表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第三章:君を守るのに俺は要らない。
76/358

反撃

 村からある程度離れてから手に持った男を後ろの太陽紛いの火球へと投げつける。


 ぬわー。 と叫び声を上げた男を背に、軽くなった身体を動かして真っ直ぐ走る。

 人一人をぶち込んだだけではその勢いが減衰する様子は一切見受けられない。


 少しずつならば引き離すことはできるが、どこまで離れればいいのかが分からない。 いや、そもそも……村人にも魔力があるのだから、それほど多くもない魔力が引っ付いているだけでここまで明確に俺を狙っているのは何故だ。


 魔力の探知によって追尾してくるのは分かっているが、それならば正義抱火(ファイア・ウィプス)は同士で撃ち合わない。 瘴気魔法についてほとんど知らないので、どうしても仮説を立てるだけになるが……。


 どの魔力に向かせるかは設定出来るのかもしれない。


 男と向き合った状態の正義抱火(ファイア・ウィプス)は魔力に反応しての追尾ではなかったのだし、それも含めて考えると、男が自在に操れるという風に考えた方が自然か。


 今追ってきてる強大な火球は俺にへばり付いている男の魔力を追っているのだろう。 分かったところでどうにか出来る訳ではない。

 当たれば死ぬだろうし、魔力を振り払うことも出来ない。


 詰んだか。


 再び切れてくる息を感じながら命の終わりを感じる。

 まだ遠いはずなのに背には燃やされるような痛みが走り、身体は空気が欲しいと荒い息を繰り返して、喉は水を欲する。


 そんな時に、耳に声が聞こえた。


「アキ! こっちに来い!」


「ロト!」


 言葉に従い行こうとしたが、ロトの後ろのケトに小さな手が引っ付いているのを見つける。 エルの手だ。


 指示に従おうとしたが、脚が止まる。 もしもロトが何もできなくそのせいでエルを巻き込むのは避けたい。


 ロト達に背を向ける。


「アキさん! こっちに、僕は大丈夫ですから!」


 最悪でもエルを遠くに放り投げてから俺が囮代わりに火の玉に飛び込んだなら……。何とか生き残ることはできるだろう。


 エル達の乗っている馬に向かって走り、すぐに近づく。


「どうするつもりだ」


 俺が急いで尋ねると、エルが馬から飛び降りて俺に抱きつく。


「アキさん、怒らないで、くださいね」


 エルの身体が光る。 魔力は感じないからこれは……。


「エル! 何をして……!!」


 怒鳴りながら、身体に纏わり付いていた魔力がなくなっていることに気がつく。

 魔力毒の類いだったらしく、エルの神聖浄化の能力により、消失する。


 これで俺を中心に追われることはなくなったが、その犠牲はあまりにも大きい。


 俺の胸ほどもないエルの身体。 その手も、足も、顔も、見えはしないがおそらく身体全体が、刮げ落ちて剥がされていくように、消滅していく。


 白い肌がなくなり、赤い中身が見えている。


 すぐに光がなくなり、エルが治癒魔法を使って治していくが治りきらない部分がたくさんあり、ひどく痛々しい。


「いた……。 アキさん、逃げます」


 掴んで良いものかと迷うが、火に燃やされる訳にもいかないのでエルの身体を抱き寄せて火の玉の横の方向に逃げる。


 火の玉は追ってくることなく、そのまま直進していった。 それを見送り、近くに男がいないことと、ロトとケトが無事なことを見てからエルの方を向き直る。


「大丈夫、じゃないな。 なんでこんなことをした!」


「怒らないで、って……」


「怒るに決まっているだろ!」


 エルに怒鳴るが、エルは何故だか怯える様子もなく、治りきっていない顔でいひひと笑った。


「何を笑っている」


「アキさんが、僕のために怒っているのが、嬉しくて」


「何を馬鹿なことを! くそっ、後で話をする!」


 もうしないことを誓わせたいところだが、まだことが済んでいるわけではない。

 男が生きていることは確かだろう。 それに男の瘴気魔法への対処が出来ない。


 エルの神聖浄化を使えば対処が出来るが、それをするぐらいなら村人を見捨てて逃げた方がマシだ。


 放り投げた場所を見ると、小さく光っているものが見える。


「ロト! 敵はあちらにいる! 対処しろ!」


 ロトがケトを馬から降ろして光の方向に走ったかと思えばすぐに戻ってくる。


「なんか、剣壊の才(ブレイカー)で見ようとしたらすげえ重なってんだけど、あれ何?」


「瘴気魔法という、さっきの魔物だか魔法だか分からない奴だ。 治癒と防御それを纏っているから、長所が重なって見えるのだろう」


 ロトは頷いて馬から降りる。


「ビビって使い物にならないから置いとく」


 そう言ってからロトは中空から短剣を引き抜く。

 一本を俺に投げ渡し、もう一度中空から引き抜く。


「さっきの火の玉と一緒な感じの治癒魔法?

自動回復みたいな?」


 質問に頷いてから、走る。


 先に走っていたロトを追い越して、男の元に着いて短剣を振るう。

 恋慕抱盾(シールド・ピスカ)に弾かれ、それと同時にしゃがみ込みながら男の脚を蹴り転かす。


「全裸とか、変態かよ!」


 ロトが倒れ込んだ男に向かい短剣を投擲し、それを見送ることもなくもう二本の短剣を引き抜き、上に投げ、また引き抜いて男に向かって剣を伸ばす。


 恋慕抱盾シールド・ピスカに短剣が弾かれる。

 だが同時に降ってきた短剣が男の喉元に刺さる。


 その後またロトは短剣を上に投げて、恋慕抱盾シールド・ピスカが発動したのと同時に男の首を掴み上に放り投げる。


「アキ、こいつってバラバラにバラしたらどうなんの?」


「分からない。 焼け焦げても治るのは確認しているが」


「オーケー、合わせろよ。 俺は脚で、お前は首な」


 降ってくる男の首を見据えて、短剣を振り切る、

 俺の攻撃は防がれたが、横で振り上げられたロトの一振りは男に届き、男の右脚を付け根から切り落とす。


「もう一回!」


 地面に落ちている男の首に短剣を刺そうとするがまた防がれてロトの剣のみが届く。

 男と、男の切り落とされた両足が光り、脚が動き始める。


「ロト!」


 ロトの名を呼ぶと、ロトが短剣を投擲して男の脚が地面に縫い付けられる。


 また切れ始めた息を戻していると、男が口を開く。


「酷いな。 僕も怒ったよ。『私は悪を切り裂く正義の刃。 認められざる悪意を切り裂き、善をその中に通すもの』ーー」


「ロト!」


 男に向かって短剣を伸ばすが、恋慕抱盾シールド・ピスカに弾かれる。


 ロトの伸ばした短剣も同じ盾に弾かれる。


敵意抱雨(レイン・パック)。 遡れ」


 魔法とは違う魔法。 瘴気を元として発動する瘴気魔法は男の歌によって発動させられる。


 ケトが言っていた言葉を思い出す。 男は、水属性と、火属性……。


 地が揺れる。 遡れとの言葉を思い出す。 昨日の雨を思い出す。


「逃げるぞーー!」


 ロトに手を伸ばし、ロトの身体を無理矢理運ぼうとするが、地の下で蠢いている魔力の範囲外には届かない。


 最後にロトを投げ飛ばし、範囲外にまでやる。 その後踏み込もうとした地は、なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ