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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第九章:生きていくのに必要なもの
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愛が重い⑥

 何も言わずに無為に時間を過ごしていると、エルが小さく口を開いた。


「そういえば、その袋って何ですか?」


「あ…………」


 エルに買った指輪と、竜狩りで手に入れた大量の金銭だ。

 金銭は未だしも、指輪のことは忘れたら駄目だろう。


 エルに謝りながら袋の中から、指輪を入れてある小さな箱を取り出す。


「これは、その……前にエルが、結婚相手にはこれを送るって、言ってたから」


 何故か言い訳じみた言葉を吐きながら、エルに箱を手渡す。 喜んでもらえるかに不安があり、エルの表情を見るのが怖くて目を逸らしながら言い訳する。


「……いらなかったらいらなかったでいいが」


 俺の言葉にエルは大きく首を横に振る。


「いります! いりますから!」


 そんなに指輪が好きなのか、エルは手をパタパタと動かしながら俺の元にくる。 クロの言う通り、装飾品は女性に受けがいいらしい。


 エルに箱を手渡して目を逸らす。 喜んでいるようだが、実物を見て落胆されてしまう可能性もある。

 俺のそんな情けない姿を他所に、エルは分かりやすく大喜びをしながら箱を開いて中身を取り出す。


 息が漏れ出る。 緊張で息を引き攣らせた俺と、ゆっくりと息を吐き出すエル。 ため息を吐かれてしまったが、と思いながらエルを見ると、屈託のない笑みを浮かべていた。


「綺麗です」


 一言そう言ってから、光に照らしたりとしながらその指輪を眺める。


「ああ、綺麗です。 ……いいんですか? 僕には勿体無いぐらいでは……」


「いや、勿体無くはない。

その、なんだ、受け取ってもらえるとありがたい」


 エルは嬉しそうに頷き、その指輪を左手の薬指に付けた。

 懐いた動物のように近付かれて、頭をすりすりと擦り付けられる。 エルの匂いに少し動揺しながらも、抱きしめて自分の物だと主張をするように強く抱き締める。


「いひひ、アキさんは見る目がないです。 僕なんかにこんな素敵なのを渡すなんて」


 ……確かに、指輪のせいでほんの少しエルの露出度が下がっていて残念な気もする。

 笑顔が見れたので別にいいか。


 エルの身体を抱きしめながら、息を吐き出す。 よかった仲直り出来て。


◆◆◆◆◆


 走る。 エルと荷物を背負いながら、地面に強く脚を付けて、飛ぶような勢いを殺さないように地面を蹴り出す。

 かけっこでは負けたことのない人生だったが、まさか飛ぶ鳥よりも速く走れるようになるとは思わなかった。

 通り道にいた魔物を斬り殺して、血を浴びるよりも速くに前に進む。


「街、見えてきましたね。 アキさん、また足速くなりました?」


「そうかもしれないな。 ……エルが空気抵抗を減らしてるからじゃないか?」


 最近エルから習った言葉を言うと、エルが微妙そうな声を吐き出す。


「人間の走る速さで、空気抵抗が大きく関係してるのっておかしい気がしてきました」


 最近では筋力も強くなってきたので、エルを背負っていても違和感や疲れがなくなってきた。 そのため、エルを背負っているときの方が速い。


 昔、エルが言っていた「足手まとい」や「荷物」という言葉はもう遠いことである。

 エルがいた方が間違いなく速く強い。


「後、アキさん、この前言ってたことをやってみますね」


 エルは息を吐きながら、魔力を放出する。 同時に能力を発動させて、魔力に混ぜ込む。


「エリクシル……」


 石にではなく、風。 空気にエリクシルを込める。

 すぐに霧散するように薄れていくが、それも狙いの一つだ。 エルの膨大な魔力が世界に溶けて、薄れて何処かに流れていく。


「……これで世界を覆うのは、随分時間がかかりそうですね。 世界を周りながら石を置くよりかは現実的かもですけど」


「……まぁ、時間はまだあるからな」


 エルのエリクシルには時間の限界はなく、いつかは世界を覆うことも可能性だろう。


「魔物がいない世界か」


 想像してみるが、元々魔物とは遠い生活をしていたので今と何の差があるのかは分からない。

 おそらく今よりもいいことだと思われるが、どうなるのかは分からない。 何があっても、エルと異世界に行くので問題は……いや、そういう考え方は止めておこう。


「もしかしたら、魔物との戦いの代わりに人同士が戦うかもしれません」


 エルは俺の背に顔を押し付けてから息を吐き出す。


「でも、きっと今よりもよくなると思います」


 とりあえず、やるしかない。 エルと共に世界を救うのが、エルを救うことになるはずだから。


 寒い冬の中で、背中のエルだけが暖かい。


「もう少しで、新しい年だな」


 あまり考えていなかったが、もうすぐで今年も終わる。

 エルが魔力を半分ほど放出し終えたので、エリクシルを中断する。


「来年もよろしくお願いしますね」


「まだ先だろ」


「予約です。 予約。 来年のアキさんの背中を予約しておきます」


「ああ」


 甘い声で甘えられるのが堪らず、エルのふとももをズボンの上から撫でる。 エルが背中に思い切り頭突きをして、呻く。


「痛いです……」


「頭突きなんてするから」


「アキさんが変なところ撫でるからですよ!」


 エルを地面に降ろして、街に入る。 月城との別れも近づいているのを思うと、最近は人と別れてばかりだな。

 エルも久しぶりに友人に会えるというのに、あまり嬉しそうにはしていない。


「会わないって、ダメですよね」


「まぁ、ダメだろ」


 二人でため息を吐きながら、街を歩く。 慣れた町は寒いのに少しいつもよりも活気があった。


「魔物、出ないようにしてよかったです」


 俺はエルの言葉に頷きながら、エルの身体を抱き寄せた。

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