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雨は降り続いている④

 エルをおんぶするように、鎖で背中に小さな身体を括り付けているので、あまり大仰に暴れることが出来ない。

 舌打ちを軽くしてから、魔石剣を振り回した。


 エルに向かってくる剣。 それを持つ手から切り落とす。

 ゾンビという系統の魔物の一種である、刃人の王の眷属は非常に丈夫だ。

 硬度が、ではなく。 ただ動かなくさせることが難しいという意味で。


 高みへと朽ちゆく刃を使えば筋繊維が傷付き、エルに治してもらう必要があるが、エルの魔力は洗脳魔法に使われている。

 まだ消費量よりも自然に魔力が回復する速度の方が早いが、高みへと朽ちゆく刃を継続的に使え消費魔力の方へと傾くだろう。


 高みへと朽ちゆく刃ではない、一撃で仕留められる強い剣技。 そんな都合のいいものはない。


 ロトの剣壊剣術の模倣により、複数体もの眷属達を相手取り、殺していけるがーー。 ジリ貧だ。


「……ッ!」


 後ろに跳ね飛び、攻撃を避ける。

 眷属の厄介なところは、単純な不死性のみではない。 いや、不死性はついでとも言えるほどの厄介な特徴があった。


「……この眷属、強いな」


 異常なほどの個体差がある。 赤子の姿の眷属から、目の前の剣士然とした眷属まで。

 理由は分かっている。 眷属の元は、人の死体だ。

 アークヒューマンである俺たちに個体差が大きいように「元の何か」に瘴気が籠められて生まれた魔物は元の性質が大きく関わっている。


 刃の王、あるいはその眷属が赤子を殺したことで生まれた眷属は、赤子を元にした程度の強さ。 歴戦の剣士を殺して生まれた眷属は、その技を扱う。


 一対一ならば、エルを背負っていなければ、あるいは高みへと朽ちゆく刃が幾らでも使える状況ならば敵ではないが、複数体の眷属を相手にしながら、高位の武人を元とした眷属。


 眷属になれば魔法が使えなくなるのか、元の人が魔法を使えないのかは分からないが、魔法がないことはありがたい。


 別の弱い眷属に剣を振るうと、武人の眷属の剣が入り込み剣を止めた。 弾かれた剣をもう一度振おうとすると、また剣が割り込む。 今度は刃ではなく、柄が俺の刃を受け流した。


 刃同士のぶつかり合いならば何の問題もなかったが、刃で柄を打った場合は違う。

 俺は振るい終わった後で、眷属となった武人は次の瞬間には剣を振るう事が出来る。 殺される、訳にはいかなかった。


 無理な体勢からの、高みへと朽ちゆく刃。俺の刃は錆びた剣ごと武人の身体を上下に切り飛ばした。

 すぐに癒される身体。 舌打ちをしたあとに、雑魚の眷属に剣を伸ばし、突き刺して手首を捻る。


 魔石だけをくり抜いて剣を抜く。 その隙にと飛びかかってきた眷属の腹に、開いた手を当てる。

 半歩下がり、十分に足の力を発揮出来るようにしてから、眷属の体の内部を破壊するように、リアナの拳を真似て殴りつけた。


「ふぅ……」


 一息吐き出してから、剣を何度も振るって眷属を倒す。

 背中にいるエルに気を回すと、エルの手が俺の頭を撫でた。


「……すみません。 脚を引っ張り」

「いや、治癒魔法は助かった」


 そう言っていると、また遠くに眷属が見える。 負けることはなくとも、そろそろこの腐臭に参ってしまいそうだ。


「……アキさんが走って逃げてるはずなのに、何故か眷属が出る範囲ですね。

行きは偶々遭わなかっただけでしょうか?」

「そうじゃないのか? 俺の走りよりもあいつらが速いようには思えないが」

「……でも、まださっき見たはずの廃村が見えないんです。 とっくに着いているはずなのに」


 考えてみればおかしい。


「方向を間違えたか?」

「いえ、それはないかと。 変な魔法や能力に掛かってなければ……ですけど」


 つまり、それは魔法などに掛かっているということか。


「能力か?」

「……分からないです。 魔力も感じられませんが、魔力も闇属性の魔法があれば隠せますから」

「刃人の王、じゃないよな」


 刃なんて付いている名前があって、こんな大規模な魔法を使ってくるとは思いたくない。 作業になるだろ。


「もしかしてなんですけど」

「ああ」

「かなり長いこと放置していましたが、ほとんど刃人の王たちは移動してないですし……。

何かしらで閉じ込めているとかじゃないですか? それに僕らが中に入り込んでって」


 地面に腰を置いて少し考える。

 刃人の王は、三輪が召喚された国ともう一つの国の戦争によって生まれた。 三輪が逃げてきて、俺たちが存在を知ってーー。 その時点で結構な時間が経過している。

 それからグラウのところに行って、戻ってきてゴチャゴチャとしてから刃人の王を倒しにきた。


 確かに、それだけの時間でこの距離も移動出来ないほど遅いってこともないだろう。


「つまり、対処後のところに入り込んでってことか」


 俺は間抜けか。 何にせよ、抜け出すことは難しそうだ。


「……とりあえず動いてみましょう。

勘違いで道を間違えていただけの可能性もありますし、移動中に解決策が思いつくかもしれません」

「分かった」


 いつものように走り回りながら、見つけた眷属を処理していく。 普通の魔物は見られない。

 景色はあまり変わらない。 途中に、赤い色の地面を見つけたので軽く寄ってみる。


「んぅ、あれは……」

「多分、さっき俺が倒した魔物だな」

「そうですね。 やっぱり、何かあるのかもです」


 苛立ちが募る。 これ以上はエルの負担を掛けたくないのに、帰ることもままならないのか。

 見つけた眷属を両断してから、息を吐き出す。


「魔法だったら、大規模な洗脳魔法ですね。 方向感覚を操っているか、記憶の改竄をしているか」

「魔物にも効くのか?」

「それは効くはずです。 アキさんにも洗脳魔法は効きますし」

「魔力は……適当に考えただけでも、父親の50倍ぐらいは必要そうだが」

「……能力ですかね」


 勇者の能力だとして突破方法はあるのだろうか。

 認識を阻害する能力。 それにどこか既視感を覚えるが、思い出せない。


「エル、大丈夫か?」

「何がですか?」

「……いや、大丈夫ならいい」


 今の逃げることが出来ないのは、恐怖を感じるところだろう。 それに怯えないのは洗脳魔法のおかげだろうが。

 洗脳魔法は、本来から逆らい離れれば離れるほどに消費魔力が増大していく。

 いくらエルの魔力とは言えど、この恐怖や不安を煽る状況下で自然回復量の方が多く続く……という期間は長くは続かないかもしれない。


 早くどうにかしなければ、またエルの能力でエルがきえてしまう。


「……俺に能力を移すことは……」

「出来ませんよ。 アキさんが勇者だとして、移すことが出来ても、僕は絶対にアキさんには渡せません。

僕の「自己嫌悪」から来る能力は、アキさんに渡ったとしたらアキさんを傷付けます。 絶対に、渡せません」

「……ああ」


 強制してさせられるのならば、する。 俺にはどうしようもない。 エルを背負ったまま走り出す。


「抜け出す方法はありそうか?」

「あります。 グラウさんの能力を混ぜた神聖浄化ならば、即席で与えられた経験……能力を封じることが出来ますから」

「今は?」

「能力を貼り直すことが出来ないので……。 被害が増えるので、ダメです」


 頭を何度か掻き毟る。 それほど食料があるわけではない。 眷属以外の魔物は見ることが出来ない。 普通の動物も同様だ。


「潰すしかないのか」

「……ごめんなさい。 僕は、いざとなったら、さんを優先してしまいます」

「知ってるよ」


 とりあえず、帰ることの出来ないのならば、と踵を返して気味の悪い感覚の元へと歩いた。

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