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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第十二章:強くなりたい≒弱くなりたい
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剣聖剣奴②

 ロト、すまない。 もしリアナに監禁されたとしても助けられないが恨まないでくれ。


 頭の中で責任逃れをしているとエルの恋愛講座が続く。 どうやら珍しく自分より恋愛経験が薄く、自分の経験が助言として使えることに喜びを得ているのだろう。

 エルは世界を救いたがるほど面倒見がいい。 ただ、恋人を鎖で拘束することが悪いと思っていないためにこのような発言をしてしまうのだ。


 エルは悪くない、悪いのは鎖で縛られても嫌がらなかった俺である。


「うーん、ロトさんの話を聞く限り、魔法の対策は必須ですね」

「そうなんですよね、上手いこと薬を盛って眠らせたところを縛っても、魔法と瘴気魔法があるので、難しいかと……」

「んぅ……厄介ですね。 リアナさんは脚には拘るタイプですか?」

「えっ、脚……?」


 エルの言葉が危うい方向に行っているのを見て、流石に止めに入る。


「エル、流石に切り落とすのはダメだ」

「ち、違いますよ! アキレス腱をちょっと切るだけで立てなくなるので、治癒魔法が使えないならって思っただけですよ! その後動きたいときは治癒魔法を使えばいいので、安全です」

「……それなら、まぁ……」


 いいのだろうか。 まぁ切り落とすのよりかはマシな気がするが、ダメだと思う。


「……血管を傷付けるかもしれないので、治癒魔法は覚えていた方がいいかもしれませんね。 適性はありますか?」

「一応あるみたいですが……あまり魔力の操作が不得意で」

「なら、それも練習した方がいいですね。 高みへと朽ちゆく刃は使うと怪我をしてしまう技なので、治癒魔法はあった方がいいんじゃないですか?」


 リアナが頷く。 ロトが鎖で縛られた上に脚の腱を切られる話になっているけれど、変に止めてエルに嫌われたくはない。


「とりあえず、練習してくる」

「いや、寝ろよ」

「寝ながら練習してくる」

「いいから寝ろ」


 シシトを呼んでくるか。 あいつのことだから多分そこらで掃除でもしているだろう。

 シシトを探して呼び、街に向かうと伝える。


「うっす、兄貴も姉御も付き合ってもらって申し訳ないッス」

「孤児院の様子も見に行きたかったからな。 あと、エルに何か買ってやりたい」

「視察ってやつッスね」

「そんな大それたものでもないけどな」


 下手に中に入ったら子供に襲われる可能性があるので、問題がないか外から見るぐらいだ。 問題があれば別だけれど、まぁ多分大丈夫だろう。 代理で人を遣わせたが、問題ないとの報告だった。


「んぅ、お菓子とか差し入れしたら喜ばれますよね。 あと、お洋服とか」

「菓子はまだしも、服は金だけ渡して自分達で選ばせた方がいいだろ。 サイズが分からない」

「他に子供が喜ぶものって何かあるッスかね。 ……姉御は何だったら喜ぶッス?」


 エルは子供ではない。 見た目は幼いが、中身は愛のためなら監禁すら厭わない大人の女性だ。


 武装もして、十分に戦えるようにしてから街へと向かう。

 サイスの暇つぶしによる舗装で随分歩きやすくなった道を歩きながら、シシトの探し人の特徴を聞く。


「……カイトさんは、あれッスね。 落ち着いていて頼れる人ッスよ」

「いや、そうじゃなくて見た目とか」

「50歳ぐらいのおっさんで、黒髪で太ってて禿げてるッスね」

「割と特徴的で見つけやすいな。 助かる」


 聞き込みもすれば案外簡単に見つかる気がする。


「……でも、もう別の所に旅立ってるかもしれないんスよね。 責任感の強い人ッスから、俺が逃げれたことを知ったら、巻き込まないようにって去ってそうッス」

「それでも会いたいのか?」

「いや、会っても仲間は解散すると思うんで仕方ないんスけどね。 散々世話になったッスから……お礼ぐらいは言わせてほしいな、と」


 シシトはそう言いながら、俺の背負っていた荷物を手に取る。


「まぁ、それで兄貴の世話になってたらアホみたいッスけどね」

「いや、俺もシシトには助けられている。 この程度なら気にしなくていい」


 荷物を任せると、シシトは照れ臭そうに笑う。 これの歳は俺より少し下ぐらいだろうか、なんとなく苦労を思わせる。


 しばらく歩き、菓子屋に行こうとしたところで不意に違和感を覚えた。

 すれ違う町の人の俺たちの避け方が少しだけ大きい。 若干いつもよりも大きく避けられている気がする。 装備は大して変わっていない、特に顔が大きく割れているわけでもないので悪評とかの理由は考えられない、殺気立っているわけでもない。


 言うならば、まるで少し後ろに人が付いて来ているような。 それが自分達だけ認識出来ていないが、周りの人は認識して普通に避けているような動きである。 というか、そのままそうだろう。


 足音はなく、近くのガラスを鏡にしても見えないが、確かに人の動きはそれを捉えている節がある。


「エル、いい店を知っているからそこに行こう」

「ん……お菓子、ですか?」

「ああ」


 目配せをする。 俺がまず言うことがないだろう言葉にエルは察して、少し後ろを歩いていたが、急くようなフリをして前に出る。


 シシトは気にせず話し続け、そのおかげもあり傍目からは違和感もないだろう。

 人を巻き込まないだろうところまできたところで、路地裏に入り込む。


 大量のシールドを乱雑に背後に張り巡らしながら、エルを庇うように背にして口を開く。


「誰だ。 答えなければ敵と判断する」


 魔力を感じないことから恐らくは尾喰の元にいる勇者だろう。 察していたエルは大丈夫そうだが、シシトは何が起きているのか分からずに混乱した様子を見せる。


「エル」

「透明化じゃなくて認識阻害の能力ですね。 大山さんの勇争記録であったものです」

「弱点は?」

「認識自体が出来なくなりますが……人数制限があることですね。 アキさんのやり方で正解ですね。こうやって区画をたくさん作って閉じ込めたら、割れたら場所が分かるので」


 ひとつひとつ潰していくか。 シールドごと斬る勢いで剣を振り回しながら進み、途中、遠くのシールドが割れたのでそこに向かって大量の短剣を投げつける。


 一部の短剣が不自然な場所で止まり、そこに飛び込もうとした時、肌に針を突き付けられているような感覚がし、思わずエルの元にまで引く。


「……どうしたんですか?」

「別の奴もいる」


 そして間違いなく、強い。 一人での尾行ではなく、二人組だったらしく、離れたところから剣を持った男が現れる。


 赤黒い髪に、紅い目。 俺や父親と同じく『完全な魔物化』に至っている姿形。


「一人は暫く動けないはずだが、もう一人は……強いな」


 シシトはやっと追いついたのか、何度か頷きながら下がる。


「逃げた方がいいッスか?」

「いや、俺の後ろの方が安全だ」

「……かっけえ」


 細い路地裏、相手の勇者を見れば魔力は少なく、けれども落ち着いた表情で、見て取れるだけで武の心得がある脚使い。

 エンブルク家のほとんどがそうである『魔法使い型』の魔物化ではない、俺と同じく『戦士型』の魔物化が起こっていると予想できる。


 剣を引き抜き、男に言う。


「見逃せ」

「……すまない」


 断られ、足手まといを背負って逃げることは難しいと判断し、戦いに頭を移行させていく。

 警戒すべきことは、能力と剣技、勇者は死んでも異世界で復活する、だから殺すことに戸惑う必要はない。


 エルの前から数歩進み、男と相対する。 妙なことに、男の腰にも背にも鞘がなく、抜き身のままの剣だ。 あいつ、星矢のような能力か──。


 ゆっくりと、一歩一歩、互いに近づく。 男が振るった剣を剣で受け止めようとし、異様な感触の軽さに違和を覚え……持っている剣が異様に軽いことに、受け止めたはずの剣身が半ばよりなくなっていることに気がつく。


 瞬時に身を引いたけれど判断が遅れた。 袈裟に振り切られた剣は何の抵抗もなく俺の胴体の表面を切り裂き、血を払うように空気を切りながら去っていく。


 斬られた、と現実に気がつくのは一瞬遅れて、血が噴き出してからだった。


「避けたか」


 鉄の癖に鉄を抵抗もなく切り裂く異様な切れ味、それが能力の仕業であると気がつくが、少し遅い。

 傷は深い、このまま動けばすぐに血が足りなくなって死ぬが、エルの治癒魔法が終わるまで待ってくれるはずもない。


 死の気配が近づくのを感じながら、大丈夫だと手を上にあげてエルに示す。


「騙し討ちのような真似をしてすまない」

「……お互い様だ」


 半ばから先がなくなった剣で周りの壁を切り崩し、それを蹴って弾き飛ばす。


「こんなものが通じるはずも……ッ!」


 男は容易に避けられるだろうが、その後ろにいると思われる認識できない勇者はそうでもないだろう。

 それを守ろうとして男は動き、そこに向かって残っている短剣を投げながら、全力で後ろに下がり、エルとシシトを両手に持って地を蹴る。


「アキさん! 治癒魔法を!」

「いや、先に焼いて血を止めて、浄化で血を消してくれ。 追われると不味い」


 エルは顔を歪ませながら言うことを聞き、傷口に手を当てて、攻撃に使えないような弱々しい火の魔法を俺に押し付けて血を止めて、浄化魔法を使って血液を落とす。

 抱かれたままエルは治癒魔法を使うが、火や浄化に使ったこともあり、少し痛みをマシにする程度で魔力が尽きる。


「急いでお屋敷に帰らないと……」

「いや、あれは足手まといがいたら勝てない。 ……今まで無理に攻めて来なかったのは、屋敷に父親がいると思われていたからだろう。 俺が弱っている今、屋敷にまで攻めてくる可能性が高い」

「なら、治癒院に……」

「屋敷に向かわなかったことがバレれば同じことになる」

「じゃあ……」


 頷きながら、エルを降ろし、半ばから先がない剣を握る。


「迎え撃つ他ない」


 逃げ出したことで傷を簡単にだが塞ぐことが出来た。 手足も動く、『何でも切り裂く剣』という相手の手の内を知れた、次は勝つ。

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