クリスマス番外編①
爆ぜろ、不思議な力で爆ぜろ。
そう思いながらも、友人の頼みである。 惚気の鬱陶しさも我慢しながら話を纏める。
「つまり、お前は……エルちゃんにプレゼントをしたいが、それが思いつかない。 それどころか、クリスマスがなんなのかもよく分かっていない……と」
赤黒い髪に紅い目をした男、アキレアは表情をあまり変えずに頷いた。
なんでこんな奴に彼女がいるのか。 頭悪いし、性格悪いし、愛想悪いし、赤黒い髪と紅い目が気味悪い。 顔か、顔なのだろうか。
「つっても、俺はクリスチャンじゃないから、詳しくないぞ?」
「クリスちゃんって誰だ? そいつがクリスマスに詳しいのか?」
「……もういいや」
具体的な話をしても、こいつには伝わらないだろう。 あほだし、異文化のことを理解するのは意外と難しいものだ。
概要だけ追って、世間のカップルと同じようにイチャイチャ出来たらこいつも、こいつの彼女も満足するだろう。
……というか、そろそろここに来てから30分は経つ。 これ以上長居するとこいつの彼女が面倒い。
「まず、クリスマスというのはだなーー。 カップルがイチャつく日だ」
赤黒い髪を揺らしてアキレアは頷く。 なんでこんなに素直なのに頭が悪いのだろうか。 素直だと頭が良くなるってのは嘘なのだろうか。
「カップルが、イチャつく日?」
「ああ」
オウム返しに尋ねるアキレアの問いに頷いた。 男は同性でなければ見惚れるような思案に耽る物憂いげな表情をしてから口を開き、喉をゆっくりと震わせ?。
「そう言えば、聞いたことがある。
クリスマス、ミニスカサンタ、後日の売れ残りケーキ……」
知識の偏りが凄まじい。 ミニスカサンタは俺が教えたことだが。
「ミニスカサンタはいいよな」
「ああ、あれはいいものだ」
情緒やら風情やらもない格好で、クリスマスにかこつけて媚びているだけのような気がするが、そのあざとさがいい。 あざといのは可愛い。 可愛いのを狙ってあざといことをしているのだから、可愛いのは当然である。
「まぁ、エルにはミニスカートは……。 他の男に不快な目で見られる」
「微笑ましい目でしか見ねえよ。 子供だぞ?
あと、裸にリボンを巻いて自分をプレゼントとかいいよね、直接的でエロい」
因みにエルちゃんは俺の二つ歳上である。 学年も同じく二つ先輩で、学校とかでも目撃することがときどきあるので、その年齢も嘘じゃないだろう。
18歳じゃなくて8歳ぐらいに見えるが……まぁ気にしないことにしておく。 見た目が幼い女の子ぐらいいてもおかしくないだろう。
「寒そう」
「部屋ん中でやれよ。 外でやったら変態だろ」
「部屋の中でやっても変態だと思うが」
「いや、変態レベルが違うだろ。 外で裸リボンやったら通報されるけど、部屋ん中だと通報されないだろ」
スマホでクリスマスっぽい画像を探しながら、炭酸ジュースを手で探って掴む。 寝転びながら口に運び、少し飲みにくさを感じる。
「通報されるだろ。 エルにしたら絶対通報される」
「なんでお前がするつもりなんだ」
「そりゃ、エルの家には入れてもらえないから……。 流石に俺の家に忍び込んでなんてあり得ないだろ」
「なんで入れてもらえないんだよ」
まあ、外人の男を「僕の彼氏です! いひひ!」なんて紹介するとは思いにくいな。 否定されるのが嫌で付き合ってることを隠していそうだ、エルちゃんは。
「それで、どこにリボンを巻けばいいんだ?」
「ちょっと待て、あっ、こんな感じ」
体にリボンを巻き付けているエロ画像を見つけて、アキレアに見せる。
アキレアは微妙に表情を歪めてから、俺に言う。
「股間に蝶結びでいいのか?」
「通報されるわ。これは股間をラッピングしてるんじゃなくて、股間を隠してるんだよ。 史上最悪の変態が誕生してるじゃねえか」
「……?」
「なんで分からないの? もう、それが不思議だ。 というか、まず自分をプレゼントしようとするな」
股間に蝶結びでリボンを巻いた男の姿を想像して吐き気がする。 ポテトチップスに手を伸ばし、それをたいして噛みもせずに飲み込む。
「……何をプレゼントしたらいいんだ?」
「エルちゃんなら、お前があげたものなら何でも喜びそうだが……」
「あっ、やっぱりそう思うか?」
「死ね。 んで……まぁ、自分がもらって嬉しいものだろ」
アキレアを追い出そうかと思ったが、まぁ我慢することにしておく。 短気はよくない。
「エルだな。 ……やっぱり股間にラッピングするしか」
「帰れ」
俺はアキレアを追い出した。
惚気ているアキレアを見ていると、自分も恋人が欲しくなる。 目ぼしい人もいないが、適当に知り合いから見繕って作ることぐらいは出来るか……。
やっぱり、せっかくのクリスマスだしな。
そう思っている時に、クリスマス風のエロ画像を表情していたスマホが震える。 アキレアがまた助けを求めてきたかと思ったが、表示された名前はアキレアではなかった。
一応連絡先を交換してから半年、まだ一度も表示されたことがない名前だった。
『件名:雨夜 樹です。
本文:クリスマスにアキさんへプレゼントを贈りたいのですが、ご相談させてもらえないでしょうか?』
なんで俺を間に挟む。 なんか面倒な上に、両方からヤキモチを妬かれそうで怖い。
とは言えど、頼まれたら断わりにくいのも確かだ。 直ぐに返信をする。
『本文:分かった。』
『本文:ありがとうございます。 アキさんが喜びそうな物、分かりますか?』
少し考える。
アキレアが欲しいものか。 それはエルちゃんだろう。 裸にリボン巻けば? とでも返信したらいいのだろうか。 アキは喜びそうだが、間違いなく俺に変態のレッテルが貼られる。
『本文:心を込めたものだったら何でも喜ぶと思う。 そんなに気にせず、アキレアの欲しがりそうな物を適当に贈れば?』
『本文:ありがとうございます。 アキさんの喜びそうな物、分かりますか?』
あっ、これループしてる。 エルちゃんにそういうつもりはないのだろうが、ループしてる。 一個前の文と同じだもん。
もう裸リボンしかないのか? 俺は裸リボンと答えることを強いられているのだろうか?
何で、俺が惚気の中に入り込まないといけないのか。 もう本人に聞けよ。 そう思ったときに、思いつき、それをそのままスマホに打ち込む。
『本文:俺がアキに直接聞いてみようか?』
本人同士が聞けないのだったら、間に挟まってる俺が中継すればいいだけだ。 一応はサプライズの形になるし、お互いが喜ぶものが手に入るだろう。
『本文:お手数おかけしますが、お願いいたします。』
『本文:おけ』
『本文:ありがとうございます。』
まぁ、エルちゃんにはネットゲームでアイテムとか譲ってもらうこともあるし、多少手伝ってやるのも仕方ないだろう。 携帯の画面をエロ画像から電話帳に変えて、アキレアの名前を押す。
数度のコールの後、プツリと接続した音が聞こえる。
「アキか? 俺だけど、今時間いいか?」
『誰だ?』
名前ぐらい表示されているだろう。 何で確認していないんだ。 というか声で分かれよ。
「俺だよ。 んで……アキ、なんか欲しいものとかあるのか?」
『もしかして……サンタクロース?』
違う。 どういう勘違いだ。 まるで意味が分からんぞ。
「違う。 少なくともお前の元にはサンタは来ない」
『……?』
「分かれよ! てか、何で俺をサンタと勘違いしたんだよ」
『そりゃ、突然欲しいものを聞かれたから』
純粋か! そうツッコミを入れて電話を切りたくなったが、残念ながら今は目的のある電話なのでそう簡単に切ることは出来ない。
面倒くさいと思いながら、口を開こうとすると電話の奥からアキレアではない声が聞こえる。
『アキレアー、なんの話してんだ?』
『ああ、何か欲しいものがないかとかどうとか?』
「いや、アキに聞いているんだが」
『欲しいもの? まぁ酒、酒酒『俺はエルがほ』酒に浸り『エルに甘え』後肉とか『エ』ツマミにな『ルの下』ついでに土地も欲しい『パンツとか』修行用に『エルって上着けてるのか?』山がーーーー』
「うるせえ死ね」
糞みたいにうざったい師弟との電話を切る。 グダグダだが、だいたい分かった。
エロ画像を見て心を落ち着ける。 アキレアもレイみたいに落ち着きがあればまだマシなのに……と思うが、場合によってはレイの方が落ち着きがない。
面倒ながら、電話の内容を思い出しながらメールを打つ。
『本文:アキレアの欲しいものを聞いた。 酒浸りになってフラフラにエルちゃんと肉などのツマミと山になるほどの下着らしい。』
とりあえず眠い目を擦りながらメールを打ち終える。
んじゃ、送信っと。




