しちゃ、――ダメだ。

 だから、「じゃあね!放課後、図書室ちゃんと行きなよ!」と釘を刺す。彼に、ではなく私自身に。

「え、なんで知って……あぁ」

 私が一度だけ優梨と一緒に図書室にいたことを思い出したのか、素直に「うん、そうする」と答えてくれた。この様子だと、大丈夫だろう。彼は「またね」ときびすを返す。

 彼は離れていく。私の知る世界から消えてしまう。彼はきっと――優梨のものになるだろう。

 私は伸ばしたくなる手を、スカートを後ろで握って、必死にこらえる。

 それでいい。これでいい。

 私の恋はもう終わりでいい。

 私はその背中に小さく呟いた。

「……ずっと想ってるからね」

 優梨みたいに眩しくて可愛い子。そういう子でいたかった。今の私みたいな、嫉妬したりする嫌な子じゃなく。

 きっと聞こえない。聞かせようとは思わない。

「え、なんて?」

 彼は声がしたのには気付いたのか、律儀に振り向いてくれた。その優しさが嬉しくて――苦しい。

 だから私は「なんでもない」と笑って背を向ける。

「バイバイ、私の好きな人」

 自分にしか聞こえない声で、そう呟いた。

 図書室前に出ると、さっきの猫も、白い雪に足跡だけを残して、もうどこかへ行ってしまったようだ。

 私は黙って――涙を流した。

 今は昼休みだ。すぐに止めないといけない。でも、少しだけ、今だけは、と溢れ出す。

 それでもせめて、誰にも聞こえないように声はこらえて。誰にも見つからないように建物の陰に隠れて。

 白く明るい世界でなく、灰色の暗い地面に雫をこぼす。

 何滴も何滴も。

 彼にも優梨にもばれないように。

 ひっそりと、しっとりと。

 私はひたすら下を向く。少しでも早く出し切るために。

 そして、もう少しだけ泣いたら、思うんだ。


 ――私の恋はこれで終わり。身勝手でも楽しい恋だった。

 ――だから一言。


 ――出逢ってくれてありがとう。

『初恋バレンタイン』執筆当時、ただの脇役と言ってもいい感覚であった彼女を見つめてみると、突然動きだし、すごくびっくりしました。そして、初めて脱稿後に一度ラストを大きく変えました。大学で初めて、書いた実感を持ちました。そんな、いろんな初めてをありがとう。そして、恋をさせてくれてありがとう。

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