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君を想えばえんやこら②

 イチカという少女に尋ねられた問いで我に返る。


「ああ、千年前の魔王の時に活躍したとか、言う半魔の人間を探しに来たんだが……」


 少女の赤い目と目が合い、頬を掻く。


「ん、多分私で間違いないですね。 私が、私達が、自分で言うのもあれですが、活躍したのは魔王の時ではなくて、魔王がいなくなったあとの、魔物の掃討ですけどね」

「まぁ、ほとんど間違いなくイチカで間違いないのか」


 それにしても、ほとんど正確に千年前のことが伝わるとは、あちらの世界では考えられないことだ。

 早くお姫様達を呼んだ方がいいのかもしれないが、それより前に聞いておきたいことがある。


「魔王はどこにいる?」

「分からないですね」

「普通に地上にいるのか?」

「それは間違いないです、ほとんど」


 質問が悪いのだろうか。 イチカを見てみれば、意地悪するようには見えず、少し困っているように見えた。


「イチカもよく分かっていないのか?」

「はい、すみません……」


 中盤から後半にかけて出てくるような、色々知っているキャラかと思ったが、どうにも違うらしい。

 まあ、ゲームでもないのだから、それぐらいの方が当然か。


 かなり協力的なようなので、質問の仕方を変えるか。


「……じゃあ、魔王を探す方法はあるのか? あるいは手がかりとか」

「ありますよ。 物凄く簡単なのが」


 イチカは虚空に手をやって、何かを掴む素振りを見せるる。 手元に握られているのは密集された瘴気だ。


「魔物の元……瘴気。 これが一番濃く集まったものが魔王です」

「じゃあ、この国にはいないのか」


 瘴気が一番濃く集まる。 それは一番人口が多い場所という意味か、あるいは風などの影響で集まりやすい場所か。

 それとも、最も瘴気を集められた「誰か」のことか。


「……魔王は、俺たち勇者が召喚されてから、約一ヶ月後に復活した。

それを前々から不思議に思っていた。 一月と言わず一年であれば、そちらの方が勇者にとって非常に有利になるからだ。 一年でなくとも、五年でも半年でも……。なのに一月。

それは、一月である必要があった。

あるいは「魔王が復活する一月前に勇者が召喚された」と思っていたが、その逆「勇者が召喚されて一月経てば魔王が復活する」で、あるのか」


 辻褄が合う。 勇者同士で争っている訳が。


「間違いないか?」

「間違いないですよ。 ……よく、ほとんど聞かずに分かりましたね」

「むしろ、勇者の中では遅い方かもしれないがな。

現に俺は勇者に襲われたことがあるから、そいつらの方が先に答えに至っていた」


 もっとも、エルちゃんの能力で瘴気とは多少関わりが薄かったこともあるが、それでももう少し早くに気がつくべきだった。


「異世界から瘴気を吸収しやすい人間を連れてきて、魔物を倒して瘴気を吸収するシステム (レベルアップ)と魔物を倒しやすくするために瘴気に指向性 (能力)を与える。

死ねば元の世界に帰ることが出来るのは、瘴気を集めたあと死んで散らすのではなく引き取らせるためか」

「えーと、すみません。 具体的なことはよく分からないです」


 息を吐き出して、紅茶を飲む。

 平静でいられるのは、未だにゲーム感覚を手放せないからだろうか。


 ゲームはゲームにしろ、勘違いをしていたようだが。


「ゲームはゲームでも、MMORPG(大規模人数参加型オンラインロールプレイングゲーム)ではなくて、バトルロワイアルだったってことか」


 手のひらの上で踊っていたということらしく、あの善人ぶった女神に苛立ちを覚え、同時に気が抜ける。


「大丈夫、ですか?」

「まぁ、問題ない。 色々と勇者召喚に疑問を抱いていたのは元からだしな」


 ……この世界で勇者が生きるのは非常に難しいことらしい。

 この世界の瘴気を吸収して、死ぬことであちらの世界に持っていく。 おそらくあちらの世界には「瘴気」という概念がない世界なので、こっちのように魔物になったりはしないだろう。


「俺はお掃除ロボットかよ。 って、思わなくはないけどな」


 そうなると、魔王が、魔王となった勇者の一人が自死の命令を行ったことが不可解である。 考えるに、瘴気を吸収することで瘴気の意思が入り込むのではないだろうか。

 エンブルク家が代々アホなのも、意思が混じるからという可能性もある。


 勇者がこの世界で生きていくには、魔王になった勇者をぶっ殺して、瘴気がない空間で篭るしかない。

 魔王を殺すには、魔物化なしで対抗は難しそうだし、魔王を殺したことでレベルアップすれば魔王になるかもしれない。


「……どうにも厄介だな」


 驚くべきほどに救いがない。


「……そうですね。 作った人は、あまりにも人の心を理解していません。 死ななければいい、最終的に元通りに戻せばいい、なんて通じないのに」

「全くな。

……どうにかして、この世界に残りたい。 何か方法は知らないか?」


 イチカは分かりやすく哀れむような目を俺に向けて、同情するかのような優しげな声を掛ける。


「愛する人がいるんですか?」

「……まぁ、一応。 それに友人達にも結ばれて欲しいと思っているしな。 その友人は逆にあっちに二人で行くつもりらしいが」


 イチカは無言で俺の顔を見続けて、ゆっくりとため息を吐き出した。

 何か迷ったようすで、頷く。


「私たちが愛した人も、この世界で死ぬことを望んでいました」

「……そうか」

「結果は、見ての通りです。 私たちは一人でここにいます」

「……どうやったんだ?」

「そんなに難しいことではないですよ。 勇者の瘴気だけを取り出すんです。 ひとまとめにしていたら回収されてしまうらしいので、 ふわっと風に流して……運良く一箇所に集まるのを待てば、それで魔物として、この世界の住人入りです」

「……それ、海にワインを流したら、たまたまワインが集まって別の場所に出る、みたいな話だよな。 無理じゃね?」

「ほとんど自殺ですよ。 復活する可能性はほぼ零ですから。 ……まぁ、産まれかわるのではなく、死ぬのが目的だったんだと思いますよ」


 イチカはそう言ったあと「ワインが集まって飲めるようになるのを期待してしまってますけどね」と言って笑った。

 イチカの言っている人物は自殺しただけみたいだが、俺の場合はこの世界で生きる必要があるのでその手は使えない。


 いっそのこと、瘴気魔法を極めるなりなんなりして、自身の魔物化、魔王化を食い止める手段を探した方が建設的か。


 ……それに襲ってくるであろう勇者も倒す必要があるか。 というか、襲ってくる勇者って真面目すぎるだろ。

 女神に洗脳されたりしてるんじゃないかって気になる。


「ああ、あと、なんか近くの国の奴がイチカのことをスカウトしにきてるんだけど、どうするんだ?」

「断りますよ。 私はそんなに強くないですし、待たないとダメですから。 ……イツキさんを」



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