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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第十二章:強くなりたい≒弱くなりたい
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他種族との交流①

 旅の用意をしていると、見知らぬ鞄が一つ置いてあることに気がつく。 エルが下着などを入れているのだろうかと胸を膨らまして中を覗くと、紅い目がこちらを向いていた。


 ──パンツを覗く時、パンツを覗いているのだ。


 そんな言葉が頭の中に浮かぶが、意味が分からなかった。 もしかしたら、苺柄や、赤の水玉模様と見間違えたのかもしれないと思い、もう一度大きく開けて見る。


「……ふっ、良くぞ見破った」

「……なんだ、サイスか。 何している。 隠れて遊ぶにしても、邪魔だが」

「いえ、荷物に紛れて忍び込もうとしていたんじゃないですか?」

「……そうなのか?」


 サイスは俺から目を逸らし、鞄の端を手に取って鞄の中に篭ろうとしたので、力づくで開けて、彼女の小さな身体を取り出す。

 バタバタとしている彼女を見て、結構きつく言ったつもりだが、足りなかったらしい。


 何かを言おうと口を開き、それを遮るようにサイスが言う。


「エルちゃんも好きだが、お前のことも好きだ。 リアナも、少ししか一緒にいないけど、好きだ」

「だから、一緒にいたいか。 危険もある。 そんなことで──」

「一緒にいたいじゃない。 守りたいんだ」


 虚勢で睨むわけでも、虚ろを見て誤魔化すわけでもない。 真っ直ぐ、力強く俺を見ている。


「……守りたいと思うのは、一種の弱さでもある。 今日見たエルフの男にしても、仲間を助けたいと思い、理性的な行動が出来なくなっていた。 経験の浅いサイスなら、尚更のことだ」

「言葉が詰まった。 いつもより言葉が長い。 自信がないことを口にするなど、らしくない」


 その指摘に言葉が詰まる。 俺と同じ理由で動くと言われてしまえば、何と言い返しても通じない。 けれど、やはり実力不足は否めない。


「エルちゃんよりも、強い。 だいたいの魔物にも遅れを取ることはない」

「……言うことを聞け」

「アキレア、お前は私のことが好きなのだろう。だから、安全なところにいてほしい。 どうでも良ければ、勝手に付いてきても問題ないからな。 放って行って、他の馬車で追いかけてきても問題ない」

「……だったら、なんだ」

「お前に勝ち目はない。 私を納得させられる理屈はなく、お前を除けば私を止められる人はいないのだからな。 かと言って、動けないほど打ちのめすことも出来ないだろう。 連れていくか、着いてくるのを黙認するかの二つであれば、連れていくことを選ぶ」


 俺とエルだけなら、走って逃げられるが、リアナもいればそういうわけにはいかない。 あとでリアナと落ち合う手もあるが、リアナを追けられれば意味がないか。


 エルが以前ほどの魔力を持っていればまだしも、現在だと洗脳魔法も一秒も保たないほどしかない。


「サイスちゃん。 ……危険な旅なんです。 不慣れなサイスちゃんを──」

「私は一人旅でここまできたからな、エルちゃんは記憶を失って経験がないと聞いたぞ」


 エルが一瞬で打ち負かされた……!? 少し考えて、アホなサイスには不可能な言葉ばかりだと考え直す。 本人は荷物に紛れるつもりだったようだし、あまり難しいことは考えられないだろう。

 だが、隠れて着いていっても放り出されることはサイスにも分かるはずだから……何かしら算段があったのだと思う。


「……入れ知恵はリアナか?」

「……ひみつだ」

「リアナか。 ……あいつは、どういうつもりなんだ」


 リアナに取っても、サイスの存在は邪魔だろう。 ロトに会う手助けにも、旅の役にも戦力にもならない。

 サイスの頭に軽く拳を振り下ろして、頭を抑えながら倒れ込む彼女に言う。


「馬鹿が。 ……勝手にしろ」

「……ありがとう」


 エルはサイスの頭を心配するようにして撫でる。 とりあえず自分の頭を殴って見たが、エルは「何をしているんだこいつ」みたいな表情で見るだけで撫でてくれない。


 エルの前で膝を曲げると、ポンポンと軽く撫でてもらえた。


「……撫でられるために、たんこぶ出来るまで自分を殴るって、呆れますけど、若干の感心まで抱きます」

「そうか?」

「褒めてません。 ……本当にサイスちゃんを連れていくんですか?」

「あとで追いかけられた方が面倒だ。下手に撒いて、飢え死にされても気分が悪い」


 サイスを持ち上げて、部屋から放り出す。


「お前の持ち物はリアナに用意させろ。 妙な入れ知恵をしたのだから、自分で面倒を見ろと伝えろ」

「お菓子は幾らまでだ」

「なしだ」

「ッ! 了解した」


 去っていくサイスの背を見て溜息を吐き出す。


「アキさんは優しいですね」

「そんなわけがあるか」


 エルを抱き締めて、ベッドに倒す。 恥ずかしがっているエルの表情を見ながら、無理矢理にキスをする。 口付けは毎日どころか、毎時間はしているのに、変わらず恥ずかしそうな表情だ。 俺も飽くこともなく夢中になっているので変わらないが。


「アキさん……もうしばらく、こうしてちゅーは出来ないんですね……」

「……別に、隠れてなら幾らでも」

「見られるかもしれないなら、出来ませんよ」


 行きたくなくなってきた。ロトなんてわりとどうでもいい気がして、エルは俺の顔を見て嬉しそうにクスクスと笑う。


「んぅ、呆れちゃいます。そんなに僕とちゅーしたいんですか?」

「……旅の間でも、二人きりになれるならいいだろ?」


 エルは俺の頭を撫でながら首を横に振る。


「甘やかしたら、すぐにどこでもちゅーしようもするじゃないですか。 この前も、物陰でしようとしましたし」

「……反省している」

「僕も気を抜くと、甘やかしてしまうので、アキさんが自重してください。 人に見られる可能性があるときは駄目、1時間に5回、1日20回まで、外出中はしない」

「……基本外出中になるだろ」


 キス以外の他を考えるが、抱き締めたりも同じく人前では駄目で、手を繋ぐのも嫌がられる。

 ……エルの匂いを詰めた何かを用意して、それを芳香剤に使うとか……。


「ロクでもないことを考えていませんか?」

「考えていないな」


 いい考えばかりだ。 何にせよ放っておくと、同性だからとサイスが触ろうとして、俺よりもエルと関わる可能性まである。 それは流石に許せない。


「いっそのこと、俺も女装をして……」

「女装してもベタベタしてはいけませんよ」

「……エルが男装するのは?」

「アキさん、そういう趣味があるんですか?」

「いや、エルなら男装でも男でもいいが、出来ればいつも通りがいいなら」

「……とりあえず諦めましょうよ。 僕だって、我慢するんです」


 これ以上は困らせてしまうと思い、諦めて今のうちにエル成分を貯めておこう。


「……着替えた服を、すぐに浄化せずに一日か二日ぐらい貸し出してくれないか?」

「サイスちゃんと取り合いの喧嘩になりそうなので駄目です」


 おのれ、サイスめ……! 憎しみを募らせながらエルに抱きつき、柔らかい腹に顔をやる。


「……あの、すごくくすぐったいです」

「しばらく出来ないんだから、いいだろ」

「……あれ、夜の寝るときは一緒ですよね? そのつもりで話をしていたんですけど……。 一旦、先程の禁止事項は白紙にしますね?」

「いや、一緒に寝るが。 まぁ、一緒に寝ると言っても、街の外なら見張りもいた方がいいから、交互に寝ることになるかもしれないが」

「なら、さっきのでも大丈夫ですね。 十分ひっつけます」


 エルの基準が分からない……。 何だろうか、何かしらの決まりに沿って抱きついたりしているのだろうか。


 しばらくベタベタと触りまわしたあと、用意を終えて、屋敷の人に近日の間に出ることを伝える。 あとは、大山に会って尾喰……いや、ウォルルヅのことを任せたらいいだけだろう。


 屋敷の方は、一応年長者のフォッフォッフォ爺さんに任せることにするか。 孤児院は……シシトに様子だけ見てもらうか。


 とりあえず、星矢がやってきて、ぶん殴って爪を剥いで歯を折って、その後始末を月城に任せてから旅に出ることにしよう。

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