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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第一章:名無しな俺と名騙りの勇者。
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困窮と勇者

 ギルドに登録して、魔物の討伐を始めてから五日。

 宿屋のベッドの上で考え込む。


 ゴブリン討伐ではその日食うのがやっと、それに狩れるペースにムラもある。

 それ以上の収入が見込める魔物となれば繁殖力がゴブリンほど旺盛ではないためか、それとも有用な素材にもなるから優先して狩られるためか、なかなか見つけることが出来ない。


 そもそも……服の袖を捲り、膿んできている左腕を見る。

この周辺で見かけることのあるゴブリンより収入の高い魔物となると、野生の狼を束ねる、狼の突然変異によって産まれるアークウルフぐらいのものだが……。

 従わせている狼は収入にならないために、苦労の割には収入は少なく、何より強い。


 足の速さならギリギリ勝てるぐらいでそれほど問題にはならないが鈍らな剣の一振りでは弱らせることしか出来ずに先に逃げられるか、あるいはこの腕のように手痛い反撃を受けるかだ。


 このまま何も手当てをしなければ、遠くなく腐るだろう。 腕を切り落とせば腐っても死ぬことはないだろうが、金がないから腕を切り落とすことも出来ない。


 とりあえず、金だ。 医者、モグリでも見習いでもいいから医者に手当てをしてもらわないと死ぬ。

 治癒魔法の一つでも覚えられたら。 自らの才のなさに腹が立つ。 拳を握り振り上げるが、何も出来ずに手を下げる。

 下のベッドを壊してしまえば金が嵩む。金を払えず払える見込みもなければ、運が悪ければ犯罪だ。

 犯罪者になれば遠からず、元実家に迷惑がかかってしまう。


「くそが……」


 欲を張らずに、アークウルフなんかに手を出さなければ……いや、このまま続けていたら近い未来には怪我をしていただろう。

 欲張ったからの問題ではなく、怪我を甘く見ていたことが問題だ。

 この程度の怪我は、消毒さえしておけば何の問題にもならないものだ。 今からでも消毒でどうにでもなるが、それすら出来ないのが、ギルド員という現状だ。 そのことに怪我をするまで気がついていなかった。

 これはなるべくしてなった、当然の帰結だ。


 どうする。 家に泣きつくか。 元父親は無理でも弟になら。

 俺は、怪我をする度に勘当された家に戻るのか?


 一週間ほど野宿で済ませば、消毒ぐらい出来るか。 いや、宿を出れば清潔な水で洗うことすら出来なくなる。

 水だけ売ってもらえるように頼むか? 外で土まみれになっていたら幾ら洗っても足りないのは明白だ。


 身売り……いや、これも出自がバレるか。


 そろそろ、夜が明ける。 考える暇があれば、魔物を狩るしかない。

 売っても二束三文の上着を着て、膿んでいる腕を抑えて外に出る。 今から行ってギルドに着けば、丁度開く頃だろう。


 舌打ちを一度。 外に出てから頭を掻き毟る。


「あぁ、風呂に入りてえ」


 痒い、シラミが付いているのかもしれない。 街の外に都合よく川などの水場でもあればいいのだが、未だ見つかっていない。

 この街周辺の地図でも調べたら見つかるのかもしれないが、そんなのを見る金がない。


 ギルドに向かい、依頼を受ける。 先に受けていなければ、魔石を渡す時に依頼を取り下げられてより安い値段で買い叩かれた。

 受け付け嬢が申し訳なさそうな顔をしていたから、何もすることが出来ない上に、ギルド以外では働くことすら出来ないので離れることも不可能。


 依頼を受けるのと共にもう見慣れた受け付け嬢からまともに切れない剣を借り受け、明るくなってきた朝日を浴びながら街の外へと歩く。



 【ゴブリンの群れの討伐】。

 一日では到底無理な数の討伐依頼、数が多いほど厄介で強いと聞くが報酬がいい。 五倍の量のゴブリンを狩る必要があるが、報酬はゴブリンの十倍だ。

 二日で狩れたとしたら、いつものゴブリンの五倍の収入で、上手くいけば傷の手当てぐらいはなんとか出来るだろう。


 今日はいつもの依頼がないから食事は今からの一食だけになる。

 この五日で食べ慣れたパンの切れ端を買うために屋台に行き、小銭を取り出す。

 服に擦れ、怪我をしている腕に痛みが走る。


「ってぇ……」


 小銭が地面に散らばり、それを拾い集めていると茶色い手が俺の小銭の一つを摘まむ。

 顔を上げてみれば、黒髪に黒目の男。


「これ。 お前のか?

その髪染めてるのか? 眼はカラコンか?」


 180cmほどはありそうな身長に、太い身体は威圧感があり、ジロジロと不躾に俺の姿を見てくる目に少し怯む。


「いや、どう見ても現地人か」


 ロトと同じ黒髪と黒い眼。 それにこの男には見覚えがあった。


「勇者……」


 その言葉に驚いたのか、男は少し表情を変えてから笑った。


「あれ、やっぱり現地人じゃなかったか? まあ外人もいてもおかしくないか」


 男は俺に異世界の硬貨を手渡し、屋台で美味そうなパンを二つ買い、一つを俺に手渡す。

 身長の割に人懐こい笑みを浮かべて、親指を大通りの方の道へと指す。


「まだ他の勇者に会えてなかったんだ。 情報交換……いや、仲間での交流でもするか?」


「いや……勇者について少し知っているだけで、俺は勇者じゃない。 この硬貨も勇者と名乗る奴に会って貰ったものだ」


 魔力の強い奴の近くにいると、いやに萎縮しそうになるが平静を装って話す。

 敵意はなく、どちらかと好意的に俺を見ているのは分かる。


 大柄な男に付いていきながら、男の話しを聞く。


「じゃあ、協力者か。 いや、違うな……。

まぁ、遅かれ早かれだし教えてもいいか」


「……まぁ、少し気になっていたからありがたい」


 もはや切羽詰まっていて、多少妙なことに巻き込まれても生活をなんとかしたいと考えている。

 だが、あまりに得体がしれないためにどうにも気が乗り切らないのだ。


「俺達勇者は、地球ってところから派遣されてきた傭兵みたいなもんだ」


「地球……聞いたことないな」


「まぁな、遠いからな。

目的は、世界を滅ぼそうとしている魔王って悪い奴がいるからそいつの対処。

信用しきれないって表情だな。 あと三週で魔王が復活して魔物が増えるから、そうなると勇者が色々と出てくるだろうから、それから信じてもいい」


 何が目的なのだろうか。 こんな小汚い俺に話しかける意味はあるのか。

 考えられるのは硬貨と、この服だけど、目的が分からない。


「んで、勇者に協力してくれる人が欲しいんだが、他に誘われてるなら仕方ないか。 異世界なのに戦闘従事者が少なくてな」


「ああ、そういうことか……」


 他国からきた傭兵で、それの仲間が欲しいってことか。

 多少ニュアンスに差がありそうだが、だいたいはそういうことだろう。


「あ、この説明で分かるのか。 他の勇者でも協力してくれるなら助かる。

仲間は多いに越したことはないからな」


 このまま魔物を狩って暮らす生活と、得体の知れない人間と共に得体の知れないやっと戦う生活か。

 このままだと間違いなくのたれ死ぬよりかは、マシだろうか。


「分かった。 件の勇者の仲間になることにする」


 痛む腕を抑えながら男に伝え、パンを突き返す。

 いくら腹が減っていても、ただ恵んでもらうだけというのは気に入らない。

 男も大柄だ。 これぐらい腹の中に入るだろう。


「感謝する」


 頭を下げる男。 身体がでかい男が深々と頭を下げるのは違和感があるが、何処か丁寧さもあった。

 怪我をしていない方の手を振り、男と別れる。


 仲間になることを決めたし、ゴブリン退治は後回しにしてロトを探すか。

 痛みが酷くなってきた腕を抑えながら、初めて会った時の酒場に向かう。


 ロトと会えたらいいんだが、ロトは会えなかったらどうするつもりなんだろうか。

 もしかして何も考えてない奴かもしれないと思うと、仲間になる気が少し失せてしまった。


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