クリスマス番外編②
酒池肉林ーー!! 圧倒的、酒池肉林!!
僕はアキさんの欲しい物が書かれたメールを見て絶句する。 前からアキさんがえっちなのは薄々勘づいていた。
僕がちょっと丈の短い半ズボンを履けばずっとふとももを見てくるし、ロトさんなどの中のいい男友達と話している内容は隠れて盗み聞きしていると、赤面してしまうような恥ずかしいことが多い。
それにしても、これは……と思わざるを得ない。
『本文:アキレアの欲しいものを聞いた。 酒浸りになってフラフラにエルちゃんと肉などのツマミと山になるほどのエルちゃんの下着らしい。』
酒、肉、僕、僕の下着(山盛り)。 さすがにこれはどうなのだろうか。 アキさんにならいつかは……と思っているが、まだ結婚もしていないのにこんな……。
お酒も、まだ未成年なのに。 どうしようか。 せめて料理ぐらいは……と思うが、元々りーちゃんの家で行うクリスマスパーティでは月城さんとケーキを焼いて行くつもりだった。
もう下着(山盛り)しか残っていない。 だが、僕の下着は……パンツぐらいしかない。 上は小学校の時から替え時が分からなかったためにキャミソールだ。
下着と言えば下着なのだが……下着と呼ぶより肌着と呼んだ方が正しいかもしれない。
それを加えたとしても、元々服やらの衣類を多く持たないので、山盛りとはいかない。
……いや、なんで僕はパンツをプレゼントすること前提なのだろうか。 流石に恥ずかしい。 異常に恥ずかしい。
というか、アキさんは僕のパンツをどうするつもりなんだ。 この話の流れからして……僕も年頃の女子である。 アキさんがナニに使うつもりなのも分かってしまう。
「ううー。 無理です、無理ですよぅ」
確かに僕はアキさんが欲しがるものなら何でもあげるつもりだった。 お小遣いもちゃんと貯めて、予算はいっぱいあった。
まさか、欲しがるものが下着。 しかも僕の使用しているやつ。
携帯電話をベッドに投げて、自分もベッドに飛び乗って枕に顔を埋めて、脚をバタバタと動かす。 どうしよう。 どうすればいいのだろうか。
①諦めて別の物をプレゼントする。
②恥ずかしいのを我慢して差し出す。
③新品の下着を買い。 アキさんを騙す。
④いっそ僕ごと下着をアキさんの物に。
とりあえず……④はまだ早い。 ③は気が引ける、というか、バレそう。 ②は……羞恥心を除いても実際の問題として、加えて金銭面が辛い。 下着を全部あげたら、その分買い足す必要があり、合計したら結構な値段になる。
「となると、①ですね。 ……①しかないですか」
振り出しに戻った。 いや、振り出しどころか……。
一番欲しいものをあげられないのか。 僕は駄目な彼女だ……。 でも、皆でクリスマスパーティするのにアキさんに下着を渡すのは……。
プレゼント交換、みんなでぐるぐる回して音楽が止まったやつを手に入れる! みたいなノリが迫ってきたら、アキさん以外の手に渡る可能性も、と考えて首を横に振る。
やっぱり、パンツは駄目だ。 せめて、帰り道にここまで寄ってもらって……。 とりあえずタンスを開けて見て……。
「子供っぽいのしかない……」
アキさんに渡すどころか見せる予定もないため、普通に買えて僕のサイズに合う下着だ。 そんな大人っぽい素敵なものはあるはずもなく……。
「いや、あげるの前提なのがおかしいですね。 うん」
なんで止めることにしたのに、渡そうとしているのだろうか。 ……この前、アキさんの前でスカートを履いて、捲れてしまったときも嫌ではなかったような。
気のせいだ。 気のせいのはずだ。 変な趣味に目覚めてなんていない。
パンツはなしだ。 変な趣味に目覚める可能性がある。
アキさんになら見られたいかもしれないとか、変態だ。
アキさんが他に喜びそうな物……僕があげたらなんでも喜びそうな気がする。 木刀とか、竹刀とかがいいかもしれない。 でも、僕があげた物を振り回したり出来るとも思いにくい。
オシャレな小物とかでも喜んでくれるだろうが、それは僕があげたからであって物が嬉しいわけではない。 うぬぼれているわけではないけれど、もし他の人が小物をプレゼントしても適当に保管して一年ほど経ったら捨てる。 みたいなギリギリ許されるレベルのぞんざいな扱いをするだろう。
僕があげたからではなく、喜びそうなもので、消耗品とか雑に扱うことが前提みたいなものも駄目……。 どうしよう、もうパンツしか思い付かない。 頭の中がパンツ一色である。 カラフルだけど。
正直なところ、アキさんロリコン入ってるので、子供っぽいのの方が喜ぶだろうし。
……駄目だ。 一人で考えてもどん詰まりである。
ここはロトさんではない、相談出来る人。 月城さんに相談しよう。
だいたいいつも家にいるし、家も近いのですぐに会える。
コートをハンガーから外して、羽織る。 飾り気のないそれはあまり女の子らしいものではないが、お母さんが買ってきてくれたものなので気に入っている。
お母さんに外に出ることを伝えてから、月城さんの家に歩く。
月城さんの家の前に着き、もう慣れた手つきで呼び鈴を押して月城さんを呼び出す。
家の中からパタパタと足音が聞こえて、扉が開かれる。
「はーい、誰ですかー?」
「あ、僕です。 雨夜です。 月城さん、少し相談したいことがあって」
「あっ、分かった分かった。 とりあえずあがって」
月城さんの指示に従って中に入り、月城さんのお母さんに挨拶をしてから月城さんのお部屋に移動する。
俗に言えばお金持ちなのか、大きな一人部屋には幾つものクローゼットを始めとした服の収納スペースがあり、沢山の服が納められていることを知っている。
月城さんは僕を椅子に座らせてから部屋を出る。 キョロキョロと見回すのも失礼かと思い、ジッと月城さんが戻ってくるのを待つ。
「お待たせー、お茶とお菓子ね」
「あ、ありがとうございます。 ……そんなに気を遣ってもらわなくても」
とは言っても、出してもらったので飲まないわけにもいかず、短い移動で冷えた指先を暖めるようにカップに手を付ける。
「それで、何の相談……まぁ、分かってるけど」
「なんで分かったんですか?」
「あれでしょ? そろそろ下着をスポーツブラにという」
「違います」
少し悩んでいたのも事実だけれど、わざわざ相談するようなことではない。 お菓子をちらりと見て、苦手な味のするものであることを確認してから紅茶を口に付ける。
落ち着く味がして、思わず息が漏れ出てしまう。
「アキさんにクリスマスプレゼントを渡したいんですけど。
何を渡したらいいのかが分からなくて」
僕の言葉に月城さんは頷く。 まるで始めから相談する内容が分かっていたような素振りに、僕ってそんなに分かりやすい人なのだろうかと不安に思いながら頷き返した。
「まぁね、樹たんがあげたら何でも喜ぶだろうから、反対に迷うのもなんとなく分かるよ」
ああ、なんて頼りになる。 僕は何度も頷いて、月城さんの言葉を聞いた。




