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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第四章:自分のことすら理解出来ず、それでも君を理解したい
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好きです

 死にたい。 そう思ったのは久しぶりである。


「殺してくれ……本当に」


「そんなに俺たちに攻撃したことを悔やんで……」


「違う。 いや、まあ……悪かったとは思っている。 すまなかった」


 頭を下げるが、反応はない。


「まぁ、仕方ないことだ。 気にするな」


 字面だけ見ればすごくいい奴っぽいのに、ロトの表情を見ればニヤニヤと笑っていて、如何にしてからかってやろうかと考えているのが丸分かりだ。


「とりあえず、今後もああなった時のことを考えて……。

どうやって戻ったかを教えてくれないか?」


「お前、分かってて言ってるだろうが」


 胸を掻き毟りたいような衝動に駆られるも、手足がしっかりと縛られているので身動きが取れない。


「ああ、俺の想像通りでいいのか。

俺にはアキが、エルちゃんにキスされたいあまりに正気に戻ったように」


 その通りだった。


「もうその話は置いておくとして……。 とりあえずこれを外してくれ」


「いや、お前それを外すと襲うだろ」


「襲わない」


「エルちゃんを」


「襲わねえよ!」


 からかわれてから手足の布を解かれて身体を自由にされる。 身体を丸めて顔を膝の上に埋めて落ち込む。

 肩に大きな手が落ちてくる感覚。 赤くなっているであろう頬を手で隠しながら顔を上げるとグラウが言った。


「まぁ、気にするな」


「気にするなって……。 あんなの一生物の失態だ。

こんなざまで今まで通りとか……」


 また羞恥で落ち込んでいると、顔を赤くしたままのエルが慰めるように言う。


「あ、アキさん、あの、その……酔ってる時もそんな感じですから!」


「……くっ、殺せ」


 仕方ないことだった。 俺の意識が違う俺の意識に喰われて、元々の俺の意思に反する行動を行う。

 そんな状態の俺の前にエルがいたら、冷静でなく、本能に忠実な状態だったのだから、当然のように本能に忠実な目でエルを見てしまう。

 いや、むしろエルのように世界一可愛らしい少女を見てしまうのは、もうなんか仕方のないことなのではないだろうか。


 俺が泣きそうになっていると、グラウが口を開いた。


「アキレアが思春期なのも変態なのも置いといて、やはりあれは、あれが影響なのか?」


「グラウ、俺がエルちゃんには既にバラしたから隠す必要はないぞ」


「あっ、そう? 先程のは、魔物がどうとかが問題なのか?」


 グラウの言葉に迷いながらも頷く。 エルが横に座ってきたのでそれを持ち上げて膝の上に乗せて抱き締める。


「多分。 頭の中で「世界を殺せ」と命令を受けたと思えば、俺の中で俺でない奴が主導権を握って……って感じだった」


「アキさんじゃない人、ですか。 とりあえず魔物アキさんでマモレアさんって呼びますか?」


 何処か抜けた言葉が聞こえて少し笑う。


「んで、そのマモレア君はエルちゃんとの交渉によって消えたってことか。

マモレアは実はアキがエルちゃんにキスしてもらうための虚言である可能性もあるな」


「ない」


 ロトがしつこくからかってくるのに苛立ちを覚えてそちらを睨むと、ヘラヘラ笑いを浮かべてはおらず、真面目な顔をしていた。


「どうした、ロト」


「いや、俺も同じことをしてみようかと……」


「そのまま殺すぞ」


 すぐにヘラヘラと嫌な笑みを浮かべ直したので大したことではなかったのだと一息吐く。

 頭の片隅にもう一人の俺の存在がいるのではないかと思うと、非常に気分が悪くなるが……。


「途中の、エルを見てからの俺は。 俺だった」


 意思に反する行動しか出来ていなかったときのことは、よく思い出せないがそれは間違いない。


「それまでは完全に違うのがやってきて……みたいな感じで、もうそいつは感じないが」


「やはり魔王か? 丁度魔王の時期だしな。

あと、やっぱりキスで交渉出来たのはお前かよ」


「いや、なんか、ごっちゃになってる俺と言うか。 まぁいい」


 エルをもう一度抱き締めてから立ち上がり、外に出る。


「ロトは、俺と同じぐらいは強いよな」


「嫌味か。 勝てる気はしないな」


「グラウは俺よりも強い」


「そりゃな」


 エルの方を見て、胸にあるであろう魔石を抉り出すように胸を引っ掻く。

 胃が痛み、目の前が揺れるように感じて死にそうだ。


「エルを、頼んだ」


 どうしても、言いたくない言葉を吐き出してエルの方を見ないように馬車の外の方を見る。


「どういう意味だ」


「そのままの。 何の捻りもなくそのままの意味だ」


「だから……どういう意味だ!!」


 ロトの怒声に、ケトとリアナが駆け寄ってきた。


「俺は、ここを出る。 だから、任した」


 流したくもない涙を見せないように数歩進む。 腰の辺りに何かが引っ付いてきて、その慣れたけれど、それでも心地の良い温かみを感じる。


「僕を、守ってくれるって……約束しました」


「約束したな。 何度もそう言った覚えがある」


 エルが叫ぶ。


「だったら!」


「だからな。 そんな約束をしたから、守らないとな」


 エルを初めて振り払い、一歩前に歩く。


「今回は、ロトとグラウのお陰で何とかなった。

次、同じことがあれば……俺はエルを殺すかもしれない」


 エルがまた俺に抱きついて、動きを止める。


「いいです。 僕はここで死んでも、地球に戻るだけです」


 またエルを振り払い、次は躊躇わずに歩き始める。


「アキさん! 僕はアキさんに着いて行きますから!」


 エルが走って俺に着いてきて、俺の手を取る。

 それでも無視して歩き続けると、エルも俺の反応を待たずに言葉を続ける。


「アキさんが僕を守ってくれないと、僕は容赦なく死にますよ。 アキさんが守ってくれずにこっちで死んだら、地球に戻ったらすぐに腹を切って死にますから!」


「エル! そんな無茶苦茶な……」


 エルが涙を浮かべた目で俺を睨み付けて、痛みが感じられるほどに強く俺の手を握る。


「好きです。 アキさんのことが」


「え……は……」


 俺の好意を知って、俺を引き止めるための虚言だろうか。 エルが顔を真っ赤にして、俺を睨み、涙を流して口を開ける。


「アキさんが、いなくなったら……僕は駄目です。 死にます。

僕はワガママで弱くて、ちんちくりんで、女なのに僕なんて自称してて、ちんちくりんで! 魅力なんて全然ないって分かってますけど!

でも、せめて、一緒には居させてください」


 そんな訳がない。 エルが、好いてくれているなんて、ありえないことだろう。


「俺は、馬鹿だ。 魔法もほとんど使えない。 身長も低い。 人の気持ちが分からない。 性格も悪い。 屑だと、自覚している。 変態だ。 善人とは言い難い。 何より、魔物だ。 魔物だった」


 だから好きな訳がない。 そう言い返すと、エルは言い返す。


「アキさんと出会ってから、一ヶ月ほどしか経っていません。

だから、アキさんがいい人だってこと以外なんて全然分かってないです。

アキさんがどんな生活をしていたのか、どんな物が好きで、どんな物が嫌いなのか、誕生日も血液型も生まれ年も、一切、何も知らないです。

でも好きです。 好きです。もしアキさんがアキさんの言う通りの人だったとしても好きです。 魔物でも、何でもいいから好きです。

馬鹿だったとしても好きです。

魔法が使えなくても好きです。

身長がそんなに高くなくても好きです。 それに身長は僕の方が圧倒的に低いです。

性格が悪くても、屑でも好きです。

変態なのは、恥ずかしいですけど好きです。

悪人でも魔物でも、アキさんのことが好きだから一緒にいたいです。 一緒に居させてください。

人の気持ちが分からなくて、僕の気持ちも理解してくれないかもしれないですけど……! 大好きです。 アキさんが分かってくれなくても!」




「エルを、殺したくない」


 俺の渾身の言葉は、エルに一蹴された。


「貴方にだったら、殺されたいです」



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