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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第十二章:強くなりたい≒弱くなりたい
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家造り日記⑦

 使用人の格好をして掃除をしている謎の人物から教えられた部屋に入ると、数人の男女がカード遊びに興じていた。


「おっ、若。 風邪引いてるって聞いたけど、大丈夫なのか?」

「問題ない」

「俺に移らない?」

「保証は出来ない」


 ついに敬語も失われている。 まぁ畏まられても困るので直しはしないが、爺やのそれっぽい雰囲気作りに合わないのではないだろうか。 爺やの頑張りが無駄になってしまう。


 あまりにどうでも良かった。


「んで、どうかしたんだい? こんな汚いところに、綺麗なおべべが汚れちまうぜ! はっはっはーっ!」

「ははっ、坊やはミルクでも飲んでな!」

「ここは若のような坊ちゃんがくる場所じゃないよ? お家に帰ってままのおっぱいでも吸ってな!」

「家はここだ」


 というか、仕事の時間なのではないだろうか。 思いっきり遊んでいるが。

 いや、家は綺麗だし、やることもなさそうなので……というかこいつらが働いているところを見たことがなかった。 掃除しているのはだいたいあの謎の人物だけで……もしかして、この屋敷は謎の不審者によって成り立っているのではないかという疑念が発生する。


「ところで、普段は何をしている?」

「まぁ、掃除とか?」

「やっているところは見たことないな」


 軽く言うと、焦ったように三人は口を開いて言い訳をするように言葉を発していく。


「あ、買い出ししてるな、俺は」

「私はあれしてるね、紅茶淹れたり、本の管理したり」

「お、オラは普段裏の畑の手入れをしているだ」


 案外ちゃんとしている。 裏の畑の存在は初めて知ったが、まぁ勝手にしていたらいいか。


「ところで、そういった裁量を決めている人はいるのか? サリーに聞けと言われたが」

「えっ、私!? 知らないよ? というかいるの? そういう人」

「いないのか」

「聞いたことはないね」


 どういう状況なのだろうか。 貴族の屋敷はそういうものなのかもしれないと考えるが、あまりにずさん過ぎるのではないだろうか。 父親は俺以上に馬鹿だし、レイはそもそも興味がなさそうなので


「なら、どうやって雇われたんだ」


「レノに誘われて」

「オラはタマオに頼まれたでごわす」

「俺はサニーにだな」


「完全に三人でループしているな」


 頭が痛くなってきた。 他の使用人に誘われてなるものなのだろうか、そもそも給料とかちゃんとしているのか、いや、それ以上にこの現状を放置していた父親はなんなのだろうか。

 一応仕事ぐらいしていると思っていたが、本当に年がら年中、母親の写真を見てるだけのおっさんである可能性が浮上してきた。


「エルに相談した方がいいか……」

「えっ、やめておいた方がいいよ。 心労かけるじゃん」

「かけないでくれ」

「ごめんなさい」


 本当に心労をかけさせたらクビにしよう。 料理人はしっかりと働いているし、それと謎人物と買い出し要員さえいたら最悪回るだろう。 とりあえず爺やには必要性が見出せない。


「とりあえず、何かしらの再編はすると思っていてくれ。 流石に知らない人物が勝手に入って来られるのはダメだろ。

仕事が増えるわけでもないから、ほとんど名簿を整えるだけだろうが」

「真面目だね、ルト君は」

「ルト……ああ、俺か。 真面目ではない。 ……危険は無くしたいからな」


 休んでいるところ長居するのも悪いので部屋から出ると、遠くからエルの泣きそうな声が聞こえてくる。


「あぅ……アキさん……アキさーん! いたら、返事……してください……」


 そういえば、部屋の外に出てから少し時間が経っている。 急いで駆け寄るとボロボロと涙を零しながらこちらを見て、へたへたと座り込む。


「いた……」

「……いや、悪い。 少し出ていた」


 無言で動いていたとは言えど、じっさいに離れていた時間は二十分ほどだろう。 剣の訓練も軽く振っただけで早々に切り上げて、爺やなどと話したのもほんの少しだ。

 ……俺でも我慢出来るレベルだぞ。 そう思っていたら俺の表情を見てそれを感じ取ったのか、エルは赤く腫れた目でじとりと俺を睨む。


「アキさんは、十分でギブアップしていました」

「……そうだったか」

「僕は二十分です、アキさんの倍です。我慢強いです」

「泣いていたから、我慢強くはないだろ。 俺は我慢出来ている」

「自分が会いたいと思ったらすぐに会えるのと、会いたいと思っても会えない立場は違うんですっ! 耐久時間が三倍以上変わるんです!」

「……それはあるな」


 ひしっ、とエルに抱き着かれたので、抱き上げながら同意する。 会おうと思ったら会えるのなら精神的に余裕が出来るが、会いたい時に会えないというのは酷く辛いものだ。 泣くのも理解出来る。

 べたべたと涙を服にこすりつけるようにしているエルを抱いたまま自室に戻る。


 悪いことをした。 多少過剰な反応だと思うが……俺も似たように感じるだろうと思うので否定は出来ない。

 いや、むしろ俺たちがおかしいのだろうか。 全く離れない夫婦など聞いたことがなく、世間には浮気や不倫といった言葉があるぐらいなので、離れられない俺たちの方がおかしいのかもしれない。


 いつかはエルとの子も欲しく、産まれればずっと一緒というわけにもいかなくなるだろう。

 いや、乳母に任せていればどうにでもなるか。 しかしそれはエルが嫌がりそうだな。


「エル、いつかは子供が出来るだろ?」

「ん……そうですね。 ちゃんと背が伸びたらいいんですけど……」

「乳母とかを雇った方がいいのだろうか。 雇うなら、早い内に信頼出来そうな人物のツテを探した方がいいだろうが」


 俺の腕の中で、エルが小さく口を開く。


「……僕の暮らしていた文化だと、少し抵抗があります。 夫婦二人で育てるものってイメージが強くて……」

「なら、やめておくか」

「でも、ちゃんとおっぱいが出るとか……不安です」

「胸がないからか」

「おっぱいの大きさは関係ないです。 身体が小さいので、その分出る量が少ないかもしれないって……思いまして。 普通の人の半分以下ですから」

「そうだな。 まぁ、任せきりにする必要もない」


 部屋の中に入ってから、エルは気まずそうに口を開く。


「それに……赤ちゃんって、半分はアキさんじゃないですか?」

「……? ああ」

「他の女の人を……って思うと」

「別人だろ。 子供は子供だ」

「そうですか。 まぁそうですよね……」

「まぁ急いでいるわけでもないから、ゆっくり決めればいい」


 エルをベッドに下ろし、剣を振っていたせいで汗をかいていることに気がつく。


「……また剣振ってたんですか。 落ち着きがないです」

「悪い」

「作って持ってきたご飯が冷めました」

「食べる」

「いい子に待ってたらあーんしてあげたのに……残念でしたね」

「それはいらない。 一人で食える」


 部屋に置いてあったエルが作ったらしい昼食を口に運んでいき、咀嚼する。 多少ぬるくなっているが、手作りということもあり、格別な味がする。


「美味しいですか?」

「ああ、美味い。 エルはなんでも出来るな」


 食べ終わるとエルは食器を持って「片付けてくるので大人しくしていてくださいね」と念入りに俺に言う。

 信用が失われていることを実感しながらベッドに転がり目を閉じる。 身体の調子もだいぶ戻ってきた。 明日には家造りも再開出来そうである。

閲覧していただきありがとうございます。

以前から書き溜めていた小説を放出することにしました。 とりあえず第1部完結までの11万字程度を公開していきます。

タイトルは

【傷鴉より与えられし異能力〜スカーカラスからスカっスか〜】

です。 女の子といちゃいちゃしながら冒険をしていくファンタジー作品です。 よろしければ読んでいただけるととても嬉しいです。


あっ、書き溜めなのでこちらの小説の更新とは関係ないです。



URLです。

http://ncode.syosetu.com/n2889dz/

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