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歳下の妹という属性③

 結局のところ、俺がルト=エンブルクであっても、雨夜 樹であっても、やるべきことには変わりない。

 エルに、自分のことを愛してもらう。 それに、エルのレベルを上げて異世界に行くための力をつける。


 それは偶々、勇者の稼業と組み合っていて運がいい。


「刃人の王……というか、あれは普通にゾンビ系の強い版だけどね。 ゾンビ系統の魔物だから、それと同じ感じの対策かな。 戦うとしたら」


 ゾンビ系統? 聞きなれない言葉にエルの方へと助けを求めると、消え入るほど小さな声で説明される。


「魔物は、ゴブリンがホブゴブリンに進化するように、強さや性質によって形を変えます。

その形を変えられる範囲を系統と呼ばれているんです」


「そうそう、ゴブリン系統の魔物なら、ゴブリン、ホブゴブリン、ゴブリンメイジ、ヒュマゴブリン……まぁ色々。 猿っぽい獣とか、人っぽい獣みたいな形。

刃人の王は、ゾンビ系統の魔物で、死骸に宿る魔物の一種だね。 その性質から戦場で生まれるらしい」


 戦場で生まれるか。 人間同士で争うからこんなことになるんだ。 だが、レベルを上げる必要がある俺からしたら都合はいい。

 全て斬り殺すまでだ。


「個としての強さも勿論なんだけど、問題の性質は殺した生物を魔物にして、その生み出した魔物も殺した生物を魔物に変える力がある」


 大山はつまらなさそうに頭を掻きながら呟いた。


「ゾンビに噛まれたらゾンビになるのと同じようなもんか」


「ならないよ?」


「こっちの世界の話だよ」


 異世界って怖い。 大山の言葉にちょっとした恐怖心を覚えながら、机の下にあるエルの手を探り、握る。


「正直なところ……大勢でいけばいくほど、強い人がいけばいくほどに強くなるからね。 対処法が難しいよ」


「……こうして賢者が知っているのだから、以前も発生したんだろう」


「まぁ、対策しようがないってわけじゃないよ。

単純に殺されないように少しずつ削るとか、進行方向に落とし穴を仕掛けるとかーー中心にいる、刃人の王を破壊する。 とかね」


 単純な方法だ。 結局変わらずに斬れば死ぬ。 ならばこそ、俺に意味がある。


「エルと俺なら、勝てるな」


「……化け物だよ? まぁ、ランキング1位と7位ならイケる気がするけど」


 化け物と呼ぶに相応しくとも、グラウよりも強いということはあり得ないだろう。 数は多いだろうが、所詮は有象無象の魔物だ。


 グラウの魔石剣は硬く、砕けることすら想像が出来ない。 俺がやられてもエルが回復させてくれ、エルがやられそうになっても俺が庇える。


「まぁ、軽く勝つさ。 ほっとくわけにもいかないだろう。 世のため人のためにも」


 心にもないことを口で言ってから、雨夜 樹の能力が書いてある欄を見る。 能力の名前も効果も書いてあるが、それは発動させることが出来なかった。

 無名は隠れ字伏せる(ハイド・ハンドラ)。 物体の中に入り込む能力、らしいが……それが扱える気がしない。 というか、そんな力は感じられない。


 エルや大山曰く、能力は使えるもの、らしい。 だが、俺はそれをほんの少しも起こすことは出来なかった。 本当に雨夜 樹なのだろうか。


「そうですね」


 浮かない顔をしたエルの手は冷たい。 戦いに恐怖を抱いているのだろうか。

 そんな恐怖を払拭してやろうと強さのアピールをするために腕の力こぶを見せるがエルは少し笑っただけだ。


「まぁ、戦うのはオススメするかな。 早く対処しないと世界が終わるしね。 でも、死ぬのは止めてね、迷惑だから。 いや、勇者だから、魔物にはならずに帰るのかな?

何にせよ、あの勇者には困られたな。 こんな化け物を作るとは」


「勇者……?」


「ああ、戦の扇動とかしてたのがいたんだよ。 もうこっちで対処したけど」


 エルのエリクシルで対処したつもりだったが、国外か。 それは対処していなかったな。

 軽く息を吐き出す。 迷惑な、と思わなくもないが俺やエルの目的からしては都合がいい。


 素直に目的に近づけることに喜ぶことが出来ないのは面倒なものだ。


「とりあえず、死なないようにして倒せばいいだけなんだな?」


 賢者ロムは微妙に何か言いたげな表情をしてから、ため息を吐き出した。


「まぁ、そういうことだよ。ゾンビ系統は結構丈夫な身体をしてるから、魔石狙いで攻撃するのが早いよ」


 最後に有用なことを教えてくれたロムに礼を言ってから、口を閉じる。 もう聞きたいことはない。

 その後二三エルが尋ねたが、賢者ロムはその全てに「分からない」と首を横に振った。


 結局、殆ど情報を得ることも出来ずに質問は終了した。 大抵のことならエルは知っていることからの推理で導き出すことが出来るし、俺はそもそも分からないことが分からないので質問できることは少ない。

 それに、賢者とはいえど、ただの人がエルが今まで知ることの出来なかったほどの情報を知っているはずもない。


 大山から聞かれた質問にエルが答えていき、聞くことがなくなってから話は終了する。


「あと、最後に……大山さん、勇者を殺したこと……ありますよね。 それも、複数」


 エルは俺の後ろに隠れながら、扉を開けて帰ろうとしていた大山に尋ねた。 エルのその言葉を聞き、腰に下げていた魔石剣の柄に手を掛ける。

 大柄な男は安っぽい笑みを浮かべて、エルと俺の顔を見比べて、気にしていないように言う。


「正解」


 ばたりと閉じた扉。 俺は手を剣から離して、エルを抱き締める。

 案の定震えていたエルの身体を温めてやろうと紅茶のおかわりを注いで差し出す。 カップに触れて手を温めている姿は落ち着きを取り戻したようで、安心しながら机の上にあるクッキーに手を伸ばす。


「なんであいつが勇者を殺したって分かったんだ?」


「アキさんや僕に、意図的に隠そうとしていたページが幾つかあったのと……。 あの本、文字が細かいのに異常に読みやすかったので、多分何かしら目とか視力に関係する力が混じってるのかと思って」


 なるほど、隠そうとか。 それからバレたら本末転倒だが、エルの賢さを見誤ったな。

 エンブルク家に嫁いだからといっても、流石に元々頭が良かった人が馬鹿になるほどエンブルクは凄くない。


「敵か?」


「……いえ、分かりません。 友好的だったのは確かですし、幾らでもチャンスはあったのに敵対の素振りもなかったですから。

隠そうとしたのも、気持ちは分かりますから」


 まぁ、何かしらの事故でやっちゃったとか、ロトのように反撃をして殺したとかの可能性も大いにある。

 勇者に敵対している勇者がいること、はロトから聞いていたことだが、勇者を殺した勇者は、味方の勇者なのか敵の勇者なのかの判断が付きにくいことに気がつく。


 こういう時にリアナがいれば、異常に敏感な勘から敵味方の判別が出来ただろうが、今はロトもリアナもおらず、参考に聞けるのは俺より少し賢い程度でエルの百億万分の一程度の知能しかないレイと、田舎者で話が遅いケトぐらいしかいない。


「……襲ってきたら、容赦なく斬る。 いいな?」


「……はい。 大山さんは。ロムさんは、死んだら死んでしまうので、出来る限り」


 エルの言葉に頷く。 敵にまで気を使うとは、なんていい子なのだろうか。 ちゃんとエルにはバレないようにしよう。

 今後こういうことも増えるかもしれないので、針術や暗器なども使えるようにしておこう。

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