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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第四章:自分のことすら理解出来ず、それでも君を理解したい
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スルー

 おそらく父親がグラウに殴り飛ばされたのだろう。 プライドの高い父親が怒りもせずにそのまま俺に体重を預けているので気絶でもしているのかと思ったが、そうではないらしく、ゆっくりと立ち上がった。


「巻き込んだか。 まぁいい、こっちに来て座れ」


 何故かダンディに座る父親に続いて向かいの席に座る。

 横にグラウとレイが座り、父親の近くに月城が座る椅子の多くない客間ではそれ以上には席がないので、出遅れたエルがポツンと立ち、どうしようと慌てている。


「俺のところに座るか?」


「いえ、立たせてもらいます」


 エルが俺の後ろに控えるように立つと、父親がレイに椅子を持ってくるように指示をする。

 レイはなんで自分がと愚痴を言ってから使用人のフリをしている月城を見るが、月城は気にした様子もなくだらりと身体を背もたれに預ける。


「久しぶりだな」


 父親はそう言ってから、他には目をくれないで、俺の顔を見詰める。

 ボサボサとした赤黒い髪に、紅い目。 俺と同じ魔物の特徴を見て、俺は顔を歪める。

 似ている。 おそらく後ろのエルもそう思っているだろう。 色の特徴や顔付きを始めとして、体型、姿勢。 見えないところでは声や口調、使う言葉に息使い。


「ああ、そうだな」


 俺は父親にそう返しながら、背もたれにゆっくりと身体を預ける。

 不快なほど、血の繋がりを意識させられる。


「大きくなった」


「そう言われる筋合いはない。 無意味な問答はいらないだろう。 何を聞かれるかは分かっているな。 言葉はしっかりと考えているか」


 俺がそう言うと、父親の近くに座っている月城の顔が少し歪むのが見える。 額に皺がより、俺を咎めるようにも見える。

 父親は気にした様子もなく、答える。


「お前は人間だ。 無論、私も」


 父親の言葉に眉を顰める。


「あるいは魔物か。 お前が人間か魔物かは、お前が決めることだ」


「どういうことだ。 魔物か人間か、どちらかだろうが」


 俺の言葉を聞き、グラウの拳で腫れさせた顔のまま父親は語る。


「アークウルフという魔物を知っているか」


 狼型の魔物で、魔物ではない狼を従えるという特徴を持った魔物だったはずだ。 数度戦ったことはあり、手傷を負わされたこともある。


 知らぬ魔物ではないので頷くと、父親は続ける。


「あまり知られていることではないが、魔物という物は、人の死から生まれる。

 人の死から瘴気と呼ばれる物が発生し、それが塊になることで発生し、人を殺すことによりその瘴気を吸い取り成長していく物が魔物だ」


 知っていることが父親の口から話される。


「それで、アークウルフとはどういう関係がある」


「あれは、魔物ではあるが生物でもある。

 普通の生物のように母親の胎内から産まれる魔物だ。

 瘴気が胎児の身体に入り込み、魔物の身体へと作り変えながら発育していく。 故に他の魔物とは違い、成長し、寿命があり、生殖し、個性があり、他の生物と良好な関係を築くことが出来る。

 アークウルフ以外にそういった魔物がいないのは、狼という生物が極端に耐瘴気性が低いことが理由だ」


 淡々と述べられる言葉に隠す気のないほどの真実が秘められている。 父親は、俺の様子を観察する気もないらしく、そのまま最後の言葉を述べた。


「私達は、耐瘴気性が極端に低い家系だ」


 そこまで言い切った頃にレイが扉を開けて椅子を持ってきた。 エルがレイに椅子を渡されるが、エルはそれに「ありがとうございます」と返すも座るほどの余裕はないらしい。


「それを聞いて、どう思うのかはお前の自由だ。 普通に生きようと思えば一切の問題はない。 魔王だったか、の影響は多少受けるようだが、対抗する方法もある」


 最悪の結果ではなかった。 むしろ最良と言ってもいいだろう。 アークウルフが生殖能力があるのならば、似た魔物である俺にもあるのだろう。 今すぐなどということは一切ないが、エルと子を成すことができるのは本当に嬉しい。

 隣で息を吐いたエルもなんとなくホッとしたかのように見える。 そうあってほしいからそう聞こえただけの可能性もあるけれど。


 喜びそうになる顔を引き締めて父親を見る。


「その方法は」


「単純に、魔王の影響は瘴気を介して行われる。

 周りから瘴気を取り除けば、魔王の命令を受けることもない。

 ここからは取り除いてある。 私室も残してあるから暫くの間はいればいい」


 私室も残してあるという言葉に舌打ちをしてから立ち上がる。


「えっ、アキさん?」


「もう聞くことは聞けた。 とりあえず滞在するにしても、これ以上話す必要はない」


 エルは立ち上がった俺を見つめてから驚いたような表情をして、父親の方に頭を下げてから俺の後ろに続く。


 エルが扉を開けて、くれたところでグラウが声をあげる。


「アキレア、また夜にここに来い」


「分かりました。 アキさんを連れて行きます」


 俺が一言も発することなく約束が取り付けられる。


 客間から出たあと、後ろでエルが鎖をカチャカチャと鳴らしながら動かしている。 解いてくれているのだろう。


 少し歩いて自室までいき、解かれ終わるまで部屋の前で待つ。 エルが鎖を解ききり、身体が自由になったので扉を開き、エルの手を掴んで中に入り込む。


「ん、どうしたんですか?」


 久しぶりに自由になった身体は、長いこと縛られていたせいか上手く動かせない。

 扉を閉めてから、エルの身体を抱き締める。


「え、あ……あの、何か、ありましたか?」


「いや、別に」


 エルを離して、自室を見回す。

 無駄に広い部屋の中、大量の本が棚の中に詰め込まれていて、それでも溢れている本がそこら中に積まれている。

 本の位置やらはそのままにして置いてあるが、掃除はしておいてくれていたのか埃を被ったりしていたりはせずに綺麗な状態だ。


 顔を赤くしているエルは俺の部屋を見回して、はぅ、と小さく息を吐き出した。


「すごいですね。 色々な言葉の本が……何冊あるんですか?」


「何冊かは分からない。 それにすごくはない。 これだけの物を全て無駄にしたってだけだからな」


 俺の部屋にある本は全てが魔法について書いてある物で、おそらくは1000冊は越えているだろうが、どれも役には立たなかった代物だ。


「魔法について、ばかりですね」


「ああ、それだけだ」


 あまりいい思い出のある空間ではないも、それでも居心地はいい。 寝室としても使っているのでおいてあるベッドの上に寝転がり、柔らかな感触に埋もれる。


「結局、役には立たなかった。 無駄な時間を過ごしたものだ」


 ため息を吐き出しながら、部屋中にある本を見る。


「んぅ、なんて言ったらいいのか分からないんですが……。 僕は、努力家なアキさんのこと、好きですよ」


「……ありがとう」


 エルに顔を見られないように枕に顔を埋める。 単純過ぎるだろうと自嘲しながらも、十数年の努力と時間は完全な無駄にはなってないと思ってしまう。


 気分も良くなってきたので、話を変えることにする。


「それで、エルの浄化があれば俺の暴走はどうにかなるってことか?」


「……難しいかもです。 アキさんが暴走して走ってどこかに行ったら反応できずに範囲外に……」


「なら、俺より速く走れるようになるとか」


「時速にして20kmにも満たない鈍足なので、10倍のスピードで走れるようになったとしても無理ですね。

……アキさんの身体能力って、その……魔物的な部分があるからすごいのかもしれませんしね」


 言われてみれば、普通の狼よりアークウルフの方が強いのと同じように人間ではない俺も人間より優れているところがあってもおかしくはないか。

 大した努力もしていないのに駆けっこで負けたことがないのはそれが理由か。


「じゃあ、その案は無理か……。 これ以上縛っていたら身体を解すのに時間がかかるから、今までのはなしとして……」


「ゆっくり考えていきましょう。 すぐに出るわけではありませんから」

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