続・女神様への質問
笑みを浮かべて、女神様は話し始める。
「魔法は、魔力を元に意思の力で歪めて変質させたものだね。
基本的に自分の意思が強く及ぶ範囲の魔力なら魔法として使えるよ」
「魔力って、何ですか? 地球の人である僕にもあるみたいなんですけど」
「あー、それはあの世界の理が与えているものだから、あの世界に行けば誰にでもあるんだ。
だから、ーーちゃんがこのまま日本戻っても、魔力は使えないね。 ここも理が及ばないところだから、魔法は使えないの」
理、まぁルールとでも思っておこう。 そう決まっているものはそう決まっている。 という理屈は分からなくもない。
「属性、魔法の属性っていうのは、その意思の差ですか?」
「そうだね。 性格とでも言ったら分かりやすいかな。
火属性なら熱血、みたいな?
実際のところ、魔法は万物を表現出来るものだから属性の区切りとかは必要ないんだけどね」
表現という言葉をしてから、女神様は緩く息を吐く。 アキさんがよくするような感情表現であり、その意味は多岐に渡るが、僕にはその意味が少しではあるが分かる。
女神様は切なさ、つまらなさを感じているのだろう。
「表現出来る。 ですか」
「うん」
言葉尻を捉えて聞くなんて無粋なことをしたが、気を害した様子もなく憂いた顔を見せて頷いた。
「元々は、芸術とか、まじないごとの文化だったからね。
どうも、戦いに使われるのは悲しいんだよ。
……仕方ないことだし、私としても魔法なしで魔物に戦いを挑んでもらったら、可哀想だから困るんだけどね」
アキさんの戦っているイメージが強いので、魔法がそんなに強力であるイメージはないのだけれど、使えれば魔物との戦いに役に立つのか。
女神様には少し悪いけど、覚える他はなさそうである。
「魔物って、何ですか?」
その言葉に女神様は少し難しい顔をする。 そんな顔をしながらも言葉に淀みはない。 相当数の人の質問に答えていたのだから、当然かもしれないけれど。
「哲学的ゾンビって知ってる?」
詳しくはないが、確か自意識はないけれど自意識があるのと同じように動いているから、自意識があるようにしか見えない者だったような。 軽く頷く。
「それとは似ていて違うけれど、生物のように見えるし、生物にしか見えないように動くけど無生物の生き物だよ」
「あれは、生きてないんですか?」
「うん。 生きてはいないかな。
生物の定義を地球基準にするとだけど。 瘴気ってのがあってね、それを魔王が利用して作るの、生物の模倣品を」
「繁殖をしないから生物ではないってことですか?」
「そういうことだね。 子は成せなくても交尾もするし、意味のない雌雄もあるけど。
それに人間が言う一部の魔物、あの赤竜とは違う本物の竜とかは繁殖するけどね。 そういうのは私からすると魔物という定義からは外れるね」
一つの質問が終わればまた新たな疑問が湧き上がる。
時間は大丈夫かと思うが、現状時間を把握するための物がない。 ゆったりと紅茶を飲んでいる女神様は余裕があるらしい。
「あとどれぐらいここに入れますか?」
「まぁ、次の人もあるから……。 ーーちゃんは頑張ってるから引き延ばすとして、十分ぐらいかな」
「また、会えますか?」
「おうふぅ……。 ガンガン攻めてくるね、ちょっとえっちい目で見てくるし、私のことを落とす気満々?」
身体をくねくねと捩り、恥ずかしそうにするフリをしてからかってくる。 少し間を開けてから、小さく首を横に振る。
「まぁ、ーーちゃんにはあの子がいるもんね」
「アキさんとは……そういう関係では、ないんですけど。 ……僕、こんなちんちくりんですから。
その、瘴気をどうにかして生まれるのなら、神聖浄化で倒すことは出来ますか?」
たしか、効果の上がった神聖浄化は瘴気を浄化出来るはずだった。 現状は薄い瘴気のみではあるけど。
「神聖浄化だと、無理かな。 ほら、その能力って、血の汚れとはは浄化出来ても、人の体内にあったら出来ないでしょ?」
頷く。 言われてみれば当然のことだった。
「あと、魔王はまだ復活していないのに、魔王の手で生み出されている魔物がいるのはなんでですか?」
「基本、魔王が手ずから作ってるんじゃなくて、世界の理に干渉して自動的にその瘴気が発生している場所で生存出来る魔物が生まれてるの。 あのアークウルフとかは、狼の胎内で瘴気が発生した場合に生まれるたりね」
「……あまり、考えたくはないんですが。 人の場合……」
「あっ、それは大丈夫。 人は誰でも少なからず耐瘴気の部分があるから。
瘴気が濃くなると……」
非常に気分が悪くなってくる。 嫌悪感と吐き気が同時に襲ってきて、女神様の前なのに嫌な顔をしてしまう。
「ーーちゃんの能力だと、濃い瘴気を払えるようになるし、距離を増やせば浄化出来る範囲を増やせるから、じゃんじゃん浄化していってね」
役に立たない能力だと思っていたけれど、思っていた以上き有用だった。
魔物は倒せないけど、魔物の発生は防げる能力なのか。
「分かりました。 瘴気は見たことないですけど、頑張ってみます。 瘴気はどうやったら出てくるんですか?」
「人が死ねば出るよ。 すぐに散るから人が死ねば魔物がすぐに発生するわけじゃないんだけど」
「それも、ないようにします」
口から溜息が漏れ出る。 思っている以上に勇者の仕事は大きな意味を持っていたらしく、その強い使命感が僕の身体を緊張で動かないようにする。
「無理はしないでね」
「はい、ありがとうございます。
能力のレベルアップってなんでするんですか? 僕の場合アキさん任せなのにどんどん上がっていくんですけど」
「レベルアップは、魔物の瘴気以外の部分、魔物の今までの経験を吸って……みたいな。 特に害はないよ。
あと、同じ魔物だとレベルは上がりにくくて色んな種類の魔物を倒した方がいっぱい手に入るね。 長生きの魔物だと尚たくさん」
魔物の経験を吸っているのか……。 よく分からないけれど、魔物のことを知ってからだと気持ち悪く感じてしまう。 まぁ、それも仕方ないだろう。
「あの、これは分かるか分からないんですけど、あのエリクシルのぼうけんって何ですか?」
「あれは……世界の理の一つ、みたいな? 人間がどうこう出来る物じゃないけど、魔王の手に渡ると世界の理が書き換えられて、強い魔物が出せるの」
魔物の手に渡してはいけない系のアイテムか……。 責任がまた一つ増えた。
「じゃあ、勇者が死んでも死なないって話は本当ですか?」
「それはまぁその通りだね。
死んでほしくはないから、死なないようにね。 死んだらこっちの世界には戻せないから、ここにやってきてから、地球の方に返すことになるしね」
「身体ごとですか? 死んでいても?」
「身体ごと、回復させてからだね」
「防具や衣服はどうなりますか?」
「そりゃあ、それごと呼び出すよ。 裸にするような趣味はないから」
「例えばお風呂ですっ転んで頭を打って死んじゃった場合は……」
「うーん。 衣服ごと呼び出してあげたいんだけど。 触れてないとなあ」
「僕の場合は、触れている防具とか衣服は全部呼び出してもらえませんか?」
「うん。 いいよ。 任せておいてね」
出来る限りは死なないようにするのだから、あまり聞く意味はなかったかもしれない。
「あっ、そろそろ次の人のところにいかないと……」
「あ、最後にちょっといいですか?
寝てる時に呼び出すなら、お昼寝したりしてたらここに来やすくなりますか?」
「えっ、まあ、比較的呼び出しやすいかな」
「ありがとうございます。 色々と質問したり、要望を送ったりしてご迷惑をおかけします」
「いや、いいよ。 気にしなくても。
私も楽しかったしね。 じゃあ、無理をしない程度に頑張ってね」
手を振る女神様に頭を下げると、視界がホワイトアウトした。




