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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第二章:高みへと朽ちゆく刃。
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対赤竜

 エルを背負えたはいいが、赤竜は黒い髪をしているエルを狙っている。 何かのついでに、ではあるが。


 二度目の炎が迫ってくるのが分かる。 背中にいるエルを前に回して、背中は軽く炙られるがひたすら走ることでなんとか避ける。 次は、この方法では無理だろう。


 赤竜は黒髪を狙っている。 おそらく勇者だからだろう。 一つ思い付く。

 赤竜に一際大きな魔法がぶつかり、赤竜がそちらに向かって炎を吐き出す。


 その隙を使ってボロボロになった服を脱ぎ、エルに被せる。 赤竜の炎でボロボロの屑炭になった家の破片を握る。

 左手が焼けるが、その炭を握りつぶして粉々にする。


 幸いにして、俺の髪は黒に近い。

 その炭を頭に擦り付ける。


「アキ……さ、ん。 何、を……」


 エルが怯えが治りきらない声で、けれども強い意志を持って俺に言う。


「お前は足手まといだ。 そこらの物陰に隠れていろ」


 赤竜に向かって走る。

 剣はない。 左手も背中も焼けていて息も切れている。


 痛みに背を押され、エルから遠ざかるように走る。


 ーー向かってくるか。 勇者。 面白い。


 赤竜の炎が眼前に迫りくる。エルがいなく、赤竜から遠く離れている今ならば、横に飛び跳ねる。熱で喉が焼けるが直撃はしていないだろう。 俺がまだ生きているのがその証拠だ。


 赤竜が反撃してきたせいか、魔法の攻撃が減る。 誰もが死ぬのは恐ろしいらしい。

 臆病者が、と心の中で毒づくが、焼けた喉ではまともに愚痴を吐き出すことすら出来はしない。


 吐きだした息が痛い。 踏んだ地面が熱く、足の平が焼ける。

 身体が焼ける焦げ臭さを感じながら決意する。 死ぬ訳にはいかない。 死ねばエルを守れない。


 怯えはある。 当然、エルが狙われているのは怖くて怖くて堪らない。

 ここに来たことを強く悔いている。 実力もないのにこんなところにきて化け物と戦っているんだ。 馬鹿だ、馬鹿だろう。


 全身が軽くではあるが焼けているせいか、痛みは酷い。

 熱がこもりすぎたのか頭が上手く働かない。


 赤竜の炎の熱に全身を焼かれながら、も避け続ける。


 赤竜が放ち、飛んでくる炎のパターンは一つではないらしく、今来た放射状に広がる形ではない、炎弾とも呼べるような形状をした火炎が向かってくる。


 放射状の炎よりも、速い。 跳ね飛んで逃げる。


 炎弾は地面に着弾するとともに、熱と光を撒き散らして爆ぜる。 炎弾の爆発により飛んできた燃え盛る家の破片が横腹に突き刺さる。


 呻き声が口から漏れ出るが、間髪をおくことなくもう一発が吐き出される。

 同じように飛び逃げるが、今度は家の塀を盾にすることで破片を防ぐ。 代わりに塀が燃えていき、辺りの温度を引き上げるが今更だ。


 腹に入り込んでる破片のせいか口から血反吐が吐き出される。 それを吐き出しも飲み込みもせずにまた走って赤竜の炎を避ける。


 辺りの家や店は吹き飛び焼け散り最低限の盾にするものはなくなる。 逃げてしまえばエルに気がつきそちらに向かうかもしれない逃げる訳にはいかない。

 止まるも逃げるも出来はしない。 だったら、進め。 動け。


 魔力を吐き散らかしすぎたのか少しだけ動きを緩めた赤竜を見据えて、睨み吠え散らかす。


 まずは道を作るしかない。


 俺の魔法、シールドは俺の特異な体質により、外に放出さえすれば勝手にその形と性質を得る。

 いつもは悩まされていて、家を出たり退学になったりと不幸の元凶ではあったが、今だけはありがたい。


 上手く働かない頭でも、何も集中出来なくとも失敗することはない。 前に前に、赤竜へ跳べるように跳ね飛びながら、シールドで足場を作る。


 あと、10メートル。 赤竜が炎を吐き出す。 放射状に広がるそれは、近くになればなるほど強い熱量を持つが、範囲は狭い。シールドを展開し、より一層強く蹴り割って跳ぶ。


 炎を避けてまたシールドを展開して蹴り進む。 あと1メートル。赤竜の背にたどり着く。


 これからどうすればいいかも分からずにへばりつく。


 大きく暴れる赤竜の背から振り落とされそうになるが、右手だけでなく、焼けて割れて中から血が出る左手も使い、固い鱗に大口を開けて噛み付いて食いしばって飛ばされるのを耐える。


 しばらく暴れて息を切らしたのか、少しだけ暴れるのが収まったときに鱗の隙間に指を突っ込んで引っぺがそうとする。


 ーーこの、虫ケラが!


 痛みでも感じたらしく、赤竜は一層激しく暴れまわるが手も口も離さない。 鱗も鋭いために握っている手が食い込み切れるが構わず掴み続けてそれを剥がす。


 剥がした鱗をそのまま持ち、剥がした場所に突っ込んで戻してやる。

 赤竜のそこから少しだけ血が流れ出る。また鱗を掴み……目が霞んでくる。 こんな時なのに、血が足りない。


 赤竜が暴れる勢いを利用してもう一枚引っぺがす。 このまま、剥ぎ殺してやる。


 そう思っていると、身体が宙に浮いていた。 手を離した訳でも、歯が抜けた訳でもない。

 土の塊が落ちていくのが見える。 下にいた連中が放った魔法だろう。 魔法の土の塊に打たれて、背中の骨が折れたのか、嫌な音がしていたのに今気がつく。


 シールドを張り、着地してもう一度赤竜の背中に張り着こう。


 眼前に赤が迫る。 炎ではない、竜の鱗が見える。


 出来る限り硬いシールドを幾つも前に張り、両腕を前に振り上げる。 シールドが割れて、両腕が折れる。


 赤竜の尾で叩き付けられたのだと、遠いどこかで理解する。 シールドのガラスのような破片が全身に降り注ぎ、切り裂き抉り取って鮮血が身体から舞う。


 シールドを張り、途中で身体を受け止めようとするが落下の速度と叩き付けられた速度は一つのシールドでは止めきれず、幾つものシールドを割りながら止まる。


 身体が止まったのと同時に跳ぶ。 跳ねる。

 シールドに混じり落ちてきた、先ほど剥いだ赤竜の鱗を口て受け止める。 赤竜は殺したと思ったのか違うところを見ている。


 シールドを蹴り割って移動しながら、赤竜の眼前にくる。

 ギョロ、と俺の姿を視認するその眼に向かい、落下の速度を利用しながら頭を振り落として、口に咥えた赤竜の鱗を突き出す。もう一度、もう一つを、足場にシールドを張ろうとするが、身体から魔力は出ない。 魔力が枯渇した。


 中空で暴れる赤竜を他所に、俺は成す術もなく自由落下に身を任せる。


 死んで、堪るか。

 エルエルエル。 守らないと、救わないと、助けないと、一緒にいないとエルエルエルエルエルエルエルエルーー。



 エルの笑顔を思い出す。 控えめにほんの少し口角を上げて、照れたように柔らかく「いひひ」なんて鈴のような音色を聴かせてくれて。 エルは優しいて可愛くて強くてかっこよくて臆病で賢くて。


 喉が焼けて声にならない吠え声でエルの名前を呼ぶ。 声が擦れて尻すぼみに小さくなっていくが、それでもエルのことを思い出して、叫び続ける。


「エル。 エル……」


 身体中から無理矢理に魔力をかき集めて、でっち上げるように小さなシールドを張り、一瞬で割れる。

 一瞬だけ遅くなったところに赤竜の血が口の中に入り込む。


 エルがエルが、と身体を振るい立たせるが中空からの落下では意味もない。


 それでも力が尽きて、身体から血が抜けて行くのと同時に力や声がなくなる。


 死ぬ。 死を受け入れられなくとも。





「ーーアキさん!!」

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