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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第十二章:強くなりたい≒弱くなりたい
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他種族との交流7

 

 休憩の時間は体が鈍らないように、主に訓練に当てるようにしていた。

 目を閉じて体内に意識を向ける。 熱や魔力、心臓の動きと、その心臓によって動かされる血液の脈拍……高みへと朽ちゆく刃という技の理合は体内にこそある。


 頭の中で動きを繰り返し、動きを少しずつ修正する。


「アキレア、手合わせを願えないか?」


 少し思考にブレが起こり、頭を抑えながら立ち上がる。


「寝ていたのか?」

「起きていた。 馬車の中でも寝たりとしていたのに、寝れる奴がいるか」

「アイツは寝てるぞ」

「……あれのことはよく分からん」


 仰向けで警戒心もなく草むらに寝転がっている少女にも見える青年、星矢は何を考えているのか分かりにくい。 多分、ノリという謎の理屈で動いている手合いだ。

 おそらく俺よりも頭がいいが、俺よりも頭を使っていない。


「勇者というのは変人が多いな」


 リアナは剣を取り出しながら小さく空を仰ぐ、ロトのことを考えているのかと思うと、あまり悠長にしているのも悪いだろうか。


 剣を引き抜き、垂らすように持つ。


「……どこからでも。 余裕があれば魔法も絡めたらいい」


 声もなくリアナはこちらへと駆け、剣を振り上げようとして──その手を脚で止める。


「ッ!」

「それほど遅いわけではないが、どこに来るのかが分かりやすいな。

 知能の低い魔物との戦闘なら問題ないだろうが、人間相手にするやり方ではない……と思う」

「私よりもアキレアの方が強くなってないか!?」

「対人に慣れただけだ」


 手を蹴り飛ばして、体勢が崩れたところに剣を突き付ける。


「勇者は確かに変な奴が多いな。 ロトもよく分からない、大山は割とまともな気もするが……欲を感じられないな、月城は趣味が悪い」

「降参だ。 ……その話、続いていたのか」

「ん? ああ、そうだな」

「趣味が悪いというなら、あれもだと思うが……」


 リアナは、恨めしそうに彼女を睨んでいるエルの方に目を向ける。 俺は剣を戻し、数歩後ずさってリアナから離れるとエルの顰め面は少しだけマシになる。


「まぁ、否定はしないな。 剣は随分と良くなっていたが、魔法の方はどうなっている」

「……才があるとは言い難いな」


 リアナは手から無色のガラスのような物を出してこちらへと飛ばす、さして早くもないそれを掴むと、切れ味の悪い包丁のような刃の短剣のような形をしていたことが分かる。


「決め手にはならないな。 魔物相手には牽制にもならなさそうだ」

「一番マシなのはこれだな」


 リアナは剣を振るい、その先から微かに光る何かが伸びているのが見える。


「シールド」


 その魔法を俺の魔法に巻き込むことでシールドに変質させて防ぐ。 どうやら剣の切っ先を伸ばすような魔法らしく、先ほどよりも早く使い勝手が良さそうだ。


「……初めからこれを使っていれば良かったんじゃないか?」

「そうか? 邪道だろう、魔法としては」

「なんでだ?」

「ほら、魔法ってなんか飛ばすものだろ?」

「……いや、そんなことはないと思うが」

「ほら、ファイアーボールとか、あるだろ」


 あまり普通の魔法使いというのは分からないが、勇者やエンブルクを除いた知り合いを考えればそういう魔法を使っている奴が多いように思う。

 学校の試験でもそういう魔法が課題にされることが多かったことを思うとそちらの認識の方が正しいのかもしれない。


「ああ、確かに魔法使いはそういうところあるな。 ……まぁ、あまりそれは参考にしなくていいんじゃないか?」

「おっさんもそう思うぞ」

「ほら、おっさんもそう言っている」

「いや、それは参考にしていい意見なのか? 言っては悪いが……ふくよかで、戦えるようには見えないが」


 おっさんはやれやれ、と言った。


「おっさんな、これでも長くエンブルクを守っている系のおっさんなんだぞ?」


 エンブルクは系統化出来るほど多くのおっさんに守られているわけではない。


「……確かに、エンブルクといえば当主はあれだが、武家としては名門。そこに長くいる使用人が弱いはずもないか」

「いや、その理屈はおかしい」

「そう言えば、前に行った時には見なかったが、どこかに出かけていたのか?」

「ああ、隣国にいたよ。 仕事でね」

「エンブルク家に仕事ってあるんだな、アキレア」

「いや、基本ないだろ。 ……あるの?」

「いえ、エンブルク関係ないですよ」


 なんだ、関係ないのか。 そう頷いて何か妙なことに気がつく。


「副業か何かか?」

「あっ、いや、エンブルクに来る前にしていた義賊で、貴族の金を盗んでばらまいてたんだよ」

「じゃあ長くないじゃねえか」

「待てアキレア、そのツッコミの前にそもそも犯罪だろう」

「あ、そうか。 良くないぞ」

「ちっ、反省してまーす」


 おっさんはそう言ってから俺の頭を撫でる。


「というか、そもそもどういう流れでこんな奴を雇うことになったんだよ」

「さあ……」

「涙で脱水しない自信があるなら聞かせよう」

「言っておくが、私はエンブルク家の全てを信用していないからな。 どのような感動話であろうと信じなければ与太話に過ぎん」


 少しは信じてくれ。


「あれは私が隣国に指名手配され、逃げた先の街であったことだ」

「指名手配犯かよ。 流石に聞き流せる範囲じゃないぞ」

「エンブルク家の人間が何を言っている」

「流石の俺の家も指名手配犯はいねえよ。 あっ、そう言えば俺がされてたな」

「やはりされてるじゃないか」


 まぁ、指名手配もされるときはされるか。


「坊ちゃんも指名手配を?」

「ああ、この国でちょっとな」

「何をしたんで?」

「……国付きの勇者と揉めた。 別に犯罪を犯した訳ではないからな」

「犯罪を犯しても犯してなくても指名手配されるんだなぁ。 じゃあ、犯罪を犯して指名手配された私の方がとかじゃないか?」

「確かに」

「納得するなアキレア。 旅に出て、まだ何かあった訳でもないのに不安になってきた……」


 リアナは頭を抑える。 エルがゆっくりとにじり寄ってきているのを横目で見ながら、おっさんの話を聞き流す。


「それで、いつも通り貴族の金を盗んでばらまいてってしようと思い立ち、その街を治めているらしい貴族の屋敷に向かったんだ」

「それが、エンブルク家だったと」

「ああ、化け物揃いの一家と聞いていたからやめておこうかとも思ったんだけど、情報屋から先代当主が戦に行っていて、次男が失踪、当主である坊ちゃんが奥方に監禁されていると聞いて盗みに入ることにしたんだ」

「ボロボロすぎるだろ。 ……監禁?」

「気にするな。 夫婦だからそういうこともある」


 いつの間にやら俺の横になってきてべったりと張り付いているエルの頭を撫でる。


「それで屋敷の中で盗みに入ったところで、階段で転けて怪我をしたんだ」

「……根っからのエンブルクか」

「まだ使用人でさえないだろうが。 人の間抜けを人の家に押し付けるな」

「そこでそこの奥方に治していただき、その時近くにいたメイドに間取りを聞き、金庫があるなら一番安全な場所……エンブルク家なら当主の部屋だと思ってそこに向かったんだ」


 よく家主に対してここまで堂々と語れるものだと感心するのと同時に、自分の屋敷の守りの薄さに頭が痛くなってくる。


「……エル」

「えっ、あっ……すみません。 その、階段で転けてたので……普通にエンブルクの人かなぁって……思ってました」

「エンブルクに階段で転ける印象はないだろ」

「えっ」


 それにその間取りを教えた使用人もおかしいだろう。 知らない顔の奴が間取りを聞いて教えるなど、泥棒に協力しているとしか思えない行動だ。


「そして当主の部屋にも入ったんだけど、そこに金はなかった。 それどころか壁までなかった」

「壁は俺が蹴り壊したな」

「それから毎日通って隅々まで金を探していたら、なんとなく居心地が良かったので世話になることにしたんだ。 贅沢もしていないようだったしな」

「……えっ、私なりの解釈をするが、つまり泥棒が家に住み着いたって話なのか」

「しかも気がつかずに旅に泥棒連れてきちゃってます。 えっ、これ、どうなんです? 僕にはちょっと理解出来ないです。 正解がここまで分からないのは初めてです」


 俺にも分からない。 何というべきなのか、突っ込むべきかと迷っていると、サイスの声が出て聞こえ、おっさんを除いた三人は天の助けが来たかのようにそちらへ向いて、サイスへと駆け寄る。


「あのネコミミ、起きたみたいだ」


 また面倒くさいと思いながらそちらに向かう、誰も口にはしないが満場一致で、おっさんのことは後回しにすることにした。

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