クリスマス番外編⑤
りーちゃんのお部屋の中に入るのは、部屋の広さと角の邪魔さの関係で三人ずつが限界である。
三人まで入れると言っても、三人もいっぺんに入ると圧迫感があるので、何故か知らないおじさんもいることだし、一番りーちゃんと仲の良い僕が最初に入ってそのまま一人ずつ迎える形になった。
まぁ、それは方便で実際は年上の友達ばかりで心配している親御さん達を安心させるために、パッと見同級生ぐらいの女の子という健全な友達っぽい僕が「りーちゃんとべったり仲がいいですよ」というポーズである。
やはり、親としては歳上の面倒見のいい集団ではなく、真っ当で普通な友達が欲しいのだと思う。
僕はりーちゃんの保護者ではないけれど、その気持ちはよく分かる。 でも、りーちゃんは学校にも通えていなくて、りーちゃんと友達になれる同級生の女の子の候補もいないのが現状だ。
騙すみたいで申し訳ないけれど、僕が同級生の女の子友達っぽく振る舞うのが一番いい。
僕の年齢は知ってないみたいだし、バレることもそうないだろう。
自分で考えていて虚しいが、他の人がりーちゃんと話すより、僕と話しているのを見るとすごく安心してくれるのだから、それでいいことにしよう。
扉をトントンと叩き、自分であることを伝えようとするが、その前に扉から声が聞こえた。
「エルちゃん!」
「んぅ、なんで分かるんですか?」
扉が勢いよく開いてりーちゃんの笑みが見える。 遠くで見守っている親御さんを気付いていることを気付かれないように、分かりやすく喜んでいる笑みを浮かべて言う。
「メリークリスマスです。 りーちゃん」
「うん。 メリクリー!」
そのまま中に入り、親御さんの目がなくなったところで今回のクリスマスのことを話す。
「申し訳ないんですけど、パーティはどうしても出来なくなってしまって……。 あ、でも、みんなプレゼントは持ってきたんです」
包装しているプレゼントを取り出して、りーちゃんに手渡そうとする。
「……ごめんね。 私、身体弱くて」
「いえ、りーちゃんのせいでは……」
「ううん、分かってるから、いいよ」
クリスマスなのに暗いりーちゃんにプレゼントを押し付けると、りーちゃんも気を取り直すように笑みを浮かべる。
年上なのに気を使われてしまった。 けれど、それをありがたく思いながらプレゼントを開けるりーちゃんを見守る。
りーちゃんはプレゼントを取り出して、笑みを固まらせた。
「あの……これ、月城さんに習って頑張って作ったんです」
「……あ、うん」
笑みを固まらせたままりーちゃんはこっちを見て尋ねる。
「これ、何?」
「何って、腹巻きですよ。 冬ですし、お腹冷やしてはいけませんから。 ……喜んでもらえましたか?」
「エルちゃんの気持ちは嬉しいよ」
「あっ、なら良かったです」
「7点かな」
「十段階評価でですか?」
「エルちゃんがなんでそんなに自信満々なのか分からないけど、百点満点で」
手厳しい。 というか、本当に嬉しくなさそうである。 僕はいつも自室の中だと手放せないぐらい腹巻きを愛用しているから、みんな欲しいものかと思っていた。
そう言いながらも僕に笑みを隠しながら、着用してくれているところを見るとほっこりする。
少し話していると、予定通りドアがノックされて次の人がやってくる。 病弱なりーちゃんの代わりに僕が立ち、ドアを捻って迎え入れる。
「ペンギン」
「メリクリ」
オチが早い!
ペン太さんはヨチヨチと歩いてりーちゃんの前にいき、トナカイの角を向ける。 何事かと思うと、ペンギンから生えているトナカイの角に手紙らしきものが括り付けられている。
りーちゃんはそれを解いて取ってから、ほとんど読みもせずに僕に手渡した。 見てみるとペン太さんからの思いが綴られた手紙らしい。 ヤケに達筆なその文章を、ペン太さんの許可を得てから読み上げる。
「『ペンギンの身とは不便なもので、祝いの言葉すら発することは難しい。 故に失礼と知りつつも筆を通して語らせていただく。 何はともあれ、merryXmas、リクシ。
こうして文を書いたことも、恐らくリクシからしたら不思議かもしれない。 「どうやってその手で文を書いたのか。 そもそも本当にそんな思考能力があるのか。」と、疑問に思っているかもしれない。 気にしないことだ。』」
とりあえず途中で息継ぎのために止める。 まぁ、何故かペン太さんの言葉が分かる月城さんが代筆しているのだろう。 困惑しているりーちゃんを他所に、手紙の内容を続ける。
「『まぁ、本題に入ろう。 俺、ペン太が一週間前から用意していたXmaspresentだ。 左の角を開いてくれ』 角を開く? あっ、本当ですね、開きました。 えと、『イワシだ。』
あっ、はい。 近くにあるだけでりーちゃんの身体に悪いのでお引き取りください。 ペン太さんも食べちゃダメですからね」
ペン太さんも所詮は鳥であったか。 いや、生まれが南極だからだろうか、魚は一週間常温で保存してたら腐る。
イワシをトナカイの角のギミックの中から出すことなく、蓋を閉じてペン太さんを帰らせる。
「……3点」
「手厳しいですね」
「……いや、むしろ優しいぐらいだと思う」
たしかに。 ゴミを渡されそうになって点数をあげるのは優しいと言えなくもない気がする。
だけれど、彼を許してやってほしい。彼はペンギンなんだ。
僕、ペン太さんと比較的マトモな二人が終わり、あとは月城さんを除くと良心というものが少ない人達である。 特にアキさんは頭が少し悪いので、変な物を渡さないか心配だ。
コンコン、と扉が叩かれて返事を待つことなく入ってくる。 長い黒髪が綺麗な月城さんが、笑みを浮かべてそこそこの大きさの袋をりーちゃんに見せた。
「ツッキー!」
「りっちゃん!」
ひしっ、と抱き合い、月城さんがりーちゃんの身体を撫でる。
「元気だった?」
「それ、私に訊くの?」
まぁ、元気なはずもない。 りーちゃんは気にした様子もなく、月城さんの手にあるプレゼントに興味を示す。
「これ、はいどうぞ」
「ツッキーはマトモだから、安心して開けれるね。 内容も知ってるしね」
りーちゃんも含めたみんなでやっているグループトークで書き込むという痛恨のミス。それをりーちゃんは笑いながら、プレゼントを包装から取り出す。
「熊の編みぐるみ……だけど」
可愛らしい熊の編みぐるみ。 だけれど、何故かゴスロリ衣装を着ている。
「何でゴスロリ?」
「ああ、樹ちゃんに着せようと思って作ったんだけど、合わせてみたらちょっと小さくて」
「あー、なるほどー」
「いや、なるほどじゃないです。 その熊、新生児並みの大きさじゃないですか」
「そうだよ?」
誰が新生児並みの大きさだ。 普通に小学生低学年ぐらいは大きい。 そう言い返そうとして、自虐になっていることに気が付いて言葉を変える。
「……りーちゃんよりかは大きいですし」
「えっ?」
「えっ、月城さん。 何ですかその反応は」
「いや、りーちゃんの方が大きくない?」
「エルちゃんよりかは、大きい自信あるよ」
りーちゃんは自分の胸元をペタペタと触ってから、僕の胸元を見て鼻で笑う。
「なっ……! 僕の方が大きいですよ! 第二次性徴も来てないりーちゃんよりかはボンキュボンですから」
「そうかなあ? まぁ、エルちゃんの胸も可愛いと思うよ?」
「んぅ、僕の方が大きいですから、それは。 その証拠と言っては何ですけど」
小学生と胸の大きさで競い合っていると、月城さんが僕のことを冷たい目で見てくる。
「どっちもどっーー」
「僕の方が大きいです。 アキさんなんですけど、アキさんの本が置いてある書庫で、ちょっとえっちぃやつがあるんですけどね」
「え、アキくんさいてい」
りーちゃんがぷんぷんと怒った顔で僕を見る。 いや、僕が怒られても仕方ないのだけど。
「それがどうしたの?」
「出てくる巨乳ばっかりだったんです。 つまりアキさんは巨乳好きで、尚且つ僕のことも好きらしいです。
つまり、僕が巨乳ということが証明されたわけですね」
「エルちゃんのその理論が間違っていることだけは分かるよ」
いや、間違ってないはず。 僕の胸の方をチラチラ見てくるし。
「あっ、それにあのエロ本はレイくんのだよ? アキくんの書庫に隠してるってロトくんが言ってた。
それに、アキくんが巨乳物なんて読むわけないじゃん」
「……え、嘘ですよね?」
「……残念ながら」
「じゃあ、僕はアキさんの好みから外れて……」
「何で巨乳前提なの。 ないから」
ある。 少しはあるはず。




