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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第十二章:強くなりたい≒弱くなりたい
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鬼と讃えよ②

 結果から言えば……。


「星矢の奴が能力を持ち逃げしたのか」

「星矢くんはそういう人じゃないよ」


 月城はすぐに俺の言葉を否定し、まっすぐに俺の目を見つめる。 違う。 俺の手から、目を逸らしているだけだ。

 まっすぐに見ているけれど、その目は怒りではなく縋るようで、酷く狼狽えていることが分かった。


 どうにも俺は、弱い人間には弱いらしい。 適当に謝罪してから倒れている椅子を戻しそこに座る。 ケトが治癒魔法を行い治っていくのを見ながらエルに声をかける。


「とりあえず、厄介なものはなくなった。 初めの予定通り戦争を止めよう」

「……は、い」


 何故そんな俺を憐れむような顔をする。 エルなら、人に裏切られても問題ない奴の気持ちぐらい分かるだろう。


「地理と歴史だったな。 家にある分はすぐに用意させる」

「……はい、お願いします」


 興が削がれた。 ケトに言伝を頼んでから、片付けを始めた月城を手伝う。 月城の手が震えているのも見える。 初めに月城に振るわれた金棒が見えていたのだろうか。


 一通り片付けてから、菓子を口に含む。


「……ごめんね、アキくん」

「裏切ったわけじゃないと月城が思うんだろ。 なら、疑わない、怒りもない」

「ありがとう」

「まぁ、会ったら理由を聞けばいいだろ」


 適当な慰めのあと、一人で放置しておくのも悪いかと思い「本を探すのを手伝ってくれ」と適当なことを言いながら、三人で書庫に向かう。


「へー、本いっぱいですね。 聞いてたイメージと違います」

「頭は悪いが、興味のある分野にはカネを惜しまないからな。 歴代で続ければ本も増える」

「アキくんもアホアホ言われてるけど、何カ国も読み書き出来るしね」


 それぐらい普通出来るだろう。 溜息を吐いていたら、頼んでいた本がいくつか本棚から出されていて、それを目にする。


「んぅ、読んでもいいんでしょうか?」

「埃っぽいからここではやめておけ」


 軽く礼を言ってから出ようとすると、俺が集めた本の棚に見慣れない本があることに気がつく。


「混じったのか?」

「あ、それ、なんか置いてあったからアキくんのかと思って戻したの。 魔とか書いてるし」


 魔法ではなく魔物の本なのだが、同じように見えるのだろうか。

 軽く観ると、会話の出来る希少な変異ゴブリンの話らしく、依然戦ったやつを思い出して手に取る。


 タイトルは【知能のある魔物から、魔物の発生を研究する】という名前だ。 ボロボロなその本になんとなく興味を惹かれ、エルが歴史を学んでいる間に読むことにする。


 自室に戻ると、何故か月城までついてきていた。


「アキくんが無理矢理襲わないように見ておかないと」

「しない」

「嫌がってるエルたんにちゅーしてる光景を何度も見てたから……」

「嘘を吐くな」


 エルは見られるのを酷く嫌がっていたので、そういうことは絶対にない。 手を繋いでいるところを見られるのさえ嫌がっていたぐらいだ。


「……この部屋、ベッド一つしかないので寝るときは別のところに行きますよ」

「魔力を感じないから大丈夫だとは思うが、星矢が潜んでいる可能性がある。 ベッドは別のところから持ってくるが、この部屋で寝てもらう」

「……変なことしません?」

「しない」


 納得したのか、一応小さく頷いて本を手に持って椅子に座る。

 俺も本を持ってベッドに寝転がり、エルの方を向く。 丁度目線の先にエルの脚が見え、膝丈の半ズボンの隙間から脚の奥が見えそうになっている。


 生唾を飲み込み、半ズボンの隙間を凝視する。 すぐに月城が気づき、俺の方をじとりとした目で見てきたので、仕方なく目を逸らす。


 わざとらしくいつも通りを振る舞おうとしている。 それが分かるけれど、俺にはどうしようもない。 それの邪魔をしないようにするぐらいか。


 エル以外の人間に気を使うのも馬鹿らしい。 本を開いてその内容を読んだ。



◆◇◆◇◆◇◆


 言葉を操る魔物は存在する。 だからといって、会話が成立するかと問えば、それは否である。

 同じ言語であっても、前提として魔物は話を聞かない。 騙すために口を開くことはあるが、それは一つの攻撃手段であり、対話とは違うものだ。


 それを前提として彼との対話について書こう。


 ーー中略ーー


 短い対話であったが、分かり合うことは不可能であった。 彼等は人を憎み嫌う。 人も彼等の姿を醜悪であると感じる。 魔物とは絶対的な人間の敵対者である。


◆◇◆◇◆◇◆


 ダラダラと会話記録を書き綴っただけの本で、面白いものでもない。 たまたま目を引いたのはかなり汚れ、曲がるなどが多かったからだろうか。

 よくここまでボロボロにしたなと、半ば呆れながら最後のページをめくる。


「出版は25年前か……」


 俺の集めたものではない。 たしか25年前には祖父は死んでいたはずだ。 だとしたら……父親の物か、母親の物か。 そこらに転がっていたなら父親のものか。


 あの人、文字を読めたんだな。 まぁ学校には行っていたようなので当たり前か。

 こんな内容もない本を読んでいたのは、まともな本を読めないからだろう。


 月城の方に目を向けると、顔を蒼白に染めていた。

 エルに目を向けるとオロオロとしていたが、当の本人である月城は気付いていないのか本を開いてパラパラとめくっている。


「月城、大丈夫か?」

「な、なにが?」

「何がって……顔色悪いぞ」

「……アキくん、それはセクハラだよ」

「えっ」

「……何がだ?」


 エルが俺を見て首を横に振る。 どういうことだ。


「無理してないか?」

「アキくんが私に気を使うなんて、珍しいね。 エルたんがヤキモチ妬くよ?」

「……妬きませんよ」

「大丈夫なら、別にいい」


 理由は分かるので月城に話を聞く必要もないか。 エルが疲れているので明日以降にはなるが、星矢のことも探ってみよう。


 しばらくしてから、エルが伸びをしてから、疲れたように目を擦る。


「ベッド持ってくるな」

「ん、物を退かしておくね。 エルたんそっち持って」

「あ、はい」


 部屋の外に出て、マトモに使われたことのない客室のベッドを片手に持って運ぶ。 そういえば、エルのクリーンがなくなり、魔法も使えなくなっているので浄化関連の物はないのか。


 エルはあまり衣服に頓着しないので月が作った変な服以外にはあまり持っていないので、魔法を教えるか服を買うかする必要があるな。

 そう思いながら部屋に入り、俺のベッドの横に置く。


「んぅ、出来たらもう少し離してもらえませんか……? これだと、大きいベッドを使うのと違いがないような……」

「……分かった」


 5センチほど隙間を空けて、掛け布団や枕、毛布を取りに部屋を出る。


「えぇ……」


 後ろから月城の声が聞こえたが、努めて無視をした。


 一通り寝る用意が終わったところで、エルが布団を腰にかけて、ベッドの上部に背中を預けるようにして座りながら口を開けた。


「……戦争多すぎます。 ずっとやってるじゃないですか」

「そうか?」

「そうですよ。 異常な数です。 ずっとしてるせいで、人口の増加がずっとなくて……」


 エルは整った顔を歪める。


「人が死んだら魔物が生まれるのに?」

「……人が増えたら、その分だけ人が死にます」


 当たり前のことだけれど、今まで気がつかなかったことがおかしいぐらいのことだが。

 あまりに残酷な真実に触れてしまったような気がした。

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