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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第十二章:強くなりたい≒弱くなりたい
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剣聖剣奴①

 昼過ぎになって、廊下が騒がしくなっていることで目が覚める。

 まだ眠く、寝不足だ。 フラフラとした頭をかいて、気だるい身体を伸ばして解す。


 眠い、それに疲れていてしんどい。 エルも俺が動いたことで目を覚ましたらしく、顔を赤くしてから枕に顔を埋めだした。

 耳まで赤く、それも彼女らしくて可愛らしい。 いつもならもっと勢いよく顔を隠そうとするだろうが、今日はぐったりとしていて動かない。


「……大丈夫か?」

「……大丈夫じゃないです。 ぜんぜん」

「今日は寝ておくか?」

「アキさんは、リアナさんのところに行くんですよね。 なら、ついていきます」


 相変わらず嫉妬深く、感を教えるだけというのにすごく不快そうに枕の端から俺を睨む。

 エルの寝間着のボタンのかけ間違いを見つけて、らしくない姿に苦笑すると、恥ずかしそうに布団で隠す。


「……僕のこと好きですよね」

「当たり前だ」


 彼女は安心したように微笑み、俺の手を握る。


「好きです。 アキさん」

「……ああ」


 何度言われても嬉しい。 照れ臭そうにエルは俺の顔を見て笑い、それが可愛らしくて抱き締める。


 形ばかりの抵抗をされるけれど、そのまま抱き締めると俺の背にも腕を回されて抱き返される。


「んぅ……ダメですよ……。 ご飯も食べないとダメですから」

「分かっている。 ……能力を使う感覚を教えてくれないか?」

「どうしてですか?」

「グラウが能力を身につけられたのと同じように、勇者ではなくとも能力は身につけられるはずだ。 力がいる、だから能力を得られるか試そうと思ってな」


 エルは首を傾げながら、手を動かす。


「んぅ、今あるのはグラウさんの能力なので使えないですけど、魔法に似ていますね、心の中にあるものを使う感じ……と言いますか」

「心の中にあるもの?」

「ほら、魔法って胸からスって出て行く感覚じゃないですか。 あれの感覚に似ているけど、より深いみたいな……」


 魔法と似ているのか、だからエルやロトが魔法を覚えるのが早かったのだろうか。

 能力には瘴気が必要なことが分かっている。 グラウのように経験を積むことでそれを得ることや勇者のように女神から与えられることで得られる。


 俺も魔物化するほどの瘴気を持っているので使える可能性はあるのだが、うんともすんとも言わない。


「そう上手くもいかないか」


 とりあえず、エルが着替えるようなので頰をかいて外に出る。 パタパタと急ぐ音に苦笑してから、出て来たエルの手を取って廊下を歩く。


「アキさんは着替えなくてよかったんですか?」

「ああ、面倒だからいいだろ。 ……今日はリアナの修行に付き合ったあと、シシトの友人の勇者を探しにいくつもりだが、大丈夫か?」

「んぅ……ちょっと眠いけど、大丈夫です」


 エルは目を擦りながら答える。 昨夜は、リアナのことで少し心配になったのか……エルが耐えられずに寝るまで一晩中延々と好きと言わされた。 一生分ほどの「好き」と言わされたが、エルが味を占めたような表情をしているので、また言わされるのでないかという不安がある。


 好きなのは事実だが……なんとなく、口にするのは気恥ずかしい。

 俺も言われたら嬉しいけれど、エルほどそれに執着はしていない。 というよりかは……少し異常だ。 前もそうだったが、どうにもエルは俺への依存心が強いように思える。


 それは俺にとって非常に好都合だが、どうにも父の言葉がチラついて素直に喜ぶことが出来ない。 依存するな、などと突き放せば、間違いなく依存心は悪化するだろうし、とりあえずは甘やかすのが一番いい。

 甘やかしていたら、エルの心も安定して他の人と関わる余裕も出来る、そうしなかったら執着心が強まって関心が俺にのみに向かってしまう恐れがある。


 ……俺自身を不慣れな客観視すると、多分彼女と似ている状態なのだろう。 エルが他の人と積極的に関わるようになれば、無理にでも自分の方を向かせようとしてしまうだろう。


 結局は強すぎる共依存からすぐに抜け出す術はない。 俺はエルを突き放せないし、エルも俺を突き放せない。 ずっと引っ付いていられるから問題は出ていないけれど、そうもいかなくなったときに強い反動がくるだろうことが予測される。


「……どうしたんですか?」

「いや、エルのことが好きすぎて困っている」

「……アキさん、僕を口説いてどうするつもりですか。 何もあげれませんよ?」

「知っている」


 昼食を食べたあと、剣を手に取って庭に向かうと手や顔をインクで黒くして服を土で汚したリアナが剣を構えたまま待っていた。


「真面目だな」

「当然だ」


 俺も剣を構えながらエルから離れると、リアナが剣を振りかぶり、昨日よりも幾分か速い剣を振るう。

 剣で斜めに逸らし、隙の出来た腹にゆっくりと拳を当てる。


「まだまだ」

「ああ……まだまだ!」


 実力差を感じているだろうがリアナには戦意の喪失がなく、剣の鋭さは増し、若干のやりにくさが出てくる。 まだ遅い、鍔迫り合いから剣同士で巻き取るようにリアナの剣を絡めとり、弾き飛ばす。


 リアナは素早く腰から短剣を引き抜こうとするが、その手を押さえつける。


「……あまり寝ていないな。 剣自体は少しマシになっているが、振り回されている。 それじゃあ怪我をするぞ」

「まだしていない!」

「軽い切り傷ならまだしも、腕が落ちたりしたらしばらくは練習出来なくなるから、睡眠は取れ。 夕方にまた相手をするから、インクと泥を落として寝とけ」

「……だが、私は!」

「焦るのも分かるが……そもそも先の一戦、お前、俺が斬らないことを前提に剣を振っていただろ。 前に比べて速くはなっていたが、隙だらけだったぞ」


 それを言うとリアナは押し黙る。 無理をしていることは理解しているのだろう。 早く追いつきたいという思いは強いだろう、だから焦るという気持ちは痛い程理解出来るが……合わせてやっても無理を続けさせてしまうだけだ。


 治癒魔法では睡眠不足は改善されないので、大人しく寝てもらうしかないが……あの様子だとそれも難しいか。


「眠れなくとも、目を瞑って横になっていろ」

「……ああ」

「あと、剣聖のところに行くのは高みへと朽ちゆく刃を身につけても先延ばしにしろ。 賢者ロムというのが定期的に屋敷にくる、剣は教えられないだろうが、魔法の細かい技が得意なやつだ。 話は通しておくから教えてもらえばいい」

「……魔法か」

「ロトと比べるなら魔力も足りないだろうが、あるに越したことはない。 剣一つで強くなるよりよほど速い」


 強くなることには貪欲なのか、リアナは頷いて俺に頭を下げる。


「突然きて世話を焼いてもらい、本当に済まない。 何か私に出来ることがあれば言ってくれ」


 何かリアナにしてほしいことか……エルの方を見て決める。


「お前に浮気するのではないかとエルに疑われているから、その誤解を解いてくれないか?」

「任せてくれ」


 リアナはエルの方に行き、俺を指差しながら言う。


「あいつは小児性愛者だ。 だから私を好くことはない。

私も好きな奴がいる。 だからアキレアを好くことはない。 分かったか?」

「……僕、子供じゃないです。 ……好きな人ってどんな人ですか? 僕、あまり他の人の恋愛を聞いたことがなくて、他の人と違う変なことをしていないか心配で……」


 ……いや、変なことは間違いなくしているだろう。 少なくとも寝ている隙に鎖で拘束とかは普通しないだろう。


「……恋愛と言っても、好意に気が付いたときには足手まといと離れてしまったがな」

「んぅ……なんで鎖で縛り付けなかったんですか?」

「鎖……? くさり? えっ、何故鎖で縛り……」

「動けなくなるじゃないですか」

「いや、それはそうだけど……それはダメじゃないのか? いや、ダメではないのでしょうか」


 何故敬語。 そして何故ペンとインクと紙を取り出す。

 止めるべきなのだろうか、ロトのためにも。

 いや、しかし縛られるのもそれはそれで悪くはないので一方的な価値観で止めて機会を奪うのも良くないかと思っていると、エルの言葉が続く。


「ダメではないですよ。 合意の上なら問題ないわけです」

「合意なんてなかなか得られないのではないでしょうか?」

「得られるまで捕まえておけば問題ないわけです」

「……!!」


 いや、ダメだろ。 それはおかしい。


 リアナは俺から剣、ロムから魔法、エルから寝込みの遅い方と拘束の方法と拘束した人の飼い方を習うことになり、それを学んでから剣聖の元に向かうことに決まった。


 今度、ロトに会ったら謝らないとな……。

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