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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第三章:君を守るのに俺は要らない。
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後悔

「乗せられた……!」


 酒に酔ってエルをべたべたと馴れ馴れしく触り回したあと、宿に帰ってきてからまた散々エルを口説くような言葉を言って、エルを困らせてしまった。


 どれもこれも、グラウが俺に酒を飲ませたのが悪い。 途中からエルに飲まされまくった気もするが、間違いなくグラウが悪い。 宿に帰ってからも飲み水代わりに飲まされたが、グラウが悪い。

 というかエルは何のつもりで俺にあんなに飲ませたのか。 まぁ、子供は妙に酒に憧れを抱いているから、それからきたものだろう。


 酔いが醒めたのはつい先ほど起きてからで、夕方近くまで呂律が怪しくなる程まで飲んでいたのを覚えている。


 酒は飲まないと、毎回飲んでから思っている気がするが、もうこれから酒を飲むのは止めることにする。 元々グラウのように酒が好きというわけではない。

 果物の果汁水とかの方がさっぱりと飲めて好みだ。


 まだ日も出ていない空を見上げながら溜息を吐く。


 昨日酔っ払ったロトとリアナが馬車を買うと言っていたが、あんな状態でちゃんとしたものが買えるのだろうか。

 野営するための道具はグラウ任せで、グラウも酔っ払っていたがそれが基本状態なので心配はいらないだろう。


 目も醒めてしまったことだし、今の内に荷物を纏めておこうと軽く伸びをしてから頬を掻く。

 寝ている間に涎を垂らしてしまっていたのか、ほんの少しだけそれの残りらしき感覚がある。



 またエルに格好の悪いところを見せてしまった。 出会いの時から傷だらけでビビっていたのだから、今更な気もするが。


 元々少ない荷物を軽く纏めて、剣は特に取り出しやすいようにしておく。


 二度寝しようとベッドに向かい、愛らしい寝顔をしているエルの顔を見る。 ゴクリと生唾を飲み込み、まだ身体には酒が残っていることを確認する。


 エルの丸められた身体に引っ付いている手が俺の方に伸び、俺の手を掴んだ。

 その手を軽く撫でる。 俺の手を掴んでいる手の手首のところに古い切り傷があることに気がつき、エルが本当に別の世界からきていることを再確認する。

 治癒魔法を使えばこのような特に健に届く程深くもない傷の跡は残らないはずだ。


 妙に真っ直ぐとした傷を見て何でついた傷だろうか。 と薄く考えながら、出会っていなかったから守れないのは当たり前なのに、守れなかったことを少し後悔する。



「アキさ、それ……納豆ですよ。 ちゃんと口から食べてください。 鼻には……」


 すごい寝言を言っているエルを見て、笑う。 いつも機嫌の悪そうな仏頂面なんて言われていたが、わざとではない本当に笑うことが珍しくなくなっている。


 それがいいことなのかは分からないが、少なくとも充足感はあり、気分は清々しい。

 鬱屈した嫉妬心や焦りはなくなった。 いや、エルが他の人と会話をしていれば嫉妬してしまうが。


 おやすみ、エル。 と起こさないように呟いて再び自分のベッドに潜り込む。

 おやすみなさい。 と眠る寸前に鈴のような声が聞こえた気がするが、おそらく夢か気のせいだろう。


 部屋が薄らと明るくなってきて目が覚める。

 エルは既に起きていて、機嫌がよさそうに髪の毛を手でくして笑っている。 何かいいことでもあったのだろうかと思うが、エルが一人で出歩くわけもないので勘違いだろう。


「あっ、アキさん。 おはようございます」


 俺が起きたことに気がついたエルは柔らかい笑みを浮かべながら鈴のような声を出す。

 ニヤニヤといやらしい笑みでも、ヘラヘラと薄ら軽い笑みでもない笑顔は実にいい癒しである。


「ああ、おはよう」


 軽く伸びをして、身体を解してから挨拶をし返して、立ち上がる。

 魔力の調子もいつも通りに悪く、身体は血が足りない感覚はまだのこっているも充分に元気だ。 俺の体調は問題になるようなところはない。

 エルも風邪を引いていたりしている様子も怪我をしている様子もなく普通に元気そうだ。


 しばらくゆっくりとエルを観察したり、身体に残った酒の匂いに顔を顰めたりしている内に、エルは範囲の広がった神聖浄化で部屋を綺麗にした後、荷物を持って立ち上がった。


「とりあえず、宿を取ってるのは今日の朝まででしたので早めに出ちゃいましょう」


 これ以上ゆっくりしている意味もないかと頷き、エルから荷物を引ったくった。 「少しは持ちますよ」と言ったエルに俺の手を持ってもらい、宿を出た。


 酔っ払っていたのでうろ覚えだが、少し約束の時間にはまだ早いだろう。


 とりあえず、朝飯でも食べようとエルを連れて近くの中に入る。

 この街での最期の食事を食べようと注文をして、いつものように店員に注文する。


「ここでの食事も最後ですね」


 軽く頷いて、外を見る。 少し人気が出てきていて、屋台が幾らか並び始めている。

 襲ってくる魔物のせいで赤竜に壊された部分の復旧が遅れているのだろうが、俺たちが絵本を外に出せば襲ってくる量は激減して復旧の目処ころも立つだろう。


 俺が守った街とまでは言わないが、多少直っていく様を観察したくもあるが、俺がいる限りはまともに直していくことも出来ないと考えると、運が悪いものである。


「まぁ、また縁があればくることもあるだろう。 そこそこ、優れた街ではあるからな」


 嫌いで苦手で仕方なかった、いい思い出が一つもなかったこの街も、ほんの少しだけ気分の良くなる思い出が出来た。

 好きとは言えないぐらいだが、嫌いじゃないところもなくはない。


「そうですね。 魔法について色々知りたいこともあるので時間が余れば来ていいかもしれません」


 エルの言葉を聞いて、背もたれにゆっくりともたれかかる。


「俺は家のことで学校とかには入れないけどな。 元々年齢的にも才能的にもキツイものがあるが」


「学園編はないんですね」


 そろそろ慣れてきたエルの聞き慣れない言葉を聞いていると、食事が運ばれてきたのでそれを口に運んでいく。


 食事を食べ終えれば、丁度いい時間になったのでグラウを呼びにいき、グラウのいた部屋をエルが浄化してからグラウを連れてロト達のところに向かう。


 グラウは眠たそうに目を擦っているが酒臭さはほとんど残っておらず、ヤニくさかったりと駄目人間ぽさはまだ何かと残っているが、それでもだいぶマシに見える。


「んな朝っぱらからだとあれだな。 怠い」


「そうだな」


 こうも朝早くだと日が横からぶつかってきて気だるくなるのは否定は出来なくもない。

 夏に近づき近寄っているように見える太陽が向かいにあれば、眩しくてしかたもないのは事実だ。


 そう愚痴を漏らしたグラウの肩には大きな荷物が背負われていて、ちゃんと旅の用意をしてくれていたことを察する。

 なんだかんだ言って、一番酔っていたせいで特に仕事が割り振られることはなく宿屋でエルを困らせていただけなのでどうにも偉そうには出来ない。


「んで、アキレアくんは、昨晩はお楽しみでしたか?」


 妙に意地の悪そうな笑みを浮かべて嫌な口調で俺に尋ねてくるが、昨晩は落ち込んでいただけだ。


「いや、別に楽しいようなことは、なかったな」


 酒を飲んでいたのは昼間からであるし、特に思い浮かぶようなことはない。


「なんだよ、お前ヴァイスかよ。 やーいやーいこのヴァイスやろー!」


「意味分からないが、人の元父親を悪口に使うなよ。 どんな反応すればいいのか分からない」


 悪口の例えに使われるような人間ではなかったはずだろう。 いや、昔はバカな奴だったのか?

 今でも頭は別に良くない、魔法とかばかりの男だったので普通に悪口に使われるかもしれない。

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