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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第二章:高みへと朽ちゆく刃。
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到着

 誤魔化そうとしても出る笑みをエルには見えないようにしながら前を見据える。


 やっと笑みが収まってきたころになって、遠くに人影が見える。 いや、人影ではない。

 魔王復活の予兆、あるいはたまたまタイミングが重なったからかは分からないが、珍しいはずの魔物が大量に目撃され始めている。


 例えば俺が初めてあったホブゴブリン、森の中のゴブリンとホブゴブリンの群れとオーク、馬車に乗っているときのオーク。

 明らかに珍しいはずの魔物がここ一週間ほどで馬鹿みたいに見ている。


「アキさん、この世界って、人間以外の人種っていますか?」


 そんな強い魔物にも慣れてきたつもり……だった。

 首を縦に振ってから、エルの服を掴む。


「いるが、あれは、違う」


 獣人に少し似ている。 尤も、獣人なんて絵で見たことがあるだけではあるので、獣人の姿は分からないが、あれが獣人ではないことは分かる。

 背丈は少しホブゴブリンに似ている。 オークにも近い。

 その二つよりも近い存在がいる。


「高位の魔物は、人間に……似る」


 何処かで聞いた言葉がエルの口から声となって出る。 有名な言葉で、随分昔に否定された説だった。

 ドラゴンなど人の形から遠くとも力が強い魔物はいるという事実から否定された言説であり、低級の魔物にも人型がいるから否定された訳ではない。


 つまり、人間に似ていれば高位の魔物であることには間違いはないのだ。


 魔物の姿を観察すれば、体型や手先こそは人間に近いが、皮膚には半端に少ない量の毛が生えていえ、何処からも緑に近い色をした醜悪な皮膚の色が見える。 半端に禿げた獣というような表現が正しいだろうか。


 顔は見えないが、人間と違うのは分かる。 体型やホブゴブリンよりも高位の魔物であることは確かだが、勝てないほどの存在ではない。


「警戒して迂回する。 見つかり向かってくる、あるいは道中に他の魔物がいた場合は複数を同時にならないように積極的に挑む」


 掴んでいた服を引っ張り、少し怯えているエルを連れて斜めに移動する。

 絶対に音は聞こえないような場所にいると思うが、エルは声を潜めながら呟く。


「こちらが風上なので、匂いがいかないように浄化しますね。

光るので少し伏せてください」


 手慣れた様子で俺の全身をベタベタと触りながら浄化をする。 スキルポイントで射程距離を伸ばしていれば、もっと手早くいけた。 次はバランスよく振ってもらった方がいいだろうか。


 最後の仕上げにエルは自身の全身を光らせる。


 一通り浄化でさっぱりして、だいたいの匂いがなくなったこともあり気が付かれることがなく通り過ぎることが出来た。


 安堵の息を吐き、緊張からか少し身体に気だるさが出始める。 いや、昨日の疲れが血の不足もあって取れていないだけか。

 戦闘を避けたのは正解だったと今になって思う。


「本当は、見かけ次第減らしていった方がいいんですけどね。 僕が戦えたら……」


 端正な顔を少し歪ませながらエルは尻すぼみに呟く。 俺に頼っている、とエルが思っているからだろう。


 事実ではある。 だが、エルには戦わせたくない。 魔法を覚えて自衛する手段は得ていて欲しいが、俺のように矢面に立って戦わせるのは危険が大きい。


「エルは戦わなくていい」


 そう言うとエルは悲しそうな顔をしてしまう。 何が悪かったのかは分からない。

 頭をゴシゴシと乱雑に撫でてみる。 エルは取り繕うように俺に笑顔を見せて、小さな口から小さく息を吐いた。


 エル。 悲しそうな顔をしないでくれ。


 そう頼むことすら出来ずに、俺は撫でていた手を降ろして口を閉じた。


 一時間ほど歩けばまた遠くに魔物の姿が見える。 普通のよく見るゴブリンで少し安心する。

 エルには少しの間待ってもらい、気づかれる前に走り込んで速攻をかけようと思う。


 いや、足音で気づかれるか。

 そういえば、黒装束の少女の走りでは殆ど足音がなかったのを思い出す。 靴の問題もあるかもしれないが、あの奇妙な走法ならば足音が小さくなるのではないか。


 試しに軽く真似をしてみると、ぎこちない動きのせいで普段よりも遥かに遅いが、慣れれば普段と同じぐらいにはなりそうな上に足音は小さかった。

 黒装束の少女ほど足音がなくなるのは見よう見まねでは出来ないかもしれないが、有用な技術だろう。


 黒装束の少女の走り方を真似、ゴブリンに向かって剣を突き刺し魔石をくり抜く。

 黒装束の少女の滑るような歩法で移動しようとするが上手く足が動かず少しゴブリンが逃げ始めてしまうが、いつもの走り方で一気に距離を詰めて仕留める。


 最近の収入のことを考えるとほんの端金ではあるが、ないよりはあった方がいいと思い、エルに危険がないことを横目で確認しながらゴブリンから魔石を取り出す。

 エルの元に急いで戻る。


「アキさんはやっぱりすごく速いですよね。 背負ってもらった感じからいくと、車とかよりも速そうです」


 車とやらは知らないが多分褒められているのだろう。



 またしばらく歩く。 馬車から出てから一時間半ほどの歩いた頃、エルがダウンした。


「す、すみ、ません。 すぐ立ちます」


 突然倒れ込んだので、草に絡まってこけたのかと思っていたが、どうやら違うらしい。

 宣言通りエルは立ち上がって歩くが、明らかに疲弊している。


 体力がないと思っていたが、背負ったり休憩をしなければ二時間も持たないのか。

 いや、痩せこけていて少しマシになったぐらいの時ならば仕方もないか。


「悪いが、今日中につかないと夜をここで過ごすことになるから急ぐ必要がある」


 持っていた袋に二本の剣を入れて、袋を紐で身体に括り付けてからエルの前に移動して、背を向けてしゃがみ込む。


「い、え。 まだ歩けます。 歩きます」


 エルは気丈に振る舞うが、ここで無理をさせても、ソウラレイに着いた時に体力がまったくなくなり逃げることすら難しいということはなるのは避けたい。

 尤も、黒装束の話からすると、危険ではあっても街の機能がなくなるほど大変な状況ではないだろうから、休んでから魔物退治すればいいのだけれど。


 ひょいと後ろに下がり、手でエルの脚を触って前に倒させる。 背中でエルの身体を受け止めて手で太ももを持ち立ち上がる。


「アキさん、僕……」


 まだ頑張ろうとするエルが俺の背中で何かを言おうとするが、声を被せて意見を聞く気がないことを示す。


「夜までには着きたいから、悪いが背負っていく」


 顔を背中に埋め、悔やむように俺に謝る。

 柔らかいエルのふとももを触りまわせるから俺も嬉しい……なんて茶化してみようかと思ったが、嫌われたりするのが怖いので止めておくことにする。


「気にするな。 お前ぐらいの重さなら、どうにでもなる」


 まぁ、ガリガリとはいえ20キロはあるので長いこと背負っていると疲れることは確かだが。

 もしかしたらエルが体力を付けて体重が増えたりすると、俺が余計疲れてしまうのではないだろうか。


「すみ、ません。 アキさん」


 歯切れの悪い、申し訳なく思っている時のエルの声を聞きながら、これからのことを思う。

 いくらエルが体力を付けたところで、一時間半が二時間になったり三時間になるだけだろう。 それで体重が30キロぐらいまで増えてしまうと、余計に負担が重く。


「エルはこのままでもいい」


 流石に30キロもあるエルを何時間も持ち運ぶのは無理だ。


「あぅ……。 んぅ、アキさんはズルいです」


 何がズルいのか分からないが、大人しくしてくれたのでだいぶ楽になった。

 すぐに武器が取り出せないのも、森の中なら問題だが見渡しのいい草原ならば魔物を発見してからエルを降ろして紐を外してから剣を抜いても苦にはならない。


 迷惑をかけるのを嫌うエルは、背負われながらだと気まずさから口を開くのを止めるので終始無言で歩き続ける。


 日が暮れ始めた頃になって、遠くに数匹のゴブリンがいるのを確認する。


 おそらく、ソウラレイを襲っている魔物達の一部だろう。 黒装束の少女曰く、軍団のように一気に攻め込むのではなく、まばらに集まるように攻め込まれているらしい。

 そろそろ街が近づいてきた証拠だ。


「アキさん。 考えていたんですが。 なんで魔物は、ソウラレイを攻め込んでるのでしょうか」


 魔物を対処するためにエルを地面に降ろすと、俺の目を向きながらエルは言う。


「なんでって……」


 答えられない。 魔物はよく人に襲いかかってくるので、薄朧気ながらその一環かと考えていたが、エルと出会った街の近くには魔物は寄り付かなかった。

 寄り付かない理由は単純に危険だからだろう。


 ならば、魔物がその生存に向かおうとする本能を破ってまでソウラレイに向かう理由は、なんだ。


「すみません。 戦う前に変なことを言って」


 エルが俺に頭を下げる。 考えている間にゴブリンがいつものように一定の距離を保って俺たちが弱るのを待つのではなく、そのまま真っ直ぐに襲いかかってくる。


 エルを後ろに下がらせ、二本の剣でゴブリン達の魔石をくり抜き、首を断ち絶命させる。

 ゴブリンの死骸を見て、気分が悪そうになっているエルを背負いなおしてソウラレイに向かう。


「エルの話の続きを聞かせてくれ」


 少し戸惑いがちにエルは俺の背中に息を吐く。


「もし指揮を取るような何かがいるなら、現在の逐次投入のような状況はないです。

だから、ソウラレイには……魔物が本能で欲しがるものが、あるいは嫌がるものがあるんだと思います。 それで、寄ってきて……」


 街の姿と、街の近くで魔物と戦闘を行う一団を見つけ、背負われているのを見られるのを嫌がるエルを降ろす。


「だとすれば、単純に魔物を倒せばいいって話ではなさそうだな」


 エル、頼んだ。 と目を向けるとエルは頷く。


「頑張ってみます」


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