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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第四章:自分のことすら理解出来ず、それでも君を理解したい
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強さ比べ

「それで、どっちのが強かったんだ?」


 興味本位で聞いてみると、にやけながらグラウは言った。


「65戦42勝20敗3引き分けだぞ」


 倍近くの勝率を上げているらしく、自慢気にグラウが言う。 この酔っ払ってる中年親父があの化け物だと思っていた父親よりも強いのかと思うと不思議な感覚だ。


「それでは、グラウさんはお義父さんより強いんですか」


「お父さんってすげえいい響きだな。 俺のことも呼んでみないか?」


 グラウが笑いながら言い、それを聞いていた俺も少し考える。 エルにお父さんと呼ばれるのか、悪くないな。


「呼びません」


「……俺には?」


「呼びません」


 エルが不思議そうな顔をしてこちらを見てくる。 可愛い娘になってほしいと思ってしまう。 いや、恋人の方がいいか?


「んで、俺とヴァイスがどっちのが強いかって話な。

まぁ、悔しいところだが……ヴァイスのが強いな」


「あれ? グラウさんが勝ち越してるんですよね?

いざという時に強い主人公みたいな人なんですか?」


「いや、俺が剣士で、ヴァイスが魔法使いだからな。

向き合った状態での一対一ならば俺の方が圧倒的に有利だ」


「普通ならば、魔法を放つ前に切れる」


「そうそう。 だから、タイマンなら俺のが勝つのは当然」


 グラウはそう言ってから溜息を吐き出す。


「逆に言えば、一対一で向き合っている状態でも、負けることがあった」


 グラウは子供のように唇を尖らせて、悔しいと口に出した。

 高みへと朽ちゆく刃で駆け寄り、それと同時に振り下ろせば10mほど離れていたとしても、1秒に満たない速さで切り裂くことが出来る。

 一方で魔法の生成は、短くない時間が必要だ。 魔力の体外への放出、形を変化させる形成、魔力に性質を与え、指向性を付けて射出することによりやっと魔法として成り立つ。

 低威力、簡単な形、性質ならば容易に高速で発動も出来るが、グラウを止められるほどの魔法ならば、1秒未満で放つことは不可能であると言える。


 極々短時間で放てる魔法としては俺のシールドなどは、特異な体質……魔物だからなのかもしれないが、体外へ放出し、変化を防ごうとしなければ瞬間的にシールドの魔法になるために思った瞬間には発動しているが、普通の魔法ではグラウへの対抗は不可能のはずだ。


「どうやって負けたんだ?」


「俺が負けた方に興味を持つのか。 結構パターンはあるが、よくあったのは……手に持った杖で初撃をいなされ、足場を崩されて連続した魔法で身動きを封じられてからの大技に繋げるような」


 魔法使いなのに、グラウの初撃を防ぐことが出来るのか。 化け物かと思うが、実際に魔物の疑いがある。

 もしかしたらと、父親が俺のように正気を失って暴れいる可能性も考えていたが、近くの町がこのように残っているのだから暴れていることはないらしい。


 つまり父親は、あの暴走を抑える術を持っている……のかもしれない。


「グラウは俺よりもあいつを知っているんだな」


 俺は十七年近く、グラウはたった一年と少し。 大した興味もない父親のことでは嫉妬などしようもないが、少し不思議な感覚がする。


「そりゃ、子供には隠したいこともあるからな。 見栄っ張りだしな。

それに……お前も勇者のお嬢ちゃんとは一カ月だけの付き合いでも、よく知っているだろ?」


「いや、エルのことはもっと知りたい。

あいつが俺に見栄を、か。 なんとなく不思議に感じる」


「俺も息子であるお前に格好つけるために酒を飲む量減らしているしな」


「まだ飲み足りないのかよ」


 呆れてしまうが、考えて見れば初対面の時は酷く泥酔していて、泥酔していることに小慣れた様子もあった。 泥酔に小慣れているというのは間抜けでしかないが。

 やはり、俺たちに気を使ってなのか程々程度で我慢しているのだろう。


「まぁ、明日はヴァイスと会うんだから、高い酒を奢ってもらうか。 金持ちだしいいの持ってるかもな」


 小さく溜息を吐くと、グラウは続ける。


「お前も飲むんだぞ?」


「なんでだよ」


「そりゃ、男と男が腹を割って話すのは酒を飲むのが基本だからな」


 腹を割って話すなんて予定はないのだが、そもそもまともに話をしたこともない相手とそんな風に話すのは難しい。


「俺は聞くことが聞けたら、すぐに出て行くつもりだ。

エルとこの街にいるから、グラウは好きに話しているといい」


 グラウは俺の頭に手を乗せて、ゴシゴシと頭を擦る。


「ヴァイスのことが嫌いなのか?」


「いや、尊敬はしている」


「尊敬『は』か。 嫌いなことの否定にはなってないだろ。 あまり逃げすぎるな」


「……分かった。 酒を飲むかは別として、少しは話してみる」


 意地になる必要もなく、グラウが頼むのならば少しは話をしてもいいだろう。 話をするのが嫌な理由も、面倒であることだけだ。


「僕もご挨拶をしないといけませんしね……」


「勇者のお嬢ちゃんは飲むなよ?」


「……僕、アキさんと同い年なんですけど。 ん、飲みはしませんが」


 エルはそう言ってから、俺の縛られている手を握る。


「まぁ、同席はさせていただきます。 アキさんはこの状態ですからね」


 ありがたいような、気恥ずかしいような。 妙に胸が痒くなる感覚を覚えるが、損がある訳でもないので断ることにする。


「まぁ、そろそろ暗いから寝るか。 明日は早いぞ」


「グラウも早く寝ろよ」


 グラウがヘラヘラ笑いながら頷く。

 楽しみすぎて寝れなかったなんて馬鹿らしいことが起こりそうだ。


 適当に宿に入り込み、部屋を二つ取ろうとする。


「えっ、二つベッドがある部屋ないんですか?」


「うん。 もう埋まっちゃってね。 最近お客さん多くて」


 エルが俺の方を見て少し考え込む。


「俺は一つでも全然問題ない」


「そう、ですか」


「そうだ。 決してエルをどうにかしようとかは考えていないからな。 そもそも縛られているのだから手の出しようがない。

だから、二部屋でいいだろう。 実際、俺は縛られているのだから、扉を開けることさえ出来ないのだからそれしかない」


「……アキさんが饒舌になればなるほど一緒のベッドで寝ることに抵抗が出るんですが」


「旅してる時はいつも引っ付いて寝てるだろ?」


「それは、そうですけど……。 こういう場所では違うと言いますか、恥ずかしいですよ」


 エルが身体を捩りながら俺から離れるように下がる。 身体を捩ることで分かる薄っぺらな細い体型、柔らかな身体の動き。

 思わず唾を飲み込むと、エルはまた一歩後ろに下がる。


「アキさんの信用ポイントがどんどん下がっていきます……。 その、何もしませんよね?」


「何もしないよ、うん」


「もう一人で覚悟を決めるので、アキさんは口を開かないでください」


「分かった。 任しておけ」


 しばらくしてから部屋の鍵を受け取り、俺の鎖を手に取って移動する。


「んじゃ、おやすみ」


「ああ」


「おやすみなさい」


 グラウと別れて、部屋の中に入り込む。 エルに鎖を引っ張られてベッドの元に連れてこられる。

 そのままエルは俺を縛っている鎖の端をベッドの端に縛る。


「え、エル、何をしているんだ」


「アキさんはベッドで寝てください。 僕は床で寝させていただきますから」


 そう言ってからエルは三角座りをする。


「いや、一緒に……ではなくても、エルがベッドを使えばいいだろう」


「ん、アキさんは鎖の分だけ床で寝るのに負担が大きいですよね。 だから」


「それなら一緒に……」


「だってアキさん、変なことしてきますもん」


「しないから。 だからいいだろう?」


 そうやって頭を下げると、エルは渋々と立ち上がり、ベッドの上に寝転がる。 俺もベッドの上に移動する。


「アキさんは、僕を触らないでくださいね?」


「分かった」


 仕方ないかと頷くと、目を瞑ったエルが此方に体を向けて、俺の体に手足を乗せるように抱き付く。


「おい、エル約束は」


「僕が触ったりする分には約束していませんから。

これでアキさんに変なことをされる心配もなく、アキさんを触り回せます!

自分の軍師っぷりが恐ろしいです……」


 その理屈はおかしい。


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