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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第十二章:強くなりたい≒弱くなりたい
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先を語らぬ予言書②

 久しぶりに会った大山が発した言葉は、非常に面倒なものだった。


「仲間にしてくれ」


 勇者には最近裏切られたばかりであり、大山もロムも胡散臭い人物なので正直なところあまり深く関わり合いになりたくない。 大山がこう言っているのも大方のところエルを近くで見たいとか、そう言った理由だろう。


「いや、それはないでしょ。 そんなのアキくんぐらいだよ」

「ないですよ。 それは」


 二人がそう言うが警戒は怠らない。


「……それで、大山は何故仲間になりたいんだ? 確か、勇者との情報交換をするのが目的だったよな。 あれから、そう時間は経っていないが」


 少なくとも、そう多くの勇者と話せたとは思い難い。 勇争記録があったとしても、単純な移動能力は高くない。


「目的地か、それは雨夜 美佳を観察するためだ」

「やはりか」

「本当にエルたんのストーカーだった……」


 さっさと追い返そうとしたら、大山は勇争記録をめくって机の上に落とした。


「好意というわけではなく、これに関した問題だ」

「……えと、これは……」

「ああ、記憶を失ってたんだったな。 これは俺の能力の勇争記録という能力で、勇者について記述されている」

「……すこし、見せてもらってもいいですか?」


 エルが本を読み込み、顔を顰めながら読んでいると、大山菓子を摘みながら続ける。


「その本の記述の中で、俺と雨夜だけが特別な立ち位置にいる」

「運命とかそういう言葉でエルを誑かすつもりなら切るぞ」

「いや、そんな雰囲気じゃないじゃん。 黙って聞こうよ」


 大山を睨んでいると月城に怒られ、仕方なく口を閉じて剣から手を離す。

 手慣れた様子のケトが紅茶を注いでくれたので、それに口を付けて少しだけ含む。


「雨夜にも聞かせたいから、少し待ってもらってもいいか」

「あ、ちゃんと聞いてるので大丈夫ですよ。 流し読みしてるだけですから」


 キリッとした真面目な表情で本と睨めっこをしながらエルは言い、大山は不信な表情を見せながらも口を開き、話を始めた。


「以前にも言ったが、その本には記述の誤りがある。 その記述の誤りは時間が経つごとに増えていっている。

記述の誤りが増えた理由は、記述の誤りがある人物が関わったからだと思う」

「……誰かが書いてるってわけじゃないんですか? あの女神様が書いてるとか、勇者の視点を利用してるとか」

「明らかな間違い……そうだな、星矢 光のページを見れば分かりやすいが、そのどちらの視点で書かれているとしてもあり得ない記述があるはずだ」


 エルが指示通りにパラパラとページをめくり、目を見開いたあと、首を傾げる。


「僕達が会う前に、死んでいる?」

「そうだ。 その記述では死んでいるはずの人物だが、今も生きている。 俺もこの前確認したが、普通に生きていたな」


 明らかな記述の間違い。 それの不自然さに顔を顰めると、大山は続ける。


「知ってる奴らを見たら分かると思うが、多かれ少なかれ、記述の間違いがあるはずだ」

「あっ、私のレベルが上がってることになってる!」

「今はまだレベル1なのか……」


 エルにロトの欄を見せられて事実かどうかを聞かれるが、かなり違うことばかりが書かれている。


「後になれば現実とのズレが増える……。 今までのことしか書いていませんが、これって……」

「ああ、誰かの視点(・・・・・)だったから記述の誤りがあったわけではなく、記述された時間がおかしい(・・・・・・・)から記述に間違いがあったわけだ。

これは今書き足されているのではなく、始めから書いていたものが浮かび出ているだけってことだ」


「勇争記録というよりか、勇争台本とか、そんなもんだったってこと」


 ロムが纏めるようにそう言って、菓子をパクパクと食べていく。

 話に上手く着いていけてない月城と顔を見合わせると、エルの手が視線を遮るように動かされる。 エルの方を向くと少しだけ不満そうな顔をしてから、俺の口に菓子を突っ込む。


 満足そうな表情と共に口を開く。


「……未来を書いてはいないけど予言書だった。 でも、前提が間違っていたからそれに間違いが出た……ですか」


 ああ、と大山は頷き、眠たそうに欠伸をする。


「一つ目の記述の間違いは俺の能力、付き人の有無、召喚場所。 それを中心に、渦のような記述の誤りがある。 それでは説明出来ない、もう一つの渦がある」

「……僕には記述の間違いがありませんよ」

「俺と接したのに、記述の間違いがない。 それに、星矢の記述が間違っているのにお前のは間違っていない、矛盾が発生させている。 つまり……」


 書き換えられている。 ぼそりと、月城が口を開いた。


「そうだ。 他の勇者とは違って、本当の意味で常に書き変えられている」

「……僕が特別扱い……ですか」

「信じられないのか?」

「ええ、まあ……普通の女子高生でしたから。 こっちに来ても……うじうじしているだけで」


 エルの言葉に、大山は呆れたように言う。


「竜、巨人、刃人の王、大量の魔物に、瘴気の消滅か。 これだけの功績を持ってか?」

「……記憶ないですし、アキさんがしたことですから」

「何にせよ。 少なくとも普通のレベルではない」

「……ッ! 僕は……」


 エルの身体を抱き寄せて、二人に向けて言う。


「帰れよ。 何を求めているのか知らないが、エルには無理だ」

「いや、他人の手があろうとそれだけの功績があることは事実でーー」

「聞こえなかったか」


 大山が押し黙り、ロムが椅子を後ろにずらす音だけが部屋に響く。 俺に抱き寄せてられているエルが頼るように体重を預け、大山が何か言おうとするが、口をパクパクと開閉させるだけに終わる。


 ぽたりと大山から汗が流れ落ち、それを機に月城が俺の頭をひっぱたいた。


「もうっ、話を聞いてもないのにそんな言い方はないでしょ! 変な期待をかけられてるなら、ちゃんとそれを解かないとダメだし、この人の能力は星矢くんを助けるのにも役立つと思うしさ」


 大山が慌てるように呼吸を再開し、汗の垂れている額を拭う。


「……悪かったよ」

「す、すみません」

「いや、エルたんは悪くないから。 ……でも、大山さんもあれですよ。 こんな小さい子を虐めて……」

「どっちかと言えば俺が虐められてなかったか? ……いや、怖がらせるつもりもなかったしさ」

「デリカシーがないんですよ。 普通、神とか世界とか突然言われたらびっくりしますし、その中でも特別みたいに言われたら驚きますから」

「お、おう……。 悪かったな」


 大山は軽く頭を下げる。 まあ、一応謝っているのだし、話ぐらいは聞いてやるか。


「その、何かをしろと言うわけじゃなく、ある程度行動を共に出来たらいい。 ……何かしらの使命があったとしたら、共にいた方が都合いいと思ってな」

「……分かった。 その代わりこの本はいただく」


 スパン、と月城に頭を叩かれる。


「アキくんにこんなストーカーグッズ渡したら問題だよ。 というかエルたんのページを読みたいだけでしょ」

「これは能力のものだから渡さないな。 雨夜に渡したら能力が変質するだろうしな」

「……そのページだけでも」

「いや、無理、破れねえし。 とりあえず、仲間ってことでいいか?」


 エルが許可を出したので、仕方なく頷く。 仲間というのはこうやってなるものだっただろうか。 ロトとは、もっとこう……戦いの中でといった感じだったのだが……。


「んでさ、ここに泊まっていい? 無一文なんだよな。 ここら辺魔物いないから」

「……野宿でもしろよ」

「えー、そう言わずにさ、だだっ広いじゃん」

「エルの近くに置きたくない」


 俺の私室の周辺は空き部屋ばかりで、エルといちゃいちゃと話をしていても聞かれないようになっている。 流石にレイの部屋を使えというわけにもいかないので、周辺の部屋を充てがうことになってしまう。


「……使っていない家が町の方にあるから、そこを好きに使え」

「お、マジか。 やったぜ。 太っ腹だな、エンブルクの旦那!」


 何とも都合いい……。 苛立ちを覚え口を開けようとしたら、エルの手が動いてその口に菓子が詰め込まれる。


「星矢くんのことを解決したいので、協力はしてもらいます」

「もちろん。 任せとけ」



現在のエルちゃんパーティ


エル=エンブルク

職業:補助魔法使い


アキレア(ルト=エンブルク)

職業:剣士


月城

職業:服職人


大山 翼

職業:大魔術師


ロム

職業:賢者

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