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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第十二章:強くなりたい≒弱くなりたい
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先を語らぬ予言書⑥

 デート。 旅の経験やキスなどはエルとたくさんあるが、思い返すと改まってデートということはしたことがない気がする。

 エルの好みは把握している。 街の地図も頭の中にある。 問題ないと言い聞かせるが、若干の緊張はなくなることはない。


 街の輩なとは素手で充分だろうが、突然竜が降り立ってくる可能性や勇者と戦闘になる可能性もあり得ない話ではない。 この前の星矢の時の反省も合わせて、武器を多めに携帯することにする。


 とりあえず、絡まれるのを防止するために一本と、壊れた時の予備にもう一本、懐に幾らかの投げナイフを入れておく。 こんなものかと思っていたら、エルが鞄に鎖を詰め込もうとしていたので阻止してから鞄を背負う。


「とりあえず、月城が作るまでの繋ぎの衣服を買うか」


 あと、下着も必要だと思ったが、そう言ったら恥ずかしがりそうなので言葉を飲み込む。 買う時どうしようか。 付いていけば恥ずかしがりそうだし、一人で行かせるのは危険すぎるので認められるはずがない。 ……説得するしかないか。


「なぁエル、下着も買うことになるよな」

「んぅ……んっ!? な、なんでですか」

「一人で行かせるのは危ないから、一緒に買いに行く」

「それは……ちょっと……その、アキさん、えっちな目で見てきそうですし」

「それはいつものことだから気にしないでくれ」

「気にしますよっ! そっちの方が衝撃ですよっ!」


 エルは俺から距離を取ろうとするが、手を取ってそれを阻止するとエルは恥ずかしそうに身をよじる。


「んぅ……その、アキさんは変態です。 こんなちんちくりんに、悪趣味です、下手物食いですか」

「……縛りたがるエルに悪趣味と言われるのは、妙だな」

「僕は一般的です。 ……下着を買うときは、見ないでくださいよ」

「ああ、分かった。 善処する」


 そもそも大して下着に興味などはない。エルが着た後ならばエルの匂いや成分が含まれているが、そうでもないのならば、ただの布切れだ。 重要なのはエルでありその周りのものではない。


 いや、まぁ隠されると気にはなるし、他の奴には見せたくないと思うので全く興味がないわけではないが……。 いや、まぁやはり普通に見たいが……。 いや、まぁすごく気になる。 エルの下着など、見たことは片手で数えられるほどしかない。


「……やっぱり見てもいいか?」

「ダメです。 見ようとしたら、今日は月城さんのお部屋で寝ますから」

「……分かった」


 酷い脅しに屈し、軽く身体をほぐしてからエルの手を出し取って外に出る。 人通りがあるところまでは手が繋げるので幸せだ。


 少しだけ暖かさを帯び始めた風に、彼女の髪の毛が揺らされて、上から降り注ぐ光が揺れた髪に弾かれる。 俺の手をギュッと握り締めている小さな手は少し冷たい。


 二人で部屋にいるときとは若干違う表情、可愛らしいが少しだけ強張って見える。


「エルは、人が苦手なのか? それとも、こちらの国の問題か?」

「……苦手なのではなくて、緊張するだけです」

「一緒だろ、それ」


 俺が言えることでもないが、世間擦れしている。 別の世界の奴だからではなく、エルが特別そうなのだろう。

 あまり本人にとっては良いことではないが……逃げられる可能性が減るのは、俺にとっては都合がいい。


 そういう打算は醜いが、仕方ない。


「ん……アキさんがいるので大丈夫ですよ」

「知っている。 ……星矢のことだが、無理なら無理でいいからな。 人質は俺には通用しないから、問題なく戦うことが出来る」

「それも、大丈夫です。 潜入ってことは人に会わなくても大丈夫ですし」

「……人質とは会うだろ?」

「あっ」


 大丈夫か、この子。 若干心配になりながら、人が遠くに見えたので手を離す。

 最近は何度も訪れた街だが、その度に少しずつ変わっているのが分かる。

 風の匂いも、エルと出会った時に似ているような気がする。 それをエルと分かり合うことが出来ないことに物寂しさを覚えるけれど、今、同じ風を感じられているということで充分だ。


「僕、頑張りますよ」

「無理はするなよ。 危険なことはさせないつもりだが……。 大山自体、どこまで信用出来るのかわからないからな」

「何でですか? 変なことは言っていなかったと思うけど」

「嘘は言っていなくとも、本当のことを隠しているかもしれないだろう。 単純にあいつらが人質を取られている可能性もある。 それで動きの制限される通気口にいたら勝ち目が薄くなるだろう。 エルの能力で子供化していたら尚更のことだ」

「……疑っているんですか?」

「エルが信じているみたいだからな」


 不思議そうにエルは首を傾げる。 人通りの少ない小道に進み、俺に隠れるようにしながらキョロキョロと見回すエルの手を引く。


「エルが信じているなら、多少礼儀を失っても嫌われはしないだろう。 だから、存分に疑うことが出来る」

「……僕、そんなに愛想よくないですよ」

「まぁ、何にせよ、いてくれて助かる」


 人がいないことを確認してから、梳かすようにエルの髪を触る。 くしくしと撫でれば、恥ずかしそうに俺を見上げていた顔を伏せるが、手から逃げようとはしない。


「俺はエルがいないと、ダメだからな。 これからもよろしく頼む」

「ん、どうしたんです?」

「思ったことを言っただけだ」

「……変なアキさんです。 ん、月城さんから、布を買うように頼まれたので、それから買いますか?」

「結構な量を頼まれたから始めに買えば歩くときに嵩張るだろ。 服から見るとしよう」


 確か近くに割と高級な店があったような気がする。 まぁ高級と言えど、王都にある貴族御用達のような店ではないが、王都には危ないから近寄らないし、服一つのために行く訳にもいかない。 どっちにせよエルに釣り合う物などあるはずがないし、エルに似合わない服もありはしないのだから似たようなものだ。


 うろちょろ見ながら俺に着いてくるエルが可愛らしい。

 着いた時に、エルは軽く首をかしげる。


「こういう服屋さんって、普通はオーダーメイドだと思ってました。 店舗に並べるのは大量生産が出来ないと難しいはずなのに、おかしいです。 服ってどうやって作ってるんですか?」

「糸から布を織って、それを切って縫って作るのではないか」

「……うーん、解せないです」


 普通こういうものだろうと思うが、エルの普通とはどうも違うようで、店に入ってからも不思議そうに見ている。


「自然素材で……ポリエステルとかじゃないから長期保存をしようとしたら虫食いとか起きたりしますし、無駄が多すぎるんですよ。 大量生産が出来て人工素材が出来て、人件費の方が嵩張るようになったらあれですけど」

「日本では注文してから作るのか? こちらの方が楽だと思うが」

「日本ではこっちと一緒です。 ……まぁ僕も慣れてるこっちの方がいいんですけど。 こっちでもやっぱり子供用になりますね。 でも、子供用も似たような形なのでよかったです」


 そう言っているエルの後ろにある白い服を手に取る。 これは少し派手だろうか。 もっとシンプルな作りの方がエルが好みそうだ。


「……あれ? やっぱりそれも変ですね。 地球の歴史でも、子供は大人の小さい版であるとしか考えられていないのが長らく主流で、この服屋さんの様子を見たら、その考え方みたいですけど……。 時流を考えたら、それはおかしいですね」

「まぁ何かあるんじゃないか? 地球には魔法や魔物がなく、勇者が来ないんだろ? その差とかあるんだろ。

これは……生地が薄いな」

「そうなんですけど……非効率的なのが、少し不思議で。 まるで僕達が過ごしやすいための世界みたいで、僕達が関係ないところは適当に済まされてるような……。 そんなの着ませんよ。 透けてるじゃないですか」


 元々こんなものを着せるつもりはなかったが、何か警戒されている。

 エルと一緒に見ていると店員が近くにきたので案内を断って再びエルに似合う服を探す。


「アキさん、ノリノリですよね。 こういうの興味なさそうなのに」

「エルに着させる服だからな。 多少は真剣に見る」

「……白い服が好きなんですか? ずっと白いのばかり見てますけど」

「……いや、別に。 肌を見せるようなものでなければ、エルの好きなものを買えばいいが」


 いつも白っぽい服が多かったので、どうにもこういう服を見てしまう。 エルの可愛らしい姿には、妙な飾りなどなく、単純で良いものを合わせるのが一番可愛いと思うだけだ。 ただし、他のやつに肌を見せるようなものはダメだが。


「……嫌われたくないので、アキさんにお任せしたいです」

「……随分、直球に言うな」

「……やっぱり、恥ずかしいので今のなかったことにしてください」

「いや、選ばせてくれ」


 どうにも、エルの魅力を隠さずに済む服が少ない。 ……いっそのこと月城に習って自分で作る方が確実か? 俺の作ったものだけでエルが着飾るのも、何か支配しているようで悪くない。

 それをするにせよ繋ぎの服は必要なので買う必要はあるか。

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