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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第十二章:強くなりたい≒弱くなりたい
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他種族との交流8

 猫の獣人の前に集まると、少女は座ったまま身体を動かして少し距離を置こうとする。


「猫耳に猫尻尾、可愛いです」


 相変わらず、猫好きだな、と若干の嫉妬を混ぜて思いながら見ていると、少女の目が主にこちらを向いていることに気がつく。

 他の奴も俺の言葉を待っているらしく、サイスが唯一無言で耳に触ろうとして避けられているだけで、他の奴に動きはない。


「言葉は分かるか?」


 仕方なく、あるいは当然なのかもしれないが俺が代表をして声をかけると、小さく少女は頷く。


「……只者じゃ、なさそう」


 と、少女は俺を見て口を開いた。 髪の色や目の色に注目しているのかと思ったが、どうやら違うらしい。


「腕に覚えはある。 こんなところで寝たいたから危険だと思い、起きるまで待っていただけだが、大丈夫そうだな」

「……お腹空いた。 何か頂戴?」

「図々しいな。 まぁ、いいか。 もうすぐに街にも着くから大丈夫だろう」


 おっさんが馬車の中に入れていた食料を取り出して少女に渡し、少女は大急ぎでそれを食べ終えてから話を始める。


「……あっちの街で買い物は難しいかもしれない。 税が高すぎるせいで、買えたものじゃない」

「税? って、あれだよな、確か……なんだ、あれだ」

「インフラや社会保障で再分配するためにお金や物を徴収することですね。 ……エンブルク家の領地でも取ってますよ。 国の人に資料を以前見せてもらいましたが、エンブルク家の領地は結構高めです。 その分、色々としてるみたいでしたけど」

「そうなのか」


 食ってから言うとはいい根性していると思ったが、最悪そこら辺でロトとレイと出会っても大丈夫な程度には食料を積んでいたので、一つや二つの街を通り過ぎても大丈夫だろう。

 全員の一週間分の食事と一日のレイの食事量は同程度ぐらいだから、かなりの余裕を持っていると言える。


「まぁエンブルクの領地は立地としてかなりいいので、豊かですけどね。

 エンブルク家に貯蓄はないですし、代理でやってる人達も数年で変わるので妙なことが難しいですし……。 あれ、もしかしてエンブルク家って上手いこと領地の経営してます……?」

「たまたまだろ」

「分かってますけどアキさんが言う言葉ではないですよね」


 どうでもいい話だと思い、無視しようとすると、エルが俺の服の袖を引く。

 仕方なく口を開いて話を続ける。


「何故税というものが高くなっているんだ? 何かあるのか?」

「……私も、旅してるだけだから詳しくはあんまり。 王都での祝いに行くのに人をいっぱい連れて行くためって聞いた。 あの街にいくの??」

「どうだろうな。 一度はゆっくりと宿に泊まろうかと思っていたが、そこまで余裕があるわけでもないしな」


 見栄やらのために大勢を連れて行くのか。 馬鹿らしいな、と思っているとエルが俺を見てため息を吐き出した。


「戦勝記念なのに呼ばれてないんですね。 ……本当に貴族なんですか?」

「いや、呼ばれてはいたが、気にする必要もないかと思って無視した」

「パーティーを無視してで他国に行くって、ダイナミックに謀反っぽいですけど、大丈夫なんです?」

「エル、俺の父や祖父がそういった集まりに行ったことがあると思うか?」

「ほとんど知らない人と一切知らない人ですけど、何かしら大変な事態が起こることは分かります。 最悪、知らない人が王城に住み着く危険性がありますね」

「あちらもくると思ってないだろうし、来たら困るだろ」

「確かに予定していないところにエンブルクの人が来たら……いえ、僕としては嬉しいですけどね。 アキさんもサイスちゃんも好きですから」


 首を傾げている猫の獣人の少女は不思議そうに見たあと、欠伸をして俺たちを見る。


「それにしても女一人で旅というのは珍しいな。 特にこの時代、危険も多いだろう」

「……ん、そうなのか? 私の集落では普通だけど」

「ここらでは見ないな。 何かの目的があるのか? 観光ならエンブルクの領地には何もないが」

「……番いを探しに。 強い人間がいるなら、教えてほしい」


 俺の袖を掴んでいたエルがピクリと動き、表情が固まる。

 知らない人ということで怯えた様子を見せていた彼女だが、焦りを見せて一歩前に足を動かして、俺の背から抜け出す。


「そ、その強いというのはあれですか? 強さだけですか、賢さとか」

「……ん、それは気にしないな。 ああ、肉体が強い方がいい」

「本当にですか? 3+4が出来ないレベルで頭が悪くて、それは勉強したことがないからではなく、勉強してそれだったとしてもですか?」

「……いや、そんな人間はいないだろ。 勉強しなくても出来ると思うが」

「もしいたとしたらです」

「……それぐらいも出来ないのは……ちょっと困るかなぁ」


 安心したようにエルは息を吐き出して俺の背の後ろに戻り、服の袖を掴む。


「アキさん、3+5は、なんでしょう」

「えっ、突然だな。 悪いが、両手で数えられない桁の計算は俺の能力を超えている」

「手で数えれます……」


 指を折って数えると確かに数えることが出来、なるほどと頷く。

 なんとか数えることが出来た。


「……なんだったんだ?」

「さあ、エルはものすごく可愛いが、少し変なところがあるところも可愛い。 すごいな、エルって」

「……お、おう」


 少女は少し離れて逃げようとし、近くにいたサイスが少女の手を掴む。


「サイス、猫耳が気に入ったのは分かったが引き止めるなよ。 わざわざこれ以上人を増やす意味もない」

「嘘をついていたから少し気になっただけだ」

「嘘? 何がだ」

「分からないけど、嘘ついてた。怪しい」


 サイスは少女を見て首を傾げる。 何を根拠にしているのか分からないが、本気で言っているらしい。

 少し考え、嘘をついていたとしても道すがらの人を捕まえて尋問は出来ないと判断して、手を離させると少女は食事の礼を言って去っていく。


「それで、嘘というのはなんだ?」

「どう見ても嘘をついてた。 税がなんとかの話の時に」


 サイスはそう言い張るが、その根拠となるものがなく、信用出来るものではない。


「サイスちゃんは、なんでそう思ったんです?」

「見たら分かる」


 エルと二人で顔を合わせる。 エルとしてはサイスを信じたいのだろうが、そう言う根拠はなく信じにくい。


「どうする?」

「僕が判断していいものか……」


 二人で迷っていると、リアナが何を言っているというばかりに言う。


「そんなもの、行ってみて確かめればいいだろう。 真実でも税が重いだけで、何もせずに通り過ぎて無視すればいい。

 何か他の問題があるのなら、解決してやった方がいいだろう」


 確かにその通りではあるが、リアナはいいのだろうか。


「その……ロトさんに会うの、遅くなりますよ?」

「そのロトなら、何かあるかも知れないなら無視はしないだろう。 何もなければ、大して時間も取られることはなく、情報が聞けるかもしれない。 行く方がいい。

 もちろんのこと、アキレアの指示には従うが」

「なら行くか。 税やらが嘘で安ければ宿に泊まれるしな」


 久しぶりにエルと二人でゆっくりと過ごしたい。 リアナが訓練をしたがるだろうし、サイスもぐずるだろうが、少しぐらいはいいだろう。

 エルも少し不満そうな様子が見えてきた。


 当初の予定通りに、馬車を次の街へと進めた。

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