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救いたいと思うことをやめたくはない⑧

 月城の今までとエルの記憶を失ったまでの経緯を聞き、星矢が首を傾げる。


「ん? 雨夜の記憶なくなったのは最近なんだよな? 随分仲良くなったんだな」

「そうでしょうか?」

「うん。 ちょっとビックリ。 エルたん気が弱いから仲良くなれずにアキくんに囚われてR18なえっちぃことをされまくってると思ってたよ」

「……そんなことするんですか?」

「夜に部屋の前を通ったらエルたんのくぐもった声が聞こえて気まずかったよ」

「適当なことを言うな。 エルが本気にするだろう」


 「えっ、えっ」と戸惑っているエルを見て、月城がニヤニヤと口角を上げる。 エルはその様子に気が付き、顔を真っ赤にしながら潤んだ目で月城を睨む。


 エルを軽く撫でると、恥ずかしそうに上目で見上げられる。


「まぁ、ちゅーはよくしてたけどね」


 隠れてしていたのに何故知っていると睨むと、月城はニヤリと口元を歪める。


「なんだよ。 ……なんでそれを知っている」

「いや、知らないけど。 やっぱりしてたんだ。 エルたんのえっちー」

「し、知らないですっ! 僕、そんなのっ!」

「観念しなよ。 ネタは上がってるのさ」


 うりうり、と月城が座っているエルの頰を指で突く。

 恥ずかしがっているエルも可愛らしいが、このままだとすこし可哀想なので、星矢に質問をして話しを逸らす。


「星矢はどうやって生きてきたんだ?」

「露骨な話題逸らしだねアキくん」

「ん、俺か。 俺はこの街の中に召喚されて、普通にギルドに登録して狩りをして暮らしてたんだけど。 小池という奴、あっ、勇者にあって、世界地図を見たんだ。 なんか地図を出す能力でな」


 地図を出す能力か。 なんとなく、大山の勇者について書かれている本の能力に似ている気がする。


「小池曰く、この世界の地形は遥か昔の地球に非常に似ているとか。 んで、その後に鳴川という勇者から瘴気のことを聞いて、それぐらいに魔物化が始まって瘴気が見えるようになった」

「勇者を呼び出すのは瘴気の吸収のためっていうのが納得出来るね。 ロトくん……こっちで知り合った勇者の見解だけど」

「瘴気の吸収のために勇者が? エルの仮説だと、魔物化する特性を期待して異世界からって話しだったが」

「んー、まぁ分からないんだけど。 勇者が瘴気を吸って、それを持ったまま死ぬことで地球に瘴気を持って帰らせるとか。 そしたら、地球では瘴気が存在出来ないから安全に処理出来るって説みたい」


 地球には瘴気がない。 それは事実なのだろうか。 存在しないから持っていっても問題ないということが腑に落ちない。

 本当に瘴気がないのならば……エルの記憶が瘴気の放出で失われたのは何故だ?


 まぁ、頭の悪い俺が考えたところで意味がないか。

 それに、魔物も魔法もない世界らしいので、瘴気が存在しているはずもない。


「……昔の地球に似てるって、そのまま昔の地球の可能性はないの?」

「ん、分からん」


 月城の問いに星矢は首を傾げ、エルがおずおずとした様子で、赤く染まった顔のまま口を開いた。


「……そういうのに詳しいわけではないですけど、ここまで地形が変わるぐらい昔だとしたら、空気も違うはずです。 仮にジュラ紀だったら20%を下回りますし、それより前の石炭紀だったら35%を超えます。 当然植生や生物の種類も大きく変化しますから……地球で化石や遺跡が見つかる見つからないとか、それ以前にありえませんね」

「んー、たまたま酸素のバランスがいい時代に人間っぽいのが発生して、酸素のバランスが悪くなって滅びて遥か後にまた人間が出たというのは?」

「進化は飛躍しないものなので、ありえませんね。 翼竜の子供が鳥なのはあり得ても、恐竜の子供が人間みたいなのはあり得ないんです」

「カエルの子は?」

「オタマジャクシですね」


 月城はふむ、と頷いて見せる。


「つまり過去の地球って可能性はないのかな。 地形が似てるってだけで」

「そうですね。 それは考えにくいです」

「平行世界的なのは?」

「んー、そういう話の理解は出来てないので、ちょっと分からないです」

「そうか」


 どうやら星矢が聞いてきた話はエルによって否定されたらしい。

 その後、星矢のこれまでを聞くが、基本的にはそこら辺でフラフラと生きてきただけらしく、大した情報は持っていなかった。


「んー、エルちゃんは記憶なくなったし、私はニートだし、星矢くんはフリーターだし。 ロトくんが一番活動してるなぁ。 いや、活動実績的にはエルちゃんかな」

「僕何かしてたんですか?」

「この国を救ったり」

「規模が大きい……」


 しばらく話をしているのを聞くとエルも緊張が解れてきたのか、安心したように頰を緩ませ始めた。

 そんな様子を見て、月城が不意に口を開く。


「……本当に記憶がないの?」

「え、はい。 こっちにきてからは覚えてないですけど」

「どうかしたのか?」

「……いや、そのなんというか、二人が仲良いなーって。 二人ともコミュ障なのに」

「……まぁ、悪い人ではなさそうですし」

「誘拐したのに?」

「……んぅ、そうですけど」


 しばらく悩んだあと、月城はポンと手を打った。


「イケメンだからかっ! エルたんは面食いだったんだ!」

「ち、違いますよ。……警戒するのも馬鹿らしくて」

「いーや、違わないね。 間違いない」

「違うだろ。 顔によって好きになるなら、エルが一番整っていて可愛く美しいのだから自分大好きになるに決まってるだろ」

「……いや、なりませんから。 美形でもないですし」

「だからエルは見た目を気にするタイプではない」


 ふむふむと、月城は頷く。 否定することの出来ない完全な理屈だ。

 ケトが運んでくれたお茶と菓子をエルに食べさせながら髪を梳く。


「つまり、エルたんはアキくんの性格を好きになったのかな?」

「自慢じゃないが、俺は性格悪いぞ」

「本当に自慢じゃねえな」

「別に性格悪くないですよ」

「まぁアキくんは性格悪いよね」

「悪くないです……」


 そうなると、エルが俺を好いてくれていた理由が不明だ。


「で、エルたんはなんでアキくんのこと好きなの?」

「今は別に好きでもないので分からないですよ……」

「じゃあ、嫌いにならない理由は? 普通嫌いになるでしょ?」

「ストックホルム症候群ではないでしょうか」

「ああ、誘拐されたら、誘拐犯を好きになるあれだっけ……」

「ん、それです」


 菓子をパクパクと摘んでから、月城は首を傾げる。


「……あれ? 好きになってない、それ」

「……」

「……」

「……」


 微妙な空気が流れ、視線が自然とエルに向かう。


「……いや、違いますし。 全然違いますから。 僕、そんなにちょろくないですから」

「そっか……うん。 そうだよね」

「違いますからねっ! そんな数日で好きになるとかっ、ないですからっ!」

「うん、そうだよね。 分かってる。 ……単純に前の記憶が微妙に残ってるとかじゃないかな」

「そう、それですから!」

「好きなのは認めるのか……」


 エルは顔を真っ赤にして、今にも泣きそうになっている。 相変わらずこういった話題には弱いな。 かわいい。

 椅子を徐々に俺のところに寄せ、少し隠れるように顔を俺の方に向ける。 かわいい。

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