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救いたいと思うことをやめたくはない⑨

 月城の意地悪により戦闘不能状態になったエルを他所にして、これからの話をしようと口を開く。


「戦争が起こるかもしれない」

「えっ、あっ、急だな」

「戦争が起これば、エルのエリクシルによる浄化が新しくは無理な現状では、刃人の王も超える化け物が発生するかもしれない」

「戦争が起こるのはどこ情報?」

「エルの推理だ」

「じゃあそれはあとで聞けばいっか。 ……戦争か、ヴァイスさんも行くのかな」

「行くだろうな」


 もしかしたらレイや俺も呼ばれるかもしれないが無視で構わないだろう。

 難しそうに顔を歪めている月城を見て、エルが決意に満ちた涙目を赤い顔に浮かべながら話す。


「僕とアキさんはそれを止めようと思っています」

「……なんていうか、お前ら二人ってさ」


 星矢は何かを言おうとしてから、舌打ちをして頭を掻きむしった。


「英雄みたいだよね」


 月城が言葉を続ける。 英雄、言われると思ってもいなかった言葉に面食らう。

 言葉を止めた星矢もそれを否定する様子はなく、誤魔化すように紅茶を啜った。


 一番驚いたのは、俺かエルか。 同じように驚いた表情をしたエルが急いで首を横に振った。


「ないですよ、ないです。 僕は、聞いた話でもおんぶに抱っこ(比喩ではなく)で、本当に大したことはしていませんから」

「俺もないな。 エルの指示に従っていたばかりで、何も出来ていない」


 俺たちが否定すると、月城は笑う。


「ん、そうかも。 どっちかと言うとボランティアの人っぽいね」


「……その戦争を止めるってのはどうやるんだ? やることもねえし、俺は付き合ってやってもいいぞ」

「月城……星矢……手伝ってくれるのか。 ありがたい、人手が足りないかもしれないからな」

「ありがとうございます、星矢くん、月城さん」

「えっ、なんか巻き込まれてる?」


 二人と四人では倍の人手だ。 星矢が未知数で月城が大して何も出来ないことを差し引いてもとてもありがたいことだ。

 エルと二人での旅が一番長く楽しかったことは間違いないが、やることを考えれば人がいるに越したことはない。


 いくら俺が強くなっても、結局、ロトとリアナ、それにグラウと共に旅をした時期が一番楽だった。

 ……なんだかんだ、ダメ人間だ、人間のクズだ、酔っ払いの不潔野郎だと言いながらも、頼りになる奴だったのは間違いなく……グラウの意思に従うのではなく、俺の思いを押し通すべきだったかもしれないと、今も後悔する。


「戦争を止める方法かあ、よく分からないよね」

「……人は感情ではなく、利を求めます。 戦争をしては損になることを増やして、しないように仕向けるしかないです」

「戦争をしては損になるって、例えばなんだ?」

「単純に、瘴気の発生で共倒れになることを示せばいいんです。 研究の方法が難しいですけど……」

「そもそも、その因果関係って、大昔から分かってるんじゃない? ほら、作られた魔人の家系であるエンブルクもあるわけだしさ」

「あと、作られた人型魔物とかもいるぞ。 他の勇者に襲われたことがあったんだが、そいつが連れていた」

「あ、それはロトくんも言ってた」


 確かにその通りだと頷く。 人は瘴気のことを知っているはずだ。

 エンブルクが出来てから一千年近くは経過していて、今も続いている。 それこそ、秘匿にも限界があるだろうし、誰かがエンブルクの強さの理由を求めるぐらいはするだろう。


 明らかにおかしい。 エルを見たら、自信なさげに小さな口を動かす。


「……意図的に隠されてるかも、しれませんね」


 エルの言葉を聞きながら、星矢が反論する。


「ねーよ。 技術の隠匿ってのは、それこそ利があるからすることだろ。 擬似的な勇者を生み出せるなら、利用ぐらいするだろうし、魔物の製造でもそうだ。

それだけの技術を持ちながら、何もせずに何百年も何もしないとか、意味分からん」

「す、すみません」

「でも実際にそれだけの技術はあるが、知られていないのだろう。 隠していると見るのが正常だろう。 エルの言うことが正しい」


 話が行き詰まる。エルが正しいのは間違いないが、星矢の言葉にも一理ある。

 喉を潤すために紅茶に口を付けると、なくなっていたことに気がつく。


「あれ、飲みきっていたか」

「あ、エルたんが間違えて飲んでたよ」

「そうか……」

「にやけ面きもいな」

「す、すみません。 いつもこっちのカップだったんで……。 ん? あれ?」


 月城が納得のいったように頷く。


「やっぱり、全部忘れたわけじゃないんだね」

「……そうなのか?」

「……分からないです。 でも、カップのことは分かって、嘘ではなくて……」

「知らねえけど、別にいいんじゃね? 多少覚えてることがあっても」


 嘘ではないだろう。エルの演技にはいくらでも騙される自信があるが、本当に記憶があれば神聖浄化によって消えてしまうはずだ。


「……一応、警戒したほうがいいか」

「まぁね。 能力の移譲をするのはどうかな?」

「俺としては構わないが、どうしても移譲される勇者へのリスクが大きい。

エルの神聖浄化(クリーン)は自己嫌悪が元になっている能力だ。 月城の能力がエルの元に行き変化したのと同じように、他の勇者に移すことで変化したら、その勇者に害を与えかねない」

「またまた、本当はエルたんと私が触れ合うのが嫌なだけのくせに」

「それもあるが」


 扉からノックの音が聞こえたかと思えば、ケトが入ってきた。


「お菓子焼いてみたんで食べませんか?」

「相変わらずフリーダムだねケトさん。 勿論食べるよ」

「自信作なんで、ゆっくり食べてくださいね。 いつもは焼いた側からレイさんが全部食べてしまうので、小麦粉をそのまま渡したら嫌がりますし。 ついでに紅茶も淹れますね」


 以前に比べて慣れた様子だが、どうにもメイドらしさも感じられなくなってきている。 エンブルク家の正しい所作や礼儀を誰も知らないという状況に毒されてしまったのだろうか。

 それにしてもレイへの扱いが酷すぎないだろうか、兄弟仲はそれほど良くないが、それでも多少の同情をしてしまう。


 ケトは紅茶を注いでから菓子をひとつ摘んで部屋の外に出て行く。


「獣耳メイドか、いい趣味してるな、エンブルク」

「あれはレイ、弟が連れてきたやつだ」


 もしくはロトに押し付けられたやつか。どちらにしても付き合いはそこそこ長いが、話すこと自体は少ない。 おそらく、ケトも俺に苦手意識を持っている。


「私は死に帰りしてもいいから、とりあえず浄化の能力を移してみる?」

「そういや、帰りたがっていたな」


 少し戸惑いを見せるエルを他所に話が纏まる。

 以前のエルならば否定しただろうが、今のエルには浄化された記憶がないのでそれを止めることもない。


「せっかくなら俺も欲しいんだけど、能力二つありゃ便利だし」

「いや、だから危険なんだよ。エルの能力は自分にも作用する。

浄化されたらそこで終わりだ」

「んじゃ、月城が平気そうだったら移してくれ。 ……というか、いっそ、いい能力になるように能力交換しまくるか? どれかいいパターンがあるだろ」

「交換して、能力のレベルとかどうなんだろ?」

「勇者のレベルに依存してるから問題ないな。 試して見るだけ試したらいいだろ」


 星矢はそう言ってから自分の能力の説明を始める、その後、エルも能力の説明をし、星矢がもう一つ能力を持っていたことも合わせて合計五つの能力があることが分かる。


 汚れを消す(別世界に移す)能力……神聖浄化(クリーン)

 時を巻き戻す能力……神祈月の流転(クロック・リーン)

 記憶を失う能力……白紙に至る(ホワイトスクリーン)


 身体を自動操縦する能力……我が身我が意(フルオート)

 物を異空間に出し入れする能力……食って吐いて(イートオート)


 正直な話、神聖浄化も白紙に至るもデメリットの方が大きい能力なので、星矢に押し付けられるのならばそちらの方がいい。

 星矢の能力はデメリットもなさそうなのであれば嬉しいところだ。 どちらにせよ得しかない。



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