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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第四章:自分のことすら理解出来ず、それでも君を理解したい
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挨拶の練習

 元級友の男にひたすら引かれたあと、昼食だか、朝食だか分からない飯を食べ終える。

 エルが一人で二人分の食事を動かすのだから結構な時間がかかったが、あまり流行っている店ではないからか客の一人もこなかったのが正直なところ助かった。


 店から出て、何もすることがないために宿屋の方向にぶらぶらと歩く。 住宅地ではなく店が集まっているような場所のためにそう退屈しながら歩く事にはならないが、何せ人が多いのが問題だ。 鎖を巻かれ、幼い女の子に見えるエルに、その鎖の端を持たれてしまっているという姿なのだから当然だった。


「そういえば、アキさん」


 店先に出された品物を見て気分を誤魔化しているとエルが機嫌が良さそうに話しかけてくる。


「どうした?」


「今から……というか、今後アキさんの家に向かうんですよね?」


「ああ、そうだな」


 それがどうしたのだと言うのかと思っていると、エルは深刻そうな深く悩んでいる顔で俺の方を見る。


「お義父様への挨拶、ということですよね……?」


「それは違う」


 先程の食事は少し足りなかったので買い食いをしたいところだが、買い食いをするにもエルに食べさせてもらうことになるので頼み辛い。 無難に諦める。


「いや、あのでも……お義父様ということになりますし……。 会うことになれば、挨拶はしますよね」


「いや、なんか違う気が……」


 今考えてみれば、エルを元父親や、弟のレイに見せることになるのか。 必然的にエルのことは恋人であると紹介することにはなるだろう。

 幼い少女を連れて帰り、俺の恋人であると紹介するのか。


「……俺は、エルのことが好きになっただけで、小児性愛者じゃないからな」


「えっ、あっ……はい。 嬉しいです」


 エルは頰を染めながら俺に少し近づき、俺の体を触る。

 誰に言い訳しているのだろうか。 ……エルの容姿に可愛らしいと思ったのは今に始まったことではなく、出会った当初から美しい造形をしていると思っていたような。 いや、だが、エル以外の子供にこのような気持ちを抱くことはないので、やはり小児だからという理由ではないだろう。


「……やっぱり、恋人とは言えども、このようなちんちくりんは嫌ですか?」


 嬉しそうにしながらも同時に不安げに俺に尋ねる。


「いや、そんなことはない」


「いひひ。 これはこれで嬉しいです」


 反射的に即答してしまった自分に少し驚く。 まぁ、意思に反したことを言ったわけではないので問題はないが、少し自分の考えに驚きもする。

 いひひ、と笑うエルを見ていると、もう子供に性愛を感じる変態でもいい気がしていた。 エルの可愛らしさに比べてはそんな嗜好など些末な問題でしかない。


 もう何でもいいや。 小児性愛者でも、ロトにロリコンと罵られようが知ったことではない。


 あまりの可愛いさに頭がおかしくなりそうなのを感じて、エルから目を逸らす。


「ん、僕も。 アキさんのこと好きですよ」


 エルに言われて顔が熱くなるのを感じる。 先に目を逸らしていてよかった。 逸らしていなければ照れてしまっているのが丸わかりになるところだった。


「……ありがと」


 逸る気持ちを抑えて返そうとすると変に素っ気ない返しになる。 やや強引にだが恋人となったというのに、このようなる態度のままでいいのだろうか。

 友人関係でさえ上手く形成出来ない俺に恋人などと複雑怪奇な関係を上手いこと形成出来る訳もなく、礼の後は押し黙ってしまう。

 顔の熱が取れる前にエルに頰を突かれる。 どうやら、恥ずかしがっていたのはバレてしまっていたらしい。


 恥ずかしがることも恥ずかしいと、また頰に熱がこもるがなんとか落ち着かせているとエルが言葉を発する。


「ところで、此処にはどれぐらい滞在するんですかね」


「それはグラウ次第じゃないか」


「そうですね。 時間があるようでしたら、挨拶の練習をしないと……」


 挨拶ではないと言いたいが、それは少し言いにくいので黙っておく。


「あ、でも、アキさんの実家は、お金持ち何ですよね……。 この格好でも大丈夫でしょうか、ドレスコードとか……」


「まぁ、そんな正装をしていくような場所でもない。

今回は結婚の挨拶ではなく、ただ俺の出生について尋ねるだけだからな」


「今回は、ですか」


「……聞かなかったことにしてくれ。 それに、その時は挨拶しに行くつもりはない」


 元父親ではあるが、追い出された時に死んだ扱いすると言っていたので、彼方からすれば俺のことは迷惑をかけなければ好きにしろといったところだろう。

 今回の家に行くのは、特例だ。 一カ月程度で戻っていることになるが、あくまでもアキレアとして帰宅ではなく訪問する予定である。


「いひひ。いつかしましょうね。 ここでの結婚の制度は殆ど知らないですけど」


 エルと宿まで戻ってきて、部屋に入る。 人のいるところを縛られながら歩くのは無駄に疲れたらしく、思わず口から安堵の息が漏れ出る。


 夏に近づき暖かくなった空気の中に生暖かい吐息を吐き出すのは、心地よい感覚ではないが、今はそうも気にならない。


 エルがベットに倒れこみ、俺もその横に座る。


「では、練習しましょう」


「するのか」


「んぅ、その話ではなくても、普通にご挨拶はすることになるので」


「あまり気にする必要はないが……。 まぁ、時間もあるから付き合おう」


 エルが昨晩俺が寝ていた方のベッドに移動して、ベッドに腰掛けて向き合うように座る。

 エルが「ん」などと言って発生の練習をしているのを見ながら俺も姿勢を正す。


「えと、やっぱり僕ではなくて私に直した方がいいですよね……?」


「それは好きにすればいい。 一々気にする必要はない」


「でも、僕ってこの通り第二次性徴が行方不明なので、僕なんて男の子っぽい一人称を使っていたら……最悪の場合、アキさんが小さな男の子が好きだと思われる可能性も」


「いや、それはエルは女の子にしか見えないから大丈夫だ」


「そうですか? どうしても女性らしさといったものが欠けているような」


 そう言ってエルは自身の胸を見下ろす。 確かに存在しないが、女性らしさは胸とそこまで関連するものだろうか。

 エルの身長から考えるとそれぐらいが自然なので特に違和感はないが、エルは不満らしい。


「よし、ご挨拶の時だけ私って言います」


「分かった」


「アキさん、お義父様役をやっていただけますか?」


 エルの言葉に頷き、エルが姿勢を正したので、元父親の真似をすることにする。


「お前、名前はなんだ」


「え、エルと申します。 私はそちらのアキレアさ……ルトさんと交際させていただいていて……」


「ああ、それで何の用だ。 本題のみ言え」


「え? えぇ……と、ルトさんとの結婚を認めて……じゃないですよね。 えっ、本題?」


 エルは可愛くる首を傾げながら俺に尋ねる。


「俺の出生についてだ。 何時迄もエルに生活の全てを任す訳にはいかないだろう」


「んぅ、そうでしたね。 僕としては、魔王のことさえどうにかなればこのままでといいんですけどね」


 人の世話を焼くのが好きなのか。 前から人に対して優しかったりと、エルはそういった性格なのだろう。


 また途中で詰まったので初めからやり直しになった。


「ルトさんの出生について教えていただけますか」


「ふん、そんなことを聞きに来たのか。

答える義理はないな」


「……これ、僕じゃなくてアキさんが交渉することですよね?」


「そうだな。 だいたい俺が話すことになるだろうし、本当に挨拶だけで良さそうだ」



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