続・異種族との交流⑥
エルと星矢の二人と共に街を歩く。
星矢は購入した果物を手に取り、手慣れた様子でそれを消す。
星矢の持つオートイートの能力は、重量は星矢に蓄積されるものの、手が塞がることがないので便利である。
「腐ることはないし、多めに買っとくか。一人ならこれでも予約なんだけどな」
「腐らないのか?」
「ああ、時止まってるっぽい」
「便利だな。……その能力、あの魔王に剥奪されることもあるんだよな。物を入れたまた取られたらどうなるんだ?」
「実感したことはないが、俺の中に溜めてたものが出てきて俺が爆発して死ぬか、周りに出てくるか、中の物も暴食の魔王に取られるかだな」
腹の中から物が溢れて中から破裂する星矢の姿を想像して顔を歪める。
「爆発して死ぬのは見たくないな」
エルとの時間を邪魔をしてきたので殺してやろうとも思っていたが、そのような光景は見たくない。
「俺からしたら、能力を剥奪される=暴食の魔王との敵対=ゲームオーバーだから、結局死ぬからどうでもいいんだけどな。そんなことより……」
星矢は眉をひそめながら、俺に虚空から取り出した剣を手渡す。
「囲まれてるぞ」
俺は剣を受け取ったまま、周りを見渡す。 敵らしい影は見当たらない。
エルフは魔力量が少ないから分かりにくいせいもあるが、これだけ人が多ければ曖昧な魔力感知では難しいか。
エルに目を向けると、彼女も分かっていないのか俺に身体を近づけて動きを止める。
「さっきから、同じ獣人が数回すれ違っている。 あと、爬虫類っぽい人種も遠くから様子を伺っている」
「害がありそうなのか?」
「分からないから警戒しとけ。 ……話しかけるか?」
「まぁ、そっちの方が手っ取り早いか」
星矢が指し示した方向にいた獣耳が生えた獣人の女に近づき呼び止める。
「俺たちに何か用か?」
「……何がだ?」
反応が薄く、たまたま何度もすれ違っていただけか、そう思ったのは一瞬で、周りから薄く殺気を感じ、エルを手で庇いながら剣に手を当てる。
「しらばっくれるのが下手だな。敵意が丸出しだ。 ……まぁ、いいか」
こちらに手を出してくる様子はなく、話し合いに応じる気配もない。あくまでも監視ということなのだろうか。
獣人の女から目を離し、買い物を続けることに決める。
「……大丈夫なんですか?」
「星矢と俺がいる状況なら負けることはないだろうな」
「……そうではなくて、あの、サイスちゃん達は」
「まぁ、大丈夫だろ。 リアナがいるしな」
人の減った場所で、星矢から受け取った剣を鞘から軽く抜いて見る。細身な剣身に見えたがかなり重く長い。
重心の偏りがなく、俺好みの癖のない作りだ。
「いい剣だな」
「ああ、適当に渡したやつな。欲しいならやるが……そこらへんの店で買ったやつだぞ? 何の魔術もかかってない」
「魔剣の類はあってもまともに使えないだろうから十分だ。 どんな力があっても、魔力を籠めたらシールドが発動するから」
「……シールド?」
そう言えば星矢には説明していなかったか。
手から小型のシールドを出して見せる。
「俺の魔力はどうやってもシールドにしかならない。生活用の魔導具を使っても、シールドが発動する」
「いや、魔導具って属性関係なしに発動するだろ?」
「そのはずなんだがな。少し前までは魔導具なら使えたが、この頃はそれすらダメだ」
「……風呂とかどうやって……あー」
エルは自分に向けられた視線に気がついて、顔を真っ赤にする。
「ち、違いますよ! 普通にクリーンの魔法で綺麗にしてるだけですから! 一緒に入ったりなんてしてませんからっ!」
「まぁ夫婦なんだったらいいんじゃねえの?」
「そういうものなのか?」
「そういうものじゃないですっ!」
風呂か。エルと……。
エルの浄化魔法がある以上、風呂で汚れを落とすのは効率が悪い。魔力の消費量も多いし時間もかかる。
だが、汚れを落とすことをメインに考えなければ、とてもいいのではないだろうか。
エルの白い肌がほんのり赤く染まり、薄い体を余すことなく見れて、それを抱きしめることも出来る。
二人で湯に浸かりながら抱き合えたり……とても良い。
「……風呂か」
「……真面目っぽい顔で変なこと考えるのやめてください」
エルは恥ずかしそうにそう言ったあと、俺の服の袖を引いてしゃがんだ俺の耳元で囁くように言う。
「か、考えておきます」
許しを得た。小躍りしたい気分を、エルと手を繋ぐことで解消しながら、鈴木の屋敷に戻る。
面倒なことをさっさと終わらせて、三時間ぐらい風呂に入りたい。
屋敷に戻った俺は、剣の手入れをしていたリアナを呼び、星矢と別れて街を歩く。
リアナは俺の持っている剣に興味を示しつつ、エルに尋ねた。
「ところで、どんな奴に話を聞くんだ?」
「んぅ……確実なのは、エルフさん達ですね。あと、獣人さんにも尾行されていたので、そっちでもいいかもです」
「異種族か……共に旅をしていたケトを除くと、ほとんど話したことないんだが。 敵かもしれないのにいいのか?」
「嘘を吐かれたら吐かれたで都合がいいです。何を隠したいと思ってるか分かりますから」
「……よく分からないが、任せる」
エルの得意とする洗脳魔法を使えば早いと思ったが、昔の魔力量でもカツカツだったので、今の魔力量だと一つの問いに答えさせることも出来ないぐらい一瞬しか掛けれないか。
洗脳魔法の特徴として、その者が望まないことであればあるほどに魔力の消費が激しくなるというのがあることも考えると、一秒も保たないだろう。
あの魔力の多かった頃のエルでさえ、俺と自分自身にしか使っていなかったぐらいだ。
まずは居所が分かっているエルフに会いに行くことに決まり、多少の警戒をしながら先ほどエルフに逃げられた場所に戻る。
「……いますね。数人、衣擦れの音が聞こえます」
「方向は?」
「……そこまでは分かりません」
相変わらず耳が良くて助かる。
魔力量の低いやつ相手には魔力感知が意味を持たない。 それに当然弓矢も魔力を持っておらず、目と耳で判別するしかない。
分かれた方向から同時に飛んできた三本の矢を全て斬り落とし、ため息を吐く。
「増えたな」
「……どうします?」
「勝てないこともないが、話をするのに、反撃するのも問題だよな?」
「まぁそうですね……」
「獣人の方行くか。バラけてる弓使いを一人ずつ捕まえるのは骨だ。 こういうのは星矢とサイスの方が向いてるだろうしな」
星矢には矢はどうやっても効かないので、そちらに任せた方が安全だ。
この威力の矢だと、俺やリアナのシールドは貫通するだろうけど、サイスの土なら防げるだろうことを考えながら引き返す。
もう正直この街のことなんてどうでもいいから早くエルと風呂に入りたい。
一糸も纏っていないエルの小さな身体を想像しながら、先ほどの獣人達が尾行してくるのを期待して街中をぶらついた。




