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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第十二章:強くなりたい≒弱くなりたい
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他種族との交流④

 久しぶりにゆっくりと街を歩ける。

 連日の無茶のせいか全体として避けられているような感じを覚えるが、まぁ実害はないので構わないだろう。

 屋敷の使用人が居心地の悪い思いをする可能性もあるけれど、まぁ俺がどうこう出来る問題でもないので諦めるしかない。


 エルの一言で子供用に菓子を買っていくが、果たして俺が持っていったものを食うかどうか……。 その時はエルに渡させたらいいか。


 新しく増えた地区はまだ真新しい雰囲気であり、ところどころに建物があるだけでほとんどが草の生えた空き地だ。

 そこで走り回っている子供達は俺が近くに来た瞬間に立ち止まり、全力で逃げていった。

 顔は見ていないが、おそらくは傭兵崩れの子供だろう。


「……嫌われてるな」


 てっきり俺は気にすることがないと思っていたが、想像と違って堪える。

 背丈がエルと同じくらいだからそのせいだろうか。


 溜息を吐き出せばエルが頭を撫でようとしたのか手を上に伸ばして爪先でピンと立つが、届かないと気がついたのか諦めて、ポンポンと肩を叩く。


「げ、元気そうで良かったですね」

「そうだな……」


 嫌われるのも仕様のないことだ。 殺してはいないが親の仇のようなもので、あちらから見れば悪党である。


 これだけ嫌われていれば、すぐに来たということが広まるだろう。 隠れることは出来ないと思いながら孤児院の扉を叩く。


「アキレアだ。 少し様子を見にきた」


 もう既に広まっていたのか、バタバタと足音が響いたと思えばすぐに扉が開き中年の女性が見える。


 何かを言おうとして閉じてとしている姿を見て、流石に急すぎたかと思うが変に取繕われてしまうのよりかはマシだろう。


「急にすまないな。 子供の様子を見にきただけだから、気にせずいつも通りにしてくれればいい」


 そうは言っても無理だろうけれど一応言っておく。

 子供の姿はないが埃が立っている様子や、湿気を含んだ暖かい空気から先程までここにいたことが分かる。


「……まぁ普段通りも無理か。 適当に案内してもらえるか?」


 そう頼むと、カクカクと首が動いて返事をする。

 立場上多少敬われることは多いが、ここまでの反応は初めてだ。


 何か怯える理由でもあるのかと思い、魔力を探ってみるが子供が部屋の中に隠れているぐらいで変わった様子はない。


「その、まだ子供ですので……どうか、どうかお許ししていただけないでしょうか……」

「……多少のことだと気にしない」

「んぅ、アキさんは優しい人ですからだいたいのことは許してくれますよ。 寝ぼけて顔の上でタップダンスを踊っても笑顔で許してくれます」


 あれは寝ぼけてだったのか。 てっきり俺が頑張っていたからご褒美をくれたのかと思っていた。

 エルが冗談を言ったと思ったのか、女性は愛想笑いをして、奥の部屋に通される。


 応接室のような場所らしいが、こんなところを見ても仕方ないだろう。

 とは言えど、この様子だと子供を見に行けば余計な騒ぎになりそうだし仕方ないか。


 淹れてもらった紅茶を口に含む。 月城が淹れる物より美味い。


「美味いな。 ああ、これは手土産だ。 適当に食ってくれ」


 手に持っていた菓子を渡し、椅子の後ろに隠れていた子供を引っ張り出す。

 驚く女性に子供を押し付けて、ついでに持っていた包丁を取り上げる。


「っ! やめろ! 返せ!」

「返すのは構わないが、持ち方が悪い。 あんな持ち方だと力が入らずに刺す時に指が外れて手が切れる」

「意味分からねえよ! 死ね!」


 女性が慌てすぎて顔を真っ青にしているのを見てエルが落ち着かせようとする。 それを横目で見ながら、子供の手を掴んで包丁を握らせた。


「人を刺すつもりなら刃を上に向けた方がいい。 それはまぁいいとして」

「全然良くないです」

「他の奴はどうした?」

「お前には関係ないだろ!」

「いや、一応見にきたんだよ。 まぁ見たところ問題なさそうだな」


 この前より身体が重くなっていて子供の成長の早さを思い知る。 エルは不思議と成長しないが。

 栄養状態には問題なさそうだし、見たところ怪我もしていない。 元気も良さそうで問題があるようには見えない。


「包丁持ってくるのは問題あると思うんですけど……」

「まぁ恨まれるのも当然だろ」

「そうでしょうか……」


 女性に抑えられながら、子供はふーふーと息を荒くしていて今にも襲いかかってきそうだ。

 それでも女性を振り払って向かって来ないのは、彼女に怪我をさせないためだろうか。


「……いや、こいつが恨むのは当然のことだろ。 俺が捕まえたから親と離れることになった」

「そうだ!」

「……強盗行為を働いていたからですよ」

「それは仕方なくだろ。 取れる手立てがそれしかないなら、そうするしかない。 飢えろとも言えないからな」

「そうだ!」


 俺もそうしなければエルが飢える状態になるならそうするだろう。


「でも、抵抗するのも当然です」

「良い悪いではなくな。 どちらも自分や周りの人のためにしたことで、そうするしかないのだから仕方ない」

「……法を破っています」

「大切な人を見殺しにしてまで守るものでもない」


 顔を顰めているエルの頭を撫でながら子供に言う。


「何かしら言われることもあるだろうが、お前の親は間違ったことはしていない。 というか、そろそろ出てくるだろうから刺そうとするのやめろ。 お前が入ることになるぞ」


 驚いている子供を見て、扉の方に向かう。 来て早々だが特に問題なさそうなので充分だろう。

 エルと共に孤児院から出て、顰め面のままの彼女の頭を撫でる。


「いひひ……じゃないです。 何もアキさんが悪いみたいなことを言わなくてもいいじゃないですか」

「別に俺が悪いとも言ってないだろ。 どちらも仕方ない行為だった、恨まれるのも仕方ない」


 撫でられてニヤケながらも顔を顰めようとしているせいで少し妙なことになっている。


「……アキさんが嫌われてるのは見たくないです」

「まぁ帰って来た頃には、親も出てきて恨みも忘れるだろ。 会うことがあるかは分からないが」


 特に虐待などはなさそうだったので問題はない。

 家に帰って明日に備えて休もう、エルと二人きりで過ごせる時間も少ないことだしな。


 屋敷に戻るとリアナが鍛練をしている姿が見えて、明日に備えて休んでおくように伝えるが鍛練は続けられる。

 強くなって会いに行く予定がズレたせいで焦っているのだろうか。


「頑張ってますね、リアナさん」

「空回りに見えるけどな」


 剣だけでどうにかなるものでもない。 俺の場合は魔物化による身体能力の向上、ロトの場合は勇者の異能と強力な魔法、などと強い人間にはそれだけの理由がある。

 グラウのような剣技を目指しているのかもしれないが、女の身だとどうしても身体能力は落ちるし、あの技量には何十年と時間がかかるだろう。


 真っ当な剣技の訓練をしたところで、実を結ぶ頃には遅いだろう。

 ……まぁ、それが訓練を止める理由にはならないか。


「リアナ、剣筋がブレている。 これ以上は無駄だろうから、魔法の練習に切り替えろ。 文字は読めるだろ、書庫に魔法のことについての書物がある棚があるから使えばいい」


 頷いた彼女を見て屋敷の中に入る。


「どうして魔法を勧めたんですか? リアナさんにはあまり向いてなさそうですが……」

「疲れながらやって妙な癖を付けるのも馬鹿らしい。 やめろと言ってもやめないから、別のことをやらせて体を休ませようとしただけだ」

「……ずっと何かしてないと駄目なタイプですね」


 まぁ、魔法は大して上達しないだろうけれど、少しでも手札が多い方がいいのは間違いない。

 言いはしないが、多分リアナはそこまで強くはなれないだろう。


 身体能力や魔力量などが、どうしても強い人物に比べると見劣りする。

 技量だけなら悪くないが……。


 少し頭に引っかかるものを覚える。 エルを部屋に連れ込んでからゆっくりと考えるとある人物を思い出す。


 身体能力も魔力も並みだが、以前はかなり手こずった……毒やら火薬やらを扱っていた黒装束の少女。


 俺や父親のような直接的な強さではないが、ああいう搦め手も一つの強さだろう。

 搦め手や道具に頼るのも悪くない。 後でリアナに提案してやるか。

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