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クリスマス番外編⑥

 ならば、僕の胸は普通ぐらいなのかもしれない。


「大きいのと普通の間ぐらい、ということですね」

「いや、ないから」

「あります」

「胸というか、胸部はあるけど」

「……とりあえず、次の人を呼んできてください。 りーちゃんも、そろそろ休まないと」


 りーちゃんは元気そうだけど、テンションが上がって不調に気が付いていないだけかもしれない。

 一応は親御さんに信頼されて側にいさせてもらっている以上はりーちゃん以上に気を付けておくべきだろう。 一応、歳上のお姉さんなわけだし。


 月城さんはりーちゃんの頭を軽く撫でてから去っていく。


「ツッキーって綺麗だね……。 お姉さんって感じがするよ。

あ、82点」

「僕も同い年ですからね。 あと、点数とか付けなくてまいいですよ?」

「私と?」

「月城さんとです」


 僕も月城さんに習って軽く頭を撫でてから額を触り、眼をのぞきこむ。 医療知識などほとんどないので確実ではないが、素人目では問題がないように感じるので予定通り続行である。

 トントン、と扉が叩かれる。 ノックの仕方だけでも、誰かはすぐに分かった。 分からないはずもない。


「アキさん!」


 りーちゃんの横から立ち上がって、扉を開けているアキさんに駆け寄る。 アキさんの持っているクリスマスプレゼントは一つだけらしいので、りーちゃんの分だろう。


 包装してあるが、何だろうか。


「あ、アキくん、メリークリスマス」

「ああ」


 アキさんの手を取って、握りながら一緒にりーちゃんの元に戻る。


「エルちゃんは分かりやすいね」

「んぅ、気のせいですよ」


 りーちゃんの前じゃなければもう少し引っ付くことも出来たが、流石に子供の前でいちゃいちゃとするのは控えるべきだろう。 恥ずかしいし。


 僕の隣に座ったアキさんは丁寧に包装されたプレゼントを渡す。


「……どうしよう。 飽きる気が起きない」

「別に変な物は入れてない」


 りーちゃんは渋々と包装から中身を取り出して首を傾げる。


「紙の束?」


 何枚かペラペラと捲り、目をぱちくりとさせてからあきの顔を見る。


「これ、続刊あったの?」

「続行? 何だったんですか?」


 りーちゃんから紙の束を見せてもらうと、何かよく分からないけどパソコン印刷された物語のようだ。


「これは、前に外国で人気だった本の続き。 えっ、確か翻訳してた出版社がなくなって、日本語訳されてなかったと思うんだけど……」

「前にゲームのチャットで聞いてたから、買って翻訳した」


 なんて手間がかかった……。 この前までいい感じの木の棒がどうとか言っていた人のプレゼントとは思えない。

 デートの時に握らせてもらったけど、確かにいい感じだった。


「すごいですね……」

「ほぼ直訳だから、よく分からない表現があるかもしれないが、それは自分で考えてくれ」

「これ、全部あの本の?」

「ああ」


 こういうのって著作権とか大丈夫だったっけ? まぁ個人間でする分には問題なかったような気がする。

 多分問題ないだろうと思いながら、ものすごく喜んでいるりーちゃんを鎮める。


「そんなに動いたら、身体の調子が悪くなって読めなくなっちゃいますよ?」

「うぅ、早く読みたい」


 まさか、アキさんがここまでりーちゃんを喜ばせることが出来るとは、予想外のダークホースだ。 絶対1点とか2点を記録すると思っていたのに。


「……そんなに期待するなよ。 ちゃんとしたやつとは違って小説らしい文にはなってないはずだ」

「いいよ、大丈夫大丈夫」

「ところで……その変なのはどうした?」


 アキさんがりーちゃんのお腹を指して尋ねる。


「アキくん……引くわ」

「えっ、何がだ? それ流行ってるのか?」

「いや、うん。 そう思うならそうでいいけど。 私は」


 決してヘコんでなんかいない。 辛いなんて思ってない。 息を吐き出して、アキさんの方を見る。


「……?」

「いや、別にいいですから。 んぅ、後で一緒に帰りましょうね」

「ああ、送るつもりだったが……」


 アキさんに不審に思われる前に部屋から追い出す。 別に悲しんでなんかいない。


「……40点で、エルちゃん悲しませたから」

「いえ、悲しんでないですよ?」


 悲しんだけど。 ついでに7点にも傷ついたけど。


 次に入ってきたのはレイさんだった。


「……これあげます」


 特に包装もされてないお菓子(一部食べられてる)を渡されて、りーちゃんは微妙な反応をする。


「ありがと。 ……お腹減ってるなら、そこにリンゴとかあるから、食べる?」

「いただきます!」


 二人揃って、りーちゃんに気を遣わせてる……。 流石はエンブルク家である。


「あ、僕皮剥きますね」

「いや、いいですよ。 そのまま食べるんで」


 レイさんはリンゴを齧りながら去っていく。

 りーちゃんはベットの上で妙な表情をしながら呟く。


「は……ではなく6点で」

「8点でいいですよ。 僕に気を遣わなくても。 ……というか、点数つけるのは良くないと思いますよ」

「ここまで来たら最後まで行こうと思う」


 りーちゃんも少し疲れが出てきたのか、少しぐったりし始めたので、残りはパパッと済ませることにする。

 グラウさん……手作りプリンで57点。

 知らない男の人……ケン玉で23点。

 ケトさん……可愛らしいヘアピンで75点。

 リアナさん……少年漫画全巻セットで40点。


 今までケトさんの75点が最高点で、時点でグラウさんの57点だ。 続くのはリアナさんとアキさんの40点(実際は一番喜ばれてた)に、知らない男の人の23点、僕の7点、レイさんの6点、ペン太さんの3点……。 あれ、編みぐるみって何点だったっけ。 あ、82点だ。 すっかり忘れてたけど、一番は月城さんだ。


「んぅ……あとはロトさんですか?」

「おう」


 さらっと勝手に入っていた。 りーちゃんは喜んだり笑ったりでぐったりしてるので、まぁささっとしてるのはありがたいような。


「俺からはこれな」


 言っていた通り、アルバム。 それほど高そうでもオシャレでもないけれど、しっかりとした作りをしていて丈夫そうに見える。


「ん、アルバム……」

「点数付けてるんだろ。 何点だ?」


 ロトさんは何故か意地の悪そうな笑みを浮かべながら尋ねる。

 りーちゃんは答えようとするが、どうにも答えにくそうに口を動かす。


 確かに、他のすぐに嬉しいような物とは違って、ちょっとずつ嬉しさを積みかせねていくようなものだ。


「じゃあ、これ追加で」


 りーちゃんの手からアルバムを抜いて、写真を幾つか入れていく。 ハロウィンのときの写真や、いつも時々遊んでいる時の写真、ゲームのスクリーンショット……と色々な写真が差し込まれていく。


「何点?」

「10点……」

「じゃあ、次のクリスマスまでに、100点になるように遊ぼうか」


 キザったらしい……。 ロトさんがすごくキザったらしいです。

 小学生を本気で口説いているようにも見えるが、うん、素でやってそうだ。


 ロトさんは何枚かりーちゃんの写真を撮ったあと、外に人を呼びに行った。 最後に集合写真を撮るらしい。


「ロトくん……」


 少し熱っぽい声を聞いて、少し不味いように思った。


「ロトさんはダメですよ? リアナさんを筆頭に、ケトさん、レイさんに……他にも顔が広いですし、モテモテですからね。 競争率が高いです」

「いや、違うからね! そんなんじゃないからね!」

「歳も離れてますし」

「いや、エルちゃんとアキくんの方が歳離れて……」

「一個しか離れていないですよ。

それにロトさんは……あれですよ、アキさんのお友達ですよ?」

「それは……」


 よし、説得成功である。

 そうこうしている内に、みんなが入ってきて、ゾロゾロと並び始める。


「んじゃ、撮るぞー」


 みんなで写真とは少し気恥ずかしいけれど、変な顔にならない程度には笑みを浮かべて、横にいるアキさんの顔を見る。 何故、目が合う。


「アキさん、前を見ないと……」


「はい、ピース!」


 …….絶対変な写りしてる。

 撮り直しを要求するのは恥ずかしいので、もう諦めることにして、りーちゃんの頭を撫でた。


「んぅ……トナカイばっかりの、変なクリスマスですみません」


 りーちゃんはちょっとしてやった顏を浮かべながら言う。


「そうかな。 サンタさんばっかりにも見えるけどね」


 僕を喜ばせるのが上手い子供である。


「また、一緒に遊ぼうね?」


◆◆◆◆◆


 クリスマスとはいえ、雪も風もなく、日が照っていれば案外暖かいものだ。

 トナカイの角をしまいこみながら、冷たくもなっていない手を自分で握ってみて息を吐き出す。

 冷たくなってたら、それを言い訳に出来ていたのに。


 そのついでに、鞄から袋に入れた手編みのマフラーを取り出す。


「その、これ……アキさん、少ししゃがんでください」

「あ、ああ」


 まだ高いけれど、爪先を立てて、手を必死に伸ばしてマフラーを引っ掛けて巻きつける。


「……長いな」

「それはこうして……」


 アキさんをもっと屈ませて、同じぐらいになったところで僕の首にも巻きつける。


「いひひ、あったかいです」


 顔が赤らんでいるアキさんを見て笑うけれど、自分の顔も赤くなっていることだろう。


「……俺の方は、家に置いているから待ってくれ」

「あ、あと、月城さんから、これ」


 抹茶コーンクッキーをアキさんに手渡すと、少し顔が歪められる。


「どうしたんですか?」

「いや、エルこれ好きだろ? 俺はいいから、貰っておけば」


 何を言っているのだろうか。 これが好きなのはアキさんでは……と思ってから、気がつく。


「いひひ。 そうですか。 アキさん、このクッキー好きじゃないんですね。

いつもアキさんが好きだからって、苦手なのに買ってました」

「……エル、これ苦手だったのか?」

「はい。 とっても」


 アキさんは嬉しそうに笑みを浮かべる。


「俺もだ」

「また、買ってきますね」

「ああ、俺もまた買ってくる。 一緒に食おうか。

いや、どうせ今日、俺の家に寄るんだから」

「はい。 一緒に食べましょうか」


 月城さんからのクッキー。 いい、クリスマスプレゼントだった。

 アキさんはしゃがんでいた格好から立ち上がりーー。


「ぐえっ……」

「エル? エル!?」


 マフラーで首が絞まった。



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