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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第十二章:強くなりたい≒弱くなりたい
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家造り日記②

 木の根のところを埋めればいいと思っていたが、エルとロムから出た指示は埋めるのではなく掘れということだった。

 下の土ごと傾かないように土属性魔法で土台を作るが、高くならないようにするためらしい。


 俺が掘り返してはシシトが運びという作業により進めていく。


「手順は可能な限り省略していますが、土台は必須です。 掘るだけなら僕も出来るからいいですね」


 正直何もしていなくても変わらない。 と思うが、エルが待っているときよりも楽しそうなのでわざわざ口に出さずに黙々と作業を進めていく。

 近くの木陰からぼーっと作業を眺めている人影があるためいちゃいちゃとすることが出来ず、少し不満が溜まる。


「おい、手伝うなら手伝うで、手伝わないなら手伝わないで、どこかに行け」

「えー、暇だけど力仕事は勘弁だよ。 肉体労働は肉体労働でも、夜の方だったら得意なんだけどね」


 つまらないことを言っているのはアリアという偽名の女だ。 適当に断るが、エルは不安なのか彼女が近くにいる間はべったりと引っ付き、話を終わらせようと服の袖を少し摘む。

 それが可愛らしいが、エルを不安がらせたくないのであまり話さないようにする。


「エルが気にするから、つまらないことを言うな」

「ちょっとした嫉妬心が恋のスパイスって言うよね」

「エルの気の弱さを舐めるな。 本気で泣きそうになるから止めろ」

「愛妻家なことで……。 でも、お貴族様って妾とかいっぱい作るんでしょ? そんなに狭量でやっていけるの?」

「この家だと嫡男が確実に継ぐのではないからな。 一番血が濃い人間が継ぐから、子は多くはいらない。 分家の人間を当主に立てたらいい」

「ドロドロになりそうな家だね……」

「全員あまり頭が良くないから問題ない」


 そもそも、当主になりたがる人間が少ないのだから揉めるはずもない。 それにだいたい力の差が大きいから揉めたとしても、あまり意味がない。


「エンブルク卿は妻想いなことで。 それにしても、街で聞いた話と違うね。 ダメダメな長男で、次男が当主になるって聞いてたけど」

「能無しであることは確かだ。 体力がここまで付いたのも最近のことだしな」

「いやいや、かっこよかったよ。 「俺を置いて先に行けっ」ってさ、ね、夫人さん」


 アリアは突然エルに話を振り、エルは驚いたあと、おどおどとしながら答える。


「えっ……あ、僕は……その、怖かったので、もうしないで、って思いました……」

「うわ……かわいい……同性から見てもかわいい。 キュンキュンする」

「あまりからかってくれるな。 あと、エルを奪おうとするなら容赦はせずに殺す」

「してないしてない。 じゃあわたしは掃除の手伝いでもしてくるねー。 用があったら呼んでね」


 そう言いながら去っていくアリアを見て溜息を吐く。 おれもエルも口が達者な人物は苦手で、特にエルは恋愛や性についてを軽々と話すような人物は苦手だろう。


「……ダメですからね。 浮気は」

「しない」

「アキさん、エッチですから……」

「エルが魅力的だから、理性が奪われているだけだ」

「理性的じゃない自覚はあったんですね」

「まともな状態なら、嫌がられ断られると分かっていてやりたがるということはないだろう」

「んぅ……なら、自重してほしいです」


 一息吐き出し、掘り切った地面を均していく。 結構な時間を家を建てる前の土台を作るらしいけれど、こんな調子でいつになれば作れるのだろうか。


 そんなことを考えていると、エルがくすくすと笑ってからスコップを地面に置いてとてとてと歩く。


「アキさん、終わったら、真ん中にふとーい柱を立てて、周りに柱を立てて行くんです。 そのあと梁……柱と柱の間に木を付けて、骨組みを作ります。 そのあと、天井と床と壁を作ったら、だいたい出来上がりです。 本当はもっとあるんですけど、そんな感じです。 ね?」


 なんとなく間取りや完成形が目に浮かび。 なるほど、と頷いてみる。設計図は理解不能だったが、柱を立てる場所が分かれば全体像が見えてくる。


「こじんまりしてるな」

「お風呂やトイレもない、ほとんどただの掘っ建て小屋ですからね」

「ああ、離れた場所に建てるだけで、寝泊まりのための部屋を作るだけなのか」

「あ、いえ、これは倉庫ですよ。 物置になってた部屋の荷物を移して、そっちをお部屋に使う感じです。 説明しませんでしたっけ?」

「ああ、そういえば、一応父親にも伝えたような」

「伝えたのに忘れてたんですか……」


 割とどうでもいいので仕方ないだろう。 まぁ、考えてみれば素人が適当に作った小屋に住まわせるのも悪いか。 人数が増えてくれば住まわせるのも仕方ないが、人数が増えればまたマシなものが出来るだろう。


「割とどうでもいいからな」


 いても近くにいなければ関係ない。 エルと俺の部屋の周りには入れないようにしているので、あとは多少騒がしくとも気にならない。 ああ、でも月城は服のせいで使用人だと思われて少し気まずそうにしているか。


「早めに決着というのは無理だろうから、やはり家は建てないとな」

「そうですね……。 最近、月城さんメイド服やめましたし」

「本業を雇えればいいが……。 やはり不安が残るな」

「そうですね……。 やっぱり予定通り自分達で建てていくしかないです」

「金も無限にあるわけではないからな……。自分達のことだけに使うわけにもいかないからな」


 ほとんど税は取っていないようだが、全く何もしないわけにもいかないだろう。 ああ、でも、魔物が出にくくしただけで充分だろうか。


「当主ってそもそも何をするんだろうか?」

「お義父さんの真似をしたらどうですか?」

「父親は何もしてないな」

「小さな政府……まぁ、政府じゃないですけど、そういうことですね」

「他のところは兵とかを用意しているそうだが……この程度の規模の街で用意出来る量なら、俺が出た方がよほどマシだからな」


 まぁやることがないというのは楽でいい。 何か働いてエルとの時間が減るのは避けたい。


「目先の問題は、尾喰さんの被害者達ですよね……。タコ部屋みたいには出来ませんし」

「今は四人で、後で勇者が四人くるとしたら……。 そういえば」


 スコップを動かす手が止まり、思い出す。


「勇者村の奴がいる」

「勇者村?」

「ああ、勇者が集まって村を作っていた。 もう一年近く前に行ったところだが、確か自分達で建てていたな。 それも割としっかりとしていた。

知らない仲でもないから、頼めば来てくれるかもしれない」

「……でも、その作る人が住むところがないです」

「……そうだな。 魔法で作るとか」

「単体だと強度足りないです。 僕の魔力だとどうしても……」


 レイがいたら早かったが、ロトが連れ回しているので戻ってくる予定はない。 ロトは目立つ奴なので探せば見つかるだろうがそれをするなら、急いで建てた方がよほどマシだ。


「適当なところに住まわせるわけにもいかないよな」

「そうですね。 助けてきたのに冷遇するわけにも……」


 二人して溜息を吐き出すと、決めていた場所に土を捨ててきたらしいシシトが戻ったきて、近寄ってきたと思えば首を横に振る。


「助けてくれたうえに、俺らのために働いてくれてる兄貴と姉御を見て文句なんてあるわけないじゃないッスか!」

「……そうか。 じゃあ、そこの木の根元でいいか?」

「最低限文化的な生活をさせてほしいッス……」

「俺も昔はよくこういう場所で寝ていた」

「ほら、俺ってシティボーイなんすよ。 まぁ、恩を返したいのでバンバン働くッスよ。 屋根と壁があったら充分っスから」


 シシトはそう言ってまた土を運ぶが、やはりあまりに適当なものだといけないだろう。 シシトはよくとも他の三人や、後からくるやつを考えれば、丁寧に作るに越したことはない。


「……いい人だと、逆に冷遇しにくいですね」

「そうだな」

「頑張りましょうか。 ……思ってたよりも一人人手が多いですし」


 仕方ない。 一応図面通りすればいいだけなので、エルが寝てから夜に一人で作業を進めておくか。

 エルを抱きしめられる貴重な時間だが……襲わないように我慢するのには丁度いいかもしれない。

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