まったり
「おう、気にするな」
グラウはエルに向かって愉快そうに笑うが、それを見ている俺は少し不愉快に感じる。
何故だ、グラウの見た目が汚らしいからだろうか。
「まぁ、助かる」
誘っておいて嫌がるのもおかしいかと思い笑顔を取り繕おうとしながら礼を言う。
これでエル、俺、ロト、リアナ、グラウの五人か。 上手くいかなければ引き返して違う策を考えればいいだろう。
「じゃあ、いつ出発すんの?」
グラウの言葉を聞き、少し考えてからエルの方を見る。
「えと、明日にはロトさんとリアナさんと合流するので……そうですね。 そこで話してからになりますが、急いだとして明後日の朝ですかね」
「おう分かった。 んじゃあ俺も今日と明日はここに部屋を取っとくから、出掛ける時とか呼んでくれ。
他の奴もいるんなら、顔ぐらい合わしといた方がいいだろ?」
「酒は飲むなよ?」
「おう、依存症でもねえからな?
アキレアも武器とか買いに行くなら、俺が着いて行って選ぶのを手伝ってやるぞ」
「……木剣は武器にしないからな」
グラウは少し驚いた顔をしてから「まだまだ子供だな」と笑う。 どう考えてもグラウの頭が悪いだけだろう。
そのあと少しだけ話してからグラウは立ち上がる。
グラウが酒を買いに行くと言って去っていくのを見てから一息吐いて、ベッドに座り込む。
「飲まないって言ってたの、飲むんですね」
「まぁ、ああいうやつだ」
「金属の剣ではなくて木製の剣を使うのって、高校球児が金属バットを使うけど、プロ野球選手が木製バットを使うのと同じことですかね」
「悪い、何言ってるか分からん」
エルが少し落ち込んでいるのを見てから、ベッドに寝転がる。 なんだかんだ言って、ずっと休みなく動いていたので今日のところはゆっくりしても怠け者と言われはしないだろう。
寝転んでも眠れるほど眠気はないので、目を瞑らずにエルの方を見る。
エルは向かいのベッドに腰掛けていて、俺の視線に気がつくと少し恥ずかしそうに笑う。 可愛い。
拾った時のガリガリの頃より少しだけ肉つきがよくなり、血色も良くなった。 健康状態はもういつも通りに戻ったらしいのだが、腰や足などが細くて折れてしまいそうなのは変わりない。
膝丈まである半ズボンは、座ればちょっとした隙間が此方を向いていてその柔らかな細いふとももを盗み見ることが出来る。
白い。 元が色白で、日の光などには晒されないような場所にあるのだから当然ではあるけれど、不思議と感動がある。 色が薄いと少しは赤くなりがちなものだが、エルのその脚は白魚のような色のままである。
まるで絵画か人形か、などと思うがそんな作り物のように動かないようなものではなく、細い腰は捩れ、服の皺や半ズボンの隙間は少しずつ形を変えている。
時々、その隙間の形が奥を覗けるようなものに変わり思わず唾を飲み込み凝視する。 いや、思わずというのは間違いか。 自己が邪な目で見られるということを想定していないエルならば、それに気がつくことはないという打算があっての行動だ。
その安心しきった状態ながら、魔法の練習をせっせとしている姿は、非常に……いい。
「どうしたんですか?」
それでも当然限界はあり、エルは可愛らしく首を傾げながら尋ねてくる。
何と答えようか迷うも、口の方は少し達者になったらしく焦りながらもそれを感じさせないような口調で返す。
「今は何の魔法を覚えているのかが気になってな」
「ん、体力? を回復させる魔法らしいです」
その答えを聞いて頷き、エルは練習を続けて俺もそれを見るのを続ける。 奥の方を見ることも出来るが、なんだかんだ言ってもスカートではなくズボンのために、それ以上を覗くことは出来ない。
学生時代は全く興味や関心がなかったはずのそれも、エルの前では馬鹿だと思っていた同級生と同じようなことを考えている。
こんな様ではいけないとは分かっているが、明日からはこうもゆっくりした時間は作れないだろうと思えば我慢しようと思えない。
しばらく見ていると、エルが声をかける。
「また、頑張りましょうね。 アキさん」
「ん、ああ。そうだな」
無理はしてほしくない。 そうは思ってもエルの意思を否定するのも出来ずに頷く。
頑張らせたくはない。
エルに嘘を吐いて、共に頑張ろうと約束をして、その後特に何かある訳でもなく、ゆっくりとした一日を楽しんだ。
翌日、いつものようにエルが部屋を浄化してから朝食を食べに出て、剣を買いに行くことにする。
グラウを誘って行こうかと迷ったが、グラウは割と武器は何でも問題なく扱えるので剣の良し悪しが分かるような人ではない。
エルも博識ではあるが、剣についてはほとんど分からないらしく、自分で選ぶしかない。
魔法都市である、ここソウラレイでは武器屋というものは少なく、また規模が小さい。 こじんまりとした店の中に入り込み、気だるそうに欠伸をしている店主を横目に見ながら剣を物色する。
「そういえば、アキさんは他の武器は使っていたりしないんですか?」
キョロキョロと物珍しそうに店内を見渡していたエルが、一際大きな斧を見ながら呟くように聞く。
「使ったことはない。 剣も振り回し始めてから二週間程だからな、他のも試してみてもいいかもしれないな」
そう言ってから手頃な場所にある、俺の背丈よりも長い槍を持つ。 少し重いが振り回せないほどでもなさそうだ。
店主に断りを入れてから、素振りをするために店の裏手に出してもらう。
俺のような客は多いのか、広い空間で存分に振り回してみることが出来そうだ。
エルに大きく離れてもらい、槍を構えて突いてみる。 空を貫き、その勢いを殺さないように振り払うように回し、振り上げてみる。
「すごいですっ」
エルの少しわざとらしい歓声を聞きながらもう一度振り回してみる。 使えないこともないが、単純に合わない。 力も弱いわけではないが、いささか重すぎる。
もう少し短いものに変えれば存分に振り回すことが出来るだろうが、それでは槍の利点が減る。
最後に高朽刃が使えないかを試してみて、やはり使えないので槍は止めることにしておく。
次に戦斧を試してみる。 運ぶ段階で「あっ、これ無理だ」と気がついたが、試しに振るだけ振ることにしてみる。
振り下ろすことは当然出来るが、勢いよく振り上げるのは酷く疲れる。 明らかに力不足だ。 高朽刃も当然使えない。
遥かに重いのは一通り無理として、次は前のものより長い剣、前のものと同じぐらい、前のものよりも短いものを三つ試してみる。
一番使いやすかったのはいつも通りの普通の大きさの剣だった。 次に長い剣、一番扱い難かったのは短い剣である。 どれも高朽刃は使えるが、長い剣は二本持つのは少し腕が辛かった。
前と同じような武器にしようとした時に、エルが一つの武器を見て俺の服を引っ張り見るように促す。
「これ刀ですよ! KATANAです!」
「これがそんなにすごいのか?」
「斬れ味が良くて、でも脆いです。
聞いただけの話なんで信憑性は微妙なんですが、二三人斬れば斬れ味が落ちるとか、上手く斬らないと曲がるとか、曲がっても手で曲げ直すことで一時的に直せるとか……」
「脆いならいいや。 斬れ味はあった方がいいが、そんなに必要でもないしな」
何故か残念そうな顔をしているエルを他所に、適当に丈夫そうな剣を二本選んだ。
他に、エルの勧めで予備の剣を一本、投擲に向いていそうなナイフを数本と細かい作業が出来そうなナイフを買い、外に出た。




