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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第三章:君を守るのに俺は要らない。
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人の気持ちが分からない

 あのですね。 と子供らしい高い声が呆れたように発せられる。


「例えば、文句とか言うのって、仲の良い人と、知らない人だったらどちらの方が言いやすいですか?」


 優しく教えるような声。 真面目な話らしいのでしっかりと考える。

 仲の良い人、俺の場合はエルだろう。 知らない人、そこらへんのおっさんでいいか。

 そこら辺のおっさんに脚を踏まれたら、気を付けろぐらい言うか。 エルに踏まれたら……ありがとう? いや、それはおかしいか。


「まあ、知らない人の方が言いやすいな」


「えっ?」


「ん?」


「いえ、あ。 はい。 アキさんは……そういう方ですもんね」


 エルに呆れられて、その話は終わってしまった。


 人の心は難しい。 ゆらりと揺れる馬車の上で、広がる草原を見ながら溜息を吐いた。


 しばらく魔物もこないのでうつらうつらと寝ていると、エルの膝がびくりと揺れてそれによって頭がエルの膝の上から外れ、その勢いのまま馬車から転がり落ちる。


「ああっ、アキさん!!」


 何故エルはこうも焦っているのだろうかと思いながら、馬車の扉を軽く蹴って体勢を整えて膝を少し曲げて地面に着地する。

 その後、俺の後を追って落ちてきたエルの身体を受け止める。


「だ、大丈夫ですか!?」


「それは俺の言葉だろ。 怪我はないか?」


「間違いなく、僕の台詞ですよ! すみません。 びっくりしてしまい」


 エルの身体を見回してみるが、特に気になる点はない。 尤も、露出しているところは殆んどないので本当に怪我をしていないかは不明だが。


 立ち止まってエルの肌が見えるところを見ていると、少し先に行っている馬車からロトが降りてきて、なんだなんだと向かってくる。


「どうかしたのか?」


「えと……アキさんを上から叩き落としてしまって……」


「わお、バイオレンスだな。 エルちゃんは怪我ないの?」


 エルが頷くと、軽く首を動かして俺の方を向く。


「そろそろ魔石の補充したいから、魔物狩ってきてくれないか?

魔物寄せの道具もあるんだしさ」


 そう言ってからロトは馬車の中に戻っていった。

 あの絵本って、そのための物じゃない気がするんだが、と否定するにもロトはもう馬車に戻ってしまった。


 見張りは付けるとしても、夜営するためには魔石の補充をする必要があるのは確かなので、黙って従うことにする。


「あの、僕がおかしいんですか。 普通落ちた方の心配を……」


「エルも落ちただろ。

まぁ、怪我がなくて良かった」


 エルの頭を撫でてから、エルの歩幅に合わせて馬車の方に向かって歩くが、全然追いつかない。

 エルの身体を抱き上げて、少し走って馬車の中に入る。

 いつの間にか御者をグラウと交代していたのか、ロト以外にもリアナがいて、どこか落ち着いていて親しげに見える。

 エルの言っていたことが正しかったらしい。


「魔物を狩りに行くから、お前は代わりに上に上がって見張りでもしといてくれ」


「あー、はいはい。 エルちゃんを独り占めしたいから、男は除け者にってことか!」


「いや、魔物除けの効果はあるみたいだが、デカイ赤竜みたいなのだったら関係なくくるだろう。

発見が遅れたら一大事だ。

そもそも、独占したいのならば……リアナもになるだろ」


 出来ることならば、誰にも近づけさせたくはないが、それは現実的に考えて不可能だろう。 あくまでも現段階では、であるが。

 いつかグラウ程の強さを、いやグラウ以上の強さを身につけることが出来さえすれば……一人で守ることも出来るかもしれない。


 それを目標に、そう心に誓ってから剣を二本と絵本を取り出して絵本を紐で腹に巻き付けて、剣を鞘から抜き出してから馬車から飛び降りる。


 少し心地の良い風が吹き、それに従うように馬車の前へと走る。


 後ろではロトが馬車降りる音が聞こえる。


 俺の走りは馬車よりも数倍は早く、草ばかりの単調な景色が後ろへ後ろへと下がって行く。

 馬車が遥か遠く、見えないぐらいのところになってからも走った頃に、ぞろぞろと魔物が集まり出したのが分かる。


 恐らくは絵本に寄ってきたのだろうが、そもそも魔物はどうやって絵本の位置を認識しているのかが不明である。


 ただ人を狙ってやってくるにしては、どう考えても異常な数ではある。


 出会えば逃げ出すゴブリンや、隠れていることが多いホーンラビットが立ち向かってくるのは不慣れな感覚を覚えるが、単純に都合だけで考えると、素晴らしく効率的だろう。

 ざっと見、遠くにいるのを含めてもゴブリンは十体程、ホーンラビットは三体、オークが二体と多い。


 先手必勝とでも言うべきか、倒れ込むような前傾姿勢からの地面への踏み込み。 赤竜戦の後に気がついたが、俺は持続的に「走る」のよりも、瞬発的に「跳ねる」ことの方が得意らしい。


 メートルにして十は離れていただろうゴブリンの一匹は、二歩目の踏み込みを行うよりも前に俺の背中にいる。


 雑な切り口から血が吹き出ているのを視認し、多少血が足りなくともこの程度では問題ないことを確かめる。


 跳ねて、跳ねる。 剣技としては遥かに未熟で雑なそれでも、脚力と合わせれば形にはなる。

 地面を蹴り、魔物とすれ違う際に切りつける。 オークの硬い獣毛はそれでは斬り裂けないために、オークの前に立ち止まって剣を振り上げる。


 俺の認識した時にはオークは両断され、確かめるまでもなく絶命している。

 二匹目も同じように斬り殺す。


 一通り全滅させたかと思えば、また二三のゴブリンが遠くに見えている。

 二歩の踏み込みでたどり着くと二本の剣を同時に振り、同時に斬り裂く。


 適当に魔石だけ抜き取る。 オークの魔石は高朽刃のせいか半分に割れていて使い物になるのか不明だ。

 どうせ割るのだから大丈夫か。


 そんなことをしている内にまた魔物が見える。


 ホブゴブリンか。 昔は勝てたのが驚くような強敵であったが、俺も多少は成長しただろう。 少し荒れていた息を整えて、ホブゴブリンを見据える。


 前傾姿勢へと移行し踏み込み、中空にいながら、シールドを足元に張り、もう一度それを踏み跳んで再加速。

 グラウとは違い、高朽刃を放つには立ち止まって集中する必要があるので普通に通り過ぎ様に片方の剣を突き刺す。


 とりあえず、先制攻撃は出来たと振り返る。 ホブゴブリンはゆっくりと地面に倒れていった。


「し……死んでいる?」


 いや、死んだフリかもしれないと警戒しながら近寄るが、ホブゴブリンが動く様子も生命活動をしている様子もない。

 試しに首を突き刺してみるが反応がないので絶命しているのだろうと、先程刺していた剣をホブゴブリンの胸あら引き抜き、魔石を取り出す。


 それほど実感はなかったが、しっかりと強くはなっているようだ。


 一つ、先程に少し思いついたことがある。

 高朽刃は、言うならば全身を利用した完全に無駄を排除した剣撃だ。

 これ、剣を振るう以外にも使えるのではないだろうか。


 例えば、跳ねるとか。


 片腕で二度も使ったせいか、少し痛む腕を抑えながら、息を整える。 少し前傾姿勢を取り、高みへと朽ちゆく刃を使うときのように深く鋭く集中をする。


 足や腕、胴といった部分での身体の操作ではなく全身を一つの力を生み出すものとしての認識。 一瞬の、一番の集中を見逃すことはなく、前に跳躍する。


 気がついた時には、地面に全身が擦れながら転がっていた。


「いってえ……てか、よく考えたら、こうもなるか」


 高朽刃の時でさえ認識出来ていなかった。 それと同じように認識出来ない速さで跳躍なんてすれば、体勢の制御や着地、それどころか現在の動きすら認識出来ないのだから、まともに動けるわけがなかった。


 土を拭こうと顔を手で擦るとベトリとしたものが手に付着して、顔から血が出ていることに気がつく。


「……戻ろう」



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