いいとこなしのソードブレイカー②
ニヤニヤと不快に思える表情で笑うロトに向かい、吐き捨てるように言う。
「知らなかったかもしれないが、俺も俺のいいところとか長所なんて見えたことはない。 なのにエルからはよく褒めてもらえる」
「のろけかよ。 マジで俺のことスルーし過ぎだろ」
口では文句を言っているが、その顔は楽しそうだ。
「お前の長所か……能力で分からないなら、後でエルに聞こう。 ああ見えて、人の事をよく見ている奴だ。
リアナも多少共に過ごしているなら見つけれるだろう。
グラウもよく分からないが、そういうのを見つけるのは得意っぽいな。
……俺からしたら、胆が座っているな。それだけで充分だろう。
有象無象よりかは役に立つ」
ロトのにやけ面がなくなり、驚いたような顔で俺を見る。
「俺も、全く人を見ていない訳ではない。
エルにしか興味がないのは事実だけれど、それでもエルを守るために必要な奴ぐらいは見てはいるつもりだ。
役には立ちそうだ、性格も根性が曲がっていそうなこと以外は、ってどうした」
「いや、な。 ……嬉しい」
ほんの少しだけ口角を上げて、少しだけ目を細めて朗らかに笑った。 ニヤニヤとした笑みよりは好感が持てる笑い方だが、何か違和感のような物を感じる。
「これはこれで、気持ち悪い」
「うるせえよ。
……まぁ、あれだな。 面接でもねえのに、自分の長所を探るとか馬鹿らしいよな」
そう言ってから、ロトは痛いと腕を抑える。 そういや、俺も手を怪我してたな。 また無駄に血を流してしまった。
こんな調子ではいつまで経っても本調子には戻らないと溜息を吐き出し、治癒魔法が使える……グラウを叩き起こすことにする。
近寄り、軽くグラウの身体を揺さぶる。
「ん? 敵襲か?」
「いや、怪我をしたから治癒魔法を頼む」
寝ぼけながら、俺の手とロトの腕に治癒魔法を掛けてからまた横になり目を閉じる。
「あれだ。 青春もほどほどにしとけよ?」
「いや、そういうノリじゃねーからね。 いや、そういうノリなのか? アキはどう思う?」
グラウはそう言ってから寝たのか、静かになった。
軽く夜空を仰ぎ、夏に近づき暑くなってきたぐらいの風を浴びる。
「そういうのでは、ないだろ」
もしもそういった物だったとしても、ロトが勝手に一人で青春していただけで、俺には関係がない。
「やっぱり違うよな」
ロトはすっきりとした顔で笑い、俺も少し釣られて鼻で笑う。
勇者の能力は、性格に依存するか。
先程は綺麗好きなのかと思ったけれども、それとは違う要因で能力は形作られているように感じる。
ロトは嫉妬深いと言っていて、それを中心として組み上げられているような能力だったが、嫉妬深いだけの奴ではないのは間違いないだろう。
エルも細かく気にして頻繁に浄化をするが、綺麗好きが一番の特徴とは言い難い。 勇気があるとか、怖がりとか、正義感が強いとか、自身の意思が弱いとか……間違いなく綺麗好きとかよりも強い特徴がある。
ロトの言っていた、人の長所を見る度に武器を呼び出す度にという言葉が頭の中で響く。
「向き合うべき、自身の性質か。
勇者ってのも大変そうだな」
もし本当にそうだとすれば、随分と胸糞の悪い物だ。
一方的に鏡を見せつけられているのは、俺がされては耐えきれないほどには不快だろう。
「そうかもな。 精神に依存するって聞いていたが、人格のどこにってのは、教えてもらえなかったからな。
まぁ気分は悪いが、悪いことばかりでもないさ」
「生きていたのとは違う世界を救うために動くのも、そのために苦労するのも馬鹿らしいとは思わないのか」
「別に。 元々あそこに帰属意識があったわけでもないからな。
それによ、前も言ったろ?」
「金と栄誉か。 そんなの欲しがるようには見えないんだがな」
「ちげーよ。 女の子にチヤホヤされるって方だよ。
英雄になれば、モテモテだ。 まぁ、金とかも欲しいけど」
俗物だな。 そう思ったけれども、ヘラヘラと軽薄に笑う姿を見れば、本当にそれを欲しがっているようには到底思えず、苦笑する。
ロトは魔石を取り出して、魔石割り人形くんを使って割る。
「アキも、女の子好きだろ?」
「いや、別にそうでもないが」
「嘘吐け! エルちゃんとずっとベタベタしてるし、こんな旅をしてる理由もそれだろ」
「まぁ、理由はエルだが……女好きだからといった理由ではない」
エルが好きなだけで、他の女に興味を抱いたことはないので女好きとは言い難いだろう。
「あと……何故、俺がエルのことを好いているのを、知っている。 能力の一端か?」
ロトは何故か驚いたような顔をしてから顔を抑えて溜息を吐き出す。
「そりゃ、見りゃ分かるだろ。 能力は関係ない。
というか、グラウもリアナも普通に気がついてるぞ」
「…………!?」
「むしろ驚いていることに驚きだ」
誰にも言わずに秘めていたことなのに、何故だ。
気がついてるという言葉から察するに、性格の悪いロトが言いふらしているという訳ではなさそうだ。
寝言とかが漏れて、と考えるが、こいつらの前で寝たのは朝から昼間に掛けてのエルの膝の上で、御者をしていた二人ならまだしも寝ていたロトが聞いているはずはない。
「てか、隠してるつもりだったのか?」
「……バレると、不都合がある」
どうすればいい。 エルにはバレていないよな。
「不都合?
まぁ、行動で丸分かりだろ。
何の利点もなく、危険な旅に出る。 必要以上にエルちゃんに寄っていて、他の奴が近寄ると異常に警戒。 そもそも他の奴と話す時と態度とか表情があまりに違う。百人いたら99人が三分で好意に気がつく」
「嘘だろ?」
もしエルに気がつかれていたら、避けられてしまうかもしれない。 昼間役に立つと言ってもらえたから、追い出されるとかはないと思うが。
「本当だ。
あっ、でも、エルちゃんは気がついてないかもしれなさそうだな」
「そうか、それなら……まだ。 エルには言うなよ。 言ったら殺す」
「お前、マジで殺しにかかってきそうで怖いんだけど」
ロトは溜息をついてから俺の方へと視線を向ける。
「隠したいなら、言わないだけでなくて行動をなんとかしろよ。
あんなにベタベタし合ってたら嫌でも分かる、馬鹿でも気付く」
「まぁ、事実ロトでも気がついてるな」
「誰が馬鹿だ。 ぶん殴るぞ」
とりあえずはエルにはバレていなさそうなので少しだけ安心する。
人心地ついて、ゆっくりと息を吐き出してから背を馬車に預ける。
そう言えば、昼間もエルとグラウに、ロトとリアナの仲の良さという話で変だと指摘されたな。
ぱっと見でロトとリアナが親密な仲であることは分かるらしいが、俺には全く理解が出来なかった。
昔から友人関係にある人間などいなかったせいか、人心の機微については人よりも感じる物が薄いのかもしれない。
「エルには気がつかれてないならいいか」
「なんでエルちゃんにバレたらダメなんだ? ほら、告っちゃえよー」
寝ている奴らに配慮してか、小さな声でヒューヒューと囃し立ててくる。
その微妙に間抜けな姿を少し睨む。
「エルに恋慕を伝えて、避けられてしまえば守れないだろ。 もし受け入れられても、それは本心からではなく俺に気を使ってや、今までの恩とかそういったもののせいでエルの意思を歪めてしまうかもしれない。
どう答えが返って来ようとも、現状よりもエルが幸せになることはない」
「普通に両想いとか、そういう発想はないのですかね。
まぁ、俺はどうでもいいけど。 リア充になったら嫉妬が酷いことになるしな」
「当然、好き合っている可能性も考えはしたが……。
碌な人間でもないからな。 頭が悪く、人心が上手く分からず、魔法も使えず、何も持っていない」
「微妙に身長も低めだし、性格も口も悪いもんな」
ロトのヘラヘラとした顔をぶん殴りたくなったが、ここで思い切り殴れば音でエルを起こしてしまうかもしれないと、耐える。




