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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第四章:自分のことすら理解出来ず、それでも君を理解したい
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制圧

 ロトがアキレアへと再びの投擲、それと同時に新たな短剣を引き抜き間に割り込む。


「大丈夫か! 大丈夫だな! 早く治せ、俺じゃあ足留めしか無理だ!」


 アキレアやグラウのような人外染みた速さは、ロトには一切存在しない。 最低限、その戦闘に着いていく程度にはあるものの、その短剣の鋸刃でアキレアの姿を捉えられることは万が一の可能性すらない。


 短剣を中空へと捨て、新たな短剣を引き抜く。 中空へと捨てられた短剣はアキレアの手からロトに向かう直線上にあるために、もしもアキレアが高みへと朽ちゆく刃を放ったとしたら、ロトを傷付けることも出来るだろうが同時に自身の身もその短剣で切り裂くことになる。


 それはしない。 と、半ば確信染みた推測をロトは立てていた。 普段のエル命のアキレアならば勝つ為に自身を傷付けるのも厭わないだろうが、これが普段通りには、地が血に染め上げられようが見えはしない。


 魔物、ロトにとっては人型の獣に見えるその相手は、刃の恐ろしさを知っている故に御し易い。


 複数の短剣を同時に扱い、投げ、それと同時に補充するロトの技と、素早くも単純な動きのみのアキレアは相性が良く、圧倒的な速度の差を技量と能力によって補い、足留めしきっていた。


 グラウは治癒魔法で身体を癒してから、ロトの横に向かって良いのかを考える。

 出会った当初のアキレアなら未だしも、自身に近づくほどに高みへと朽ちゆく刃を使いこなし、熟達している。

 手加減して封じ込められる程、弱くない。 本気を出せば勢い余り殺してしまうのではないかと考えてしまう。

 だが、迷っている時間はなかった。


 拮抗していた、いやロトがアキレアを封じ込めていたはずだったのに、ロトの頬から一滴の血が垂れる。 完全にアキレアの攻撃射線を塞いでいたはずであるのに……次は出血こそはないが服の腹の部分が破ける。


 まだ、傷は一つだけ。 何十と攻撃をいなし、躱し続けてきた中の一つが掠っただけ。 そう捉えることはロトには出来なかった。 違う、しなかった。

 当初のアキレアに比べて彼が急成長したわけでも、ロトが息切れを始めたわけではない。


 ロトが予知に近い先読みを可能としているのは、勇者の能力を基盤とした長所の把握。 何処の筋肉が優れていて、どのような動きを得意としているのか。

 アキレアの体勢から攻撃可能な場所を割り出しての先回りでの対処。

 そして目線。 理性がないのか、いつも以上に攻撃が単調なために、目線から狙いを把握することが出来る。

 その三つに加えて細かいコツや工夫により、アキレアの攻撃を、十手以上先を見て対処を丁寧に行う。


 ロトが召喚された当初から感じていた、身体能力の低さ。 それを補うための剣術はその能力と優れた眼と人並み外れた判断能力により、よく知っている相手に対してという注釈が付くことにはなるが、完成の域に達していた。


 剣壊の才、それを十全に利用した剣術。 ロトはその我流の剣に剣壊剣術と名付けて使用していた。


 十手以上先を見ている。 故に、ロトは気がつく。


「グラウ! 何もたついてんだ!」


 自身ではアキレアには勝てない。


 アキレアとの間に置いた短剣、いや、置かされた短剣の横にアキレアの腕が通っていく。 それがなければ高みへと朽ちゆく刃によって殺されていたのだから置かないわけには行かなかったが、命を繋ぎ止める代償に二つ目の傷を腕に付ける。


 治癒魔法どころか普通の治療すらいらないような小さな傷が幾つもロトの全身に刻まれていく。

 その焦燥から、ロトは叫ぶ。


「くそがっ! 俺のを、パクりやがって!」


 相手の動きを先読みして、こちらの動きにより相手の動きを操作する。 攻撃をすれば相手が避ける。 と言ったことを複雑化した程度の技に簡略、省略化されているものの、アキレアの現在の動きはロトの剣壊剣術のそれに酷似している。

 その稚拙さを速度により補う形ではあるが、アキレアの技術ははロトと並び始める。


 焦燥から雑さの混じった剣により、ロトは一つだけの失敗を犯す。 その失敗がこの場に置いては致命的な差になっている。

 高みへと朽ちゆく刃。

 ロトとアキレアの剣戟に置いて、ロトが警戒し続け、完全に封じ込めていた。 一撃決殺、不可避、防御すら価値のなくなるその剣技。 ロトの身体とアキレアの腕の間に遮る短剣は存在しない。


「下がれ!」


 死んだと理解したが、その剣技は同じ剣技によって受け止められる。 いや、同じ剣技とはいえ長く使い続けてきたグラウに軍配が上がる。

 単純な技量の差と、巨体を誇るグラウと男性にしては小柄なアキレアの体格差、アキレアの身体は弾き飛ばされて後ろにいく。


「殺す」


 ロトはその隙に後ろに跳ね飛んで荒れた息を戻す、すぐに参戦しようと決めて向き直るが、入り込めない。


 高みへと朽ちゆく刃。 高みへと朽ちゆく刃。 高みへと朽ちゆくーーーー。


 一撃決殺、当たれば死ぬ、回避は不可能、防御も貫く。 その筈の技が、延々とぶつかり続ける。 二人の肩から先、その軌跡を捉えることすら出来ずに立ちほうける。


 ロトとアキレアの読み合いによる剣戟とは正反対の剣戟。 ひたすら早く、速く、無駄なく、繊細で、重く、強い刃による押し合い。


 その中で早さも、速さも、重さも、繊細さも凡ゆる要素でグラウが勝っているのに責めきれずにいる。 その気になればロトに渡された短剣であれどもアキレアのぶつかる度に砕けていくような破片ぐらいは容易に切り裂ける、だが、その気になれはしない。


「アキレア! 何やっている!」


 ロトよりは遥かに遅れてではあるが、グラウもおかしくなった理由は薄々ではあるが理解し始めている。

 全身を駆け巡った異常な悪寒。 まるで世界が脈動するように空に広がった赤い血筋。

 伝承の時代の、御伽噺の時代の再来、再訪。 つまりは魔王の復活と世界の侵略。


 とある所以から異界から来た勇者の存在を知っていたグラウだが、半分は魔王の復活を疑っていた。 だが、グラウは理解する。

 アキレアの突如とした暴走は魔王のせいだと。


 故に、グラウは攻めきれないでいた。 アキレアは二人に「逃げろ」と言った。 今はどうであれ……()であるアキレアは攻撃などはしてきていない。

 そのアキレアを責められるものか、攻められるものか。


 歴戦、身を削るような戦いを繰り返してきたがために迷いながら、手加減しながらでも凌ぐことが出来ているが、これ以上長引くと、勝ち目がなくなる。

 老い。 あるいは不摂生がたたったとしか言えないような、純粋な体力不足。

 全力で限界まで引き絞る一撃を五十か七十か、百には届かないだろうが、一撃でも疲弊するような技を延々と放ち続けるのだ。


 押され始め、徐々に身体が後退していく。


「よくやった、決めるぞ」


 アキレアとグラウ、双方が、特にグラウが限界まで疲弊し始めてきたことを確認したロトは二人の間に入り込んで、短剣をばら撒く。


 再び、読み合いになるかと問えば、そうはならなかった。

 ロトを見て、否、ロトの後ろを見てアキレアの動きが、完全に停止する。


 グラウとアキレアがひたすら剣と破片をぶつけあっていた時に、何もロトは指を咥えて見ていたわけではない。 その場にいれば当然短剣の投擲ぐらいはするだろうし、そうなればもう少し長い時間保たせることは出来ただろう。


「アキ、さん!」


 高い童女の声が、アキレアの耳腔の中に入り込む。

 グラウが何かも分からず、だが身体は正確に動く。 短剣を手放し拳を握り締めて振り切る。

 倒れ込んだアキレアに向かってロトは正確に手足へと短剣を投擲して地面に貼り付ける。

 エルが駆け寄ろうとするがリアナが剣を構えながらエルの肩を掴み後ろに追いやった。


 グラウが地に手を付いて魔法を躍起する。 単純な土属性の魔法により土を弄り、アキレアの四肢に土が絡み付いて硬化する。


 人の形をした魔物は、完全に制圧された。

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