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君を想えばえんやこら⑤

 友人がエアロリにエアキスをしてエアハグ、エアいちゃいちゃ、エアビンタとコンボをかましてきたとき、どうすればいいのだろうか。


 王女様が嫌悪感や気持ち悪く感じていることを露わにしながら、俺の服の裾を引いて小さな声で言う。


「な、なんですかあの人は……」


 ああ、なんかガチのオタクの友達と話しているときに、それを他の友人に見られたときのような反応である。

 あの子もこんな感じでドン引きしてたな。 今は俺もドン引きしてるけど。


 それにしても……なんでエルちゃんがいないのだろうか。 考えられる可能性としては、エルちゃんが死んでアキレアの頭がおかしくなったか、エルちゃんに振られてアキレアの頭がおかしくなったか……。


「仕方ないな。 上がれよ」


 おそらくエアエルちゃんに歓迎するように言われる幻覚を見ているのだろう。

 ドン引きしながら、イチカとその紐たちと共に家に入る。


「ロトさん、風使いの魔法使いですよね。 この空気どうにか出来ませんの?」

「魔法ぶっ放して戦場にするぐらいなら……」


 俺が王女と話していると、イチカが口を挟む。


「あの人、正常ですよ」

「いや、どう見てもおかしいと思います……」

「まぁ、イチカは同じく一途が行きすぎて頭がおかしくなってるタイプだから幻覚にも共感出来るのかもしれないが」

「違いますよ! ……まぁ、時々帰ってきたと勘違いして数ヶ月幻覚と一緒に過ごすこともありますけど」


 それはそれでヤバい。


「あの人、洗脳魔法に掛けられてます。 とんでもなく強力な……」

「ッ……洗脳魔法……。 ってなんですか?」


 薄々勘付いていたけど、この王女様バカだ。

 それに、イチカの千年前の知識と現代の知識にほとんど差がないことにも違和を覚える。

 まぁ、魔物という外敵がいない地球と、外敵がいる上に小さな街で他の街からも離れたようにしか集落の作れないこの世界とは、発展の差が出るのは当たり前か。


 まぁどうでもいいことか。


「洗脳魔法ってのは、闇属性の高難易度の魔法で、文字通り洗脳が出来る。 消費魔力が多すぎて独力では難しいが」

「へー」


 聞いておいて興味なさそうだ。


「んで、それが掛かってるって……」

「魔力から辿っての具体的な内容は解析中なのでまだ分からないですけど。

外部状況から判断したら、存在しないものを存在していると誤認させている、といった感じでしょうか」

「まぁ十中八九エルちゃんの仕業だろうけど……。 状況が分からないな。 本人に聞くべきか?」

「普通そういう掛けた状況は隠すものなんですけどね。 ……妙な状況っぽいですし、聞くだけ聞いてみてもいいかもです」


 通された部屋はこの人数では明らかに手狭だったので、護衛の三人と爺さんには外で待っていてもらい、部屋に入って、そのままフローリングの床に座る。


 椅子は二つだけあるが、目線を合わせるためにかアキレアも合わせるように俺の前に座り、おそらくエアエルちゃんが膝の上に座っている。

 王女様は一人だけ椅子に座っているが、アキレアも興味なさそうにしているのでスルーしていればいいだろう。


「エル、茶は俺が淹れるからいい」

「ああ、二人ともお構いなく」


 未だドン引きしている俺と王女様をおいて、イチカはもう現状を受け入れている。


 あれだな。 美形なイケメンでも、空想上のロリを愛でているのは気持ち悪いことが判明した。 まぁ、元々アキレアはイケメンなのにモテていないが。

 ……貴族のイケメンなのにすげえ気持ち悪いってむしろすごい気がする。


「……ケンさん」

「あっ、やっぱりイチカでもキモすぎて無理だった?」

「……いえ、その……この人、そんなに気持ち悪いですか?」

「……まぁ、ものすごく。 日本なら射殺されても仕方がないほどキモいな」

「そんなにですか……?」

「まぁ、今まで見てきた生き物では一番」


 何故かものすごく落ち込んでいるイチカを見て不思議に思いながら、アキレアが淹れたお茶を飲む。


「アキレアさ、エルちゃんと最近なんかあった?」

「いや、特に……。 あ、エルがこっちの世界に残ってくれることになったな」


 イチカに軽く目配せをすると、イチカは頷く。


「どういう経緯だったんだ?」

「……なんというか。 エルは俺を向こうに連れて行こうとしたけど、それができないってことで、こっちに残ってくれるってことになって」


 イチカは俺の耳元に口を寄せて小さな声で囁く。


「これは、たぶん単純に対象者の都合がいい幻覚を見せるタイプの魔法です。 心理的な抵抗が減って消費魔力がかなり抑えられるので、三百年ほど前に流行ってました」


 軽く頷く。

 エルちゃんと過ごすのが幸福ということか。 幸せそうで何よりと言いたいが、どうにもおかしなことになっているらしい。


「……二人で死にそうになったり、別れ話が出たとかないか?」

「別れ話とかあるわけないだろ殺すぞ」

「殺人のハードル低いな」

「死にそうになったのは、死人の王とか、刃死の王とか、そんな名前の奴を倒そうとしてたときに……。 地球に向かう方法があると嘘を吐いていた、とエルが言ったときに、エルが消えそうになったな」


 なるほど、と適当に頷きながらイチカの方を見る。


「刃人の王だと思います。 指揮官系の超級魔物ですね」

「知らない言葉で説明されても……」

「ん、後で説明します。 消えるとか訳分からないことも言ってますが……とりあえず、そのときにっぽいですね」

「……死んでも魔法って残るものなのか?」

「基本残りますね。 魔物とか、勇者とかだと瘴気ごとなくなるので消えますけど」

「……エルちゃんは勇者だから、死んでるわけじゃないのか」

「えっ、エルって方、勇者だったんですか?」


 ゴソゴソと二人で話していると、王女様が聞き耳を立てて来て鬱陶しい。 アキレアなんて、こっちが家に来ておいて無視して他の奴と話してても興味なさそうにしているというのに、少しは見習ってほしいものである。

 いや、人ん家に来て二人で話してるこっちもおかしいんだけど。


「こっちで結婚までしてるから名前変えてるんだよ。 元々は雨夜……なんだろ、下の名前は分からないな。

んで、今はエル=エンブルク」

「……え、イツキさんの妹さん、いないんですか?」

「悪い。 ……まぁ、とりあえず、こいつ何とかしないとな……」


 だいたいの状況は分かったけれど、実際にどうやってアキレアの元を去ったかが分からなければ探しようもない。

 アキレアを振って旅に出たとかの可能性もあるが……まぁ、あれだけ依存していればその可能性はないだろう。


「イチカ、解呪とか出来るか?」

「うーん、これだけ強力なものになると……。 洗脳魔法って燃費悪いんですけど、この分だと解けるまでに何年か掛かってしまいますし……。 まぁ洗脳魔法ですし、それを抜け出したいと思えば消費魔力が増えて、一日二日で消えますよ」

「……無理ゲー」


 とはいえど、数年した後に気が付いたりしたら、アキレア自殺しそうなので、今の内に解いてどうにかするしかないか。

 もし振られたりしてたら速攻死ぬかもしれないが。


 とりあえず、現実を教えて解呪に取り掛かるとしよう。


「なぁアキレア。 エルちゃんはここにいないぞ」

「……何言ってんだ?」


 まぁこうなるわな。

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