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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第十二章:強くなりたい≒弱くなりたい
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続・家造り日記⑤

 エルと旅立つ。 日帰り出来ないぐらいには遠いこともあり、何もなしの野宿も不慣れなエルにはさせられないので馬車による移動をすることにして、数日。


 馬に乗ってこちらを追い掛けてきている数人は、どうやら盗賊であるらしい。 元来、この世界における盗賊というのは街中に潜むものだ。 それが当たり前だと思っていたので理由などは考えたことがなかったが、普通に街の外だと魔物の対応で手一杯になって野盗など出来たものではない。 それが出来るぐらいなら魔物狩りや護衛を生業にした方が余程いい。


 そのため存在しなかった野盗だが……それっぽいのがいる。 思えば街の外に魔物が出なくなったので、野盗が可能になったのだろう、それに魔物狩りを生業にしていたものは食いっぱぐれてしまい、路頭に迷ってそうなってしまったのだろう。


 新鮮な気持ちではあるが、現実として結構問題である。 流石に魔物のようにサッと斬ってサッと終わるみたいなことは出来ない、人を殺すのは忌避感がある、エルも嫌がるだろう。


 すごい勢いで駆け寄られているので、馬車の速さだと接触は回避出来ないだろう。 降りて逃げたら御者が襲われるだけだ。


「まぁ、怪我をさせるぐらいは仕方ないか」


 荷物を漁り、何か武器になりそうなものを探す。 食料の中からかぼちゃを見つける。


「これを投げたら……死ぬか。 ダメだな」

「あの、なんで落ち着いてるんですか!? ピンチじゃないですか!」

「いや、そんなに危なくもない。 怪我をしない程度の捕縛方法を考えているが、ロープや鎖もないからな」

「あ、僕、鎖なら持ってきてますよ」


 何故持ってきているのか。 気になったが若干聞くのが怖いので気にしていないように振る舞いながら、食料からゴボウを見つける。 ……ゴボウよりかは剣の鞘の方がいいか。 鞘でこれで叩いてから鎖で縛ることに決める。


 軽く振り回し、持ちにくいけれど十分かなどと思いながら馬車から降りて、盗賊を迎え撃つ。


 魔力を周囲に垂れ流し、馬の足元に設置する。 馬が転んで勢いで吹っ飛んでいくのを横目で見ながら、上手く回避したらしい野盗の顔の前にシールドを張り、馬で走った勢いのままぶつかって落馬する。


 自身が魔法使いっぽいことをしていることに感動を覚えながら、立ち上がってきた盗賊の首に鞘を突いて倒す。


「えーっと、諦めるなら怪我をさせたくないから、鎖で捕縛する程度で済ませるが、抵抗するなら足の2、3本は折る」


 当然抵抗されるが、近距離であれば素手と鞘でどうにでもなる。 剣の側面を指先で押して逸らし、突こうとした槍を掴んで持ち主ごと持ち上げる。


「ッッば、化け物……!」

「まぁ間違ってはないな」


 狙うべきは脚か。 軽く見渡してエルのいる馬車に近い順にまだ起き上がれている奴を倒していくことを決めて、槍を持ち主ごと振り回して周りの奴らを吹き飛ばし、馬車に近いやつの脚を鞘で打ち砕く。


 魔法が飛んできたことを目の端に視認し、魔力を空中に散布する。 俺の魔力と魔法が触れ合った瞬間、無理矢理に野盗の魔力と混ぜ合わせる。


「強制合成……シールド」


 相手の魔法は「シールドにしか変化しない魔力」と混ざることで強制的にシールドに変質し、俺にまで到達することはない。

 次々に放たれてくるが、シールドをまた魔力に戻し、空中に散ったあと飛んできた魔法と混ざり合ってシールドに変化する。


 理解出来ないといった様子を見せた野盗にもう一度告げる。


「投降しろ。 無意味な怪我はしたくないだろう」


 話に応じるつもりはないらしく、今の説得は諦める。 飛んできた矢を掴み、適当に投げ捨てる。

 どこか必死さを感じる。 結局、この実力差があればどうしようもないことぐらい分かるだろうに、けれども仲間内で目配せをする様子もない。


 剣の腹を鞘で打ちはらい、返す刀で脚を叩こうとして手が止まる。

 服の裾が少しだけ糊が付いているように固まっていて……よく目にするものと同じであることに気がついた。

 矢を掴んでから、鞘を腰に戻す。


 後ろに跳ね飛んでから、矢や魔法を打ち払う。


「子供がいるのか? 捕まったら、そいつの世話が出来ないからか」

「なッ!」


 野盗の驚いたような表情。 彼等の動きが止まる。

 裾が固まっているのは……時々俺やエルの裾にもある、あれは涙等が布に染み付いて固まったものだ。

 俺とエルのような感覚を除けば、まぁ子供というのが妥当だろう。


 やっと揺れた瞳を見て、それが分かってもどうするべきなのか分からない。 このまま制圧するのは気まずく、かと言って見逃しても他の人が被害を受ける。

 何かの救済処置を行って野盗をせずに済むようにしても、すでにしてしまった罪は拭うことは出来ず、被害に遭った人物の遺族やら何やらは納得がいかないだろう。


「……少し待て。 こういう判断は難しい。

エルに……ああ、頭のいいかわいい女の子に判断を任せたいから少し待て。 怪我の治療とかはしていていいが、逃げたり襲ったりするなよ」


 少し離れたところで待機している馬車に急いでいく。

 馬車の中に入り込むと、エルが安心したように固めていた表情を和らげて俺に抱き着く。


「良かったです……。 怪我とか、傷とかないですよね?」

「ない。 あの程度なら万いても問題ない。 だが……少し困っていて」

「なんですか?」


 時々逃げていないかを確認しながら、先程のあらましをエルに伝える。


「……ということなんだが」

「あの、僕って別のところから来てるので法には疎いですよ……。 法を無視しても、どうしても、絶対に禍根は残りますよ」

「なんとかならないか?」

「ごめんなさい。 ならないです。 ……下手な前例を作らないように、ちゃんと規定通りの手続きを踏んで、とするべきです。 子供は……預けれるところとか」

「ないだろうな」


 気丈に振る舞っているが、瞳は揺れて罪悪感や不安を隠しきれていない。

 街からは近い街道だ。 引き渡すぐらいなら大した時間もかからないか。


「……その、せめて……預かるとか、そういうところを作るとか……」

「エンブルクは一切内政をしていないからな。 それらをするようにしたら……小さい孤児院ぐらいなら作れるだろう。 元々街の規模は大きくないからな」


 しばらくは預かるしかないが……また人が増えてしまいそうだ。

 少し戸惑ったような表情をしたエルは、震える唇で声を出す。


「……アキさん。 僕が酷いこと言ったら、軽蔑します?」


 首を横に振ると、エルは俺から目を逸らしながら言う。


「一人……首謀者をでっち上げて、その人に無理矢理、仲間にさせられてたってことにして……。 他の人の罪を軽くするって、ことは、多分ですけど出来ます。 本を読んだだけの知識ですけど。 この辺りだと、アキさんの発言は強いですから……」

「……首謀者は?」

「分からないですけど……多分は」


 エルの身体を抱き寄せて、頭を撫でる。


「悪い。 無理をさせた」

「いえ……ごめんなさい、力になれなくて」


 馬車から出て、野盗の集団のところに戻る。 後ろからついてくるエルは危ないという理由で馬車に押し留める。

 これは、俺が魔物を減らしたせいなのだろうか。 あまり考えたくなく、エルから伝え聞いたことを淡々と伝え、野盗の考えがまとまるまで待つ。


 ありがとう。 と、呪詛を吐かれた。

 悪いやつばかりだと、適当に潰せばいいだけで楽なのに、気分が悪い。

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