質問とか
光源が近づいてくるのを見る。
少女の姿を軽く監視しながら、質問をする。
「いくつか聞く。 お前は何者だ?」
身体が痺れてくるが、エルが到着したら浄化してもらえば治るだろう。
魔法毒以外の毒物には効くことはもう確認している。 魔法による毒や病は全て「魔力」として認識されているからか、神聖浄化の範囲外らしいが、魔法の浄化よりも高性能だ。
「何者……ッスか。 その質問って難しいッスよね。
自己とはなにか、自分ってどういう存在なのかって、もしかして……誰にも分からない物なんじゃないッスかねぇ」
「落とすぞ」
「ギルド員ッス! 超ギルド員ッスよ!」
俺と同じギルドの奴か。 恐らく売るために魔石を集めていたのだろうが……。
「あのオークとアークウルフの戦いはお前が?」
「そうッスよ。 どっちもが近くにいたので、隠れながらちょっとずつ小突いたら勝手にやりあってくれたッス」
それで漁夫の利を得ようとして、か。 徐々に光源が近づいてきた。 このままだと痺れのせいでシールドが切れてしまうところだったので助かったな。 いざとなれば解毒剤ぐらい持ってるだろうし、言えば大人しく渡すと思うが。
「んで、俺が残ったオークを倒したところで、全部盗んでいこうと」
「えっ……まぁ……ッス。 すまんッス」
「いや、それは別にいいんだ。 野営中に得体が知れないのがいると困るから追っただけだ」
そういうと少女は少し安心したように息を吐く。
「ども……ッス。 他に質問はないんなら逃がしてほしいッス」
「身長とスリーサイズはいくつですか?」
「140cmぐらいに、上から……って、誰ッスか!」
横を見れば少し息を切らしたエルがいて、その少し後ろに護衛が数人きている。 助かったな。 上の少女が。
「あー、エル。 助かった。 ちょっと背中の棘を引き抜いて浄化してくれ。 毒物が塗ってあるから気を付けてな」
「えっ、毒ですか? ……毒! 大丈夫ですか!?」
「おう、そんな大したのじゃないから。 割と早めにしてくれ。 痺れがまわりきったらあいつが落ちる」
エルが俺の背中側にまわり、棘を引き抜いてくれるが、異常に痛い。 思わず呻き声を上げると、エルが俺の顔を覗き込みながら、浄化をしてくれる。
「この棘、返しが付いてますね……。 毒は今から浄化しますが、棘は後で落ち着いた状態でした方がいいと思います」
「いってぇ。 分かった頼む」
全面は焦げてしまっていて、背中は棘のせいで穴だらけだろう、服のボロボロに磨きがかかってしまった。 新しい服を買うにも金が必要であることを思えば、すこし溜息が出そうになる。 かっこつけずに魔石をちゃんと貰っとけばよかった。
エルの浄化で痺れが取れてくる。
少女はせっかく捕まえたところで少し不本意だが、シールドを展開しっぱなしにする訳にもいかず、嘘をついている様子にも見えないので下ろしてやることにする。
シールドを階段のように展開し、少女は降りてくる。
「やー、悪いッスね。 全部魔石もらっちゃって」
ヘラヘラと笑いながら来るのが妙に不快だ。 勝ったはずなのにこっちは怪我をしていて、相手は無傷となんとなく損をした気分になる。
「ソウラレイから逃げてきたところで、蓄えもなかったんでお金が入り用だったッスよ。 それじゃッス」
走りだそうとした少女の腕を掴んで止める。
「ソウラレイから逃げてきたって、どういうことだ」
意地汚なそうなので食い逃げでもしたのかと一瞬だけ思ったが、あれだけの腕っぷしがあるのに金が稼げず、そんなつまらない罪で追われるとは考え難い。
「あれ、まだそっちの街まで話が行ってなかったッスか?
たくさんの魔物が、街へと入ってきたッス。 それで私は大事に巻き込まれる前に逃げてきたッス。
しばらくしたら片付くとは思うッスけど、今は行かない方がいいッスよ」
少女の腕を掴んだまま護衛の方へと向き直り、少し目を合わせる。 護衛は聞いていなかったらしく首を横に振った。
本当のことか判別がつかない。
エルの方に向くと、少女を少し睨んでいて、まだ見たことがなかった表情に驚く。
「どうしたんだ? そんなにスリーサイズが知りたかったのか」
「違い、ます。 大したことでは……いや、大したことなんですけど……」
どうも歯切れが悪い。 言いたいことを言えないような表情をしてから、少女をもう一睨みしてから俺の背中へと視線を移した。
「ちょっと、これは行くのを考えた方がいいかもしれないな」
護衛の一人がそう言ってから、少女に質問を始める。
ソウラレイの被害状況や魔物の規模を聞き、行くか引き返すかを考えているらしい。
どちらにしても、素人考えでどうにか決めるよりも護衛達が決定をしてくれた方がいいだろう。
話を聞きたいらしい護衛に少女を引き渡し、俺はエルに手を引っ張られて馬車の中に戻った。
傷の手当が出来るような道具は高額だったので買っていないので、大した治療は出来ない。
「とりあえず、後ろを向いて上を脱いでください」
エルの言葉に従い、上半身の服を脱ぐ。 脱いだ服は穴だらけで軽くだが焦げていたりもしていて、みすぼらしいことになっている。
これはやっぱり買い直すしかないな。
「う……酷いことに、なってます。
痛いと思いますが、脱いでいきますね」
エルがゆっくり背中に触れて、棘を摘んだのが分かる。
「では、いきます」
「頼む……ッてえ!」
「うぅ、肉片が……」
何かグロテスクなことを口走られて不安になる。
肉、肉片……。 返しが付いているからだろう。エルが足元に置いた棘をみると、確かに少なくない肉片が付いていた。
「汁が、空いた穴から赤い汁が……」
「適当に止血してくれ。 護衛に治癒魔法使える人もいるかもしれないから、いたら頼もう」
このまま全部抜いたらかなりの出血になるだろうと思い、二つの穴を止血してもらってから上着を軽く羽織って、エルを連れて外に出る。
灯りも付けていないのに周りが見える。 何故か夜目が利くようになったことを不思議におもいながら、目が慣れたからかと判断する。
少し歩き、黒装束を着直した少女とその少女に色々と質問をしている護衛達を見つけて側に寄る。
エルは少し俺の後ろに隠れた。
「悪い、さっき怪我をしてしまったんだが、簡単なのでもいいから治癒魔法が使えるやつはいないか?」
護衛達は首を横に振る。 まぁ、使える人間は少ないのだから仕方ないかと諦めて馬車に戻ろうとすると、意外な高い声が俺を呼び止める。
「私、使えるッスよ。 治癒魔法」
後ろへ振り返ると、意外にも黒装束の少女だった。
一瞬、エルが嫌っているようなので頼むのは止めておこうかと思ったが、それはそれで嫌がりそうだと思い素直に頼むことにする。
黒装束で青い目だけ見えるようにしているのは、見ていて酷く怪しい。
「じゃあ、頼む」
護衛も少女に用があるので、手早く済ませることにする。 上着を脱いで背中を少女に向ける。
「パパッと抜いて治していくッスよー」
エルが手で浄化を発動させて光らせて視界を確保し、黒装束の少女がぶちぶちと無作法に棘を抜いていく。
明らかにエルが抜いていたときよりも痛い。
軽く呻き声が漏れ出るが、その手は止まることなく棘を抜きまくり、治癒魔法を施していく。
血が流れて貧血になりそうと思ったころに、背中がパシリとたたかれる。
「終わったッスよ! って血が付いたッス!」
服を着て、礼を言おうとして後ろを振り返る。
「ありが、とう……ございます」
俺より早く、少し不満気にエルが少女に頭を下げながら礼を言っていた。
俺も頭は下げないが軽く礼を言う。