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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第九章:生きていくのに必要なもの
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愛が重い④

 エルのことを一つ知ることが出来た。

 強すぎる自己嫌悪の正体と理由。 異世界であるここに来ても変わらず中性的であろうとしている理由も。


 エルは居心地が悪いのか、俺の上でもぞもぞと動く。


「……ちょっと止まってくれ」


 可愛らしすぎるその仕草はどうにも俺の理性を奪って話をするどころではなく、ひたすら抱き締めたくさせる。

 何度か深呼吸をして持ち直し、お茶を濁すようにエルの頭を撫でる。


「エル、これからのことだが……」


「はい、なんでしょうか」


 もう山場はすぎて、エル曰く「媚びる」必要はないように思うが、エルはまだ膝の上でゴロゴロと嬉しそうにする。 可愛い。 堪らなく可愛らしい。


 興奮も相まって身体が火照る。 エルも照れながらだけれど楽しそうにしているので止めることが出来ない。


「その前に、膝の上に座ったままなのか」


「……はい」


 エルは恥ずかしそうに頷く。 俺も膝の上から退いてくれないと落ち着いて話をすることが出来ないが、強制することはしたくない。


「なら、いいが。

とりあえず、月城の見送りと、レイ達にロトとリアナのことを伝える必要があるので戻る」


「はい。 そうですね……」


「月城とは、また会えるから問題ない」


 エルが寂しがるかと思って先に言うと、小さく頷いた。 エルは俺のせいで友達が少ないので、悲しい気持ちが強いのは仕方ないのかもしれない。 申し訳なく思いながら、言葉を続ける。


「その後のことなんだが、エル。 三輪の言っていたことを覚えているか?」


「刃人の王のことですか?」


 三輪とは結構な情報交換をしていたのに迷いもなくその名前が出てくることが、エルがそれを気にしていることを如実に示していた。


「ああ。 隣国が滅ぼされている最中だ。

それを助けてやる義理はないが、討伐をしに行こうと思う」


「……でも、アキさんが戦うのは、嫌です」


 エルの言葉に頷く。 戦うのは嫌だ、それは間違いない事実だ。


「……エル、でも戦う必要があるんだろう」


 一瞬だけ、エルの身体が震えた。 全身を何枚かの布を挟んだだけの状態で密着させている現状、一瞬の震えであっても見逃すはずもない。

 エルの日本に俺を連れ帰る方法。 俺なりに少し考えたが、答えが出ることはなかった。

 現実的に考えて、エルをこの世界に導あた神の力でもなければ異世界に渡ることなど不可能だろう。 反対に、神の力では異世界を渡ることが出来る。


「……はい」


 エルは一部ではあるが神の力、能力を持っていて、その能力を成長させる術が魔物や生物を殺すことだ。


「エルの気持ちは分かっている。 俺が傷つくのが嫌なんだろう。

だから、エル、一緒に戦ってくれ、俺の後ろで治癒魔法を使ったり、魔術や魔法で援護したり……二人で戦って日本に行こう」


 日本に行くのに必要だからする。 それも当然あるが、それと同じぐらい、大切なことが一つある。

 エルにエルを好いてもらうことだ。


 勇者としての行動をしていたエルは、能力を使っても自身を傷付けることはなかった。

 それは価値のない自分、ではなく、人助けをして人の役に立っている自分、だからだと思われる。

 つまり、善行を成せばエルは自分に価値を見出すことが出来て、自己肯定をすることが出来る。


「二人で……。 アキさんだけではなくて」


「ああ」


 俺は頷いて、エルの手を握り、繰り返す。


「二人で勇者として戦おう。 無理は決してしない、させない。

誇れる自分になって、英雄だって誇りながら、エルの母親に会いに行こう」


 エルの表情は後ろ向きのために伺うことは出来ない。 どういうことを思っているのかも。

 やっぱり嫌だろうか。 怪我をするかもしれないことは。


「二人でなら、僕がアキさんを守れます」


 エルはそう言って俺の手を握り返す。

 心配を必要もなかった。 エルは前からこういう人間だった。 優しくて、勇気があって、人を思えるいい子だ。


「戦うのは嫌です。

でも、アキさんが傷付かないのなら。 それで助かる人がいるのなら。 アキさんを日本に連れて帰ることが出来るなら……。 やるしかないです」


 元々やっていたことに戻るだけだ。 何も倒せない相手に挑むわけではない。

 俺の剣で斬ることが出来ない相手が出たら逃げればいいだけだ。


 エルがエルらしく生きるために必要な一つのこと。 クロが傭兵をするように、エルの使命であり、やりたいこと、つまりは天命がそれだった。


「僕は勇者に戻ります。

剣も魔法が出来るみたいな万能な勇者ではないですけど」


「剣と魔法が出来たら勇者なのか?」


「んぅ、日本では、勇者と言えば剣も魔法も得意なものなんです」


 エルの言葉を聞いて頷く。


「エルが魔法で、俺が剣。 その条件ならば十分に満たしているな」


 二人で立って進んでいく。 前にエルと約束した言葉だ。

 エルは弱くて、一人では勇者になれないのかもしれない。 俺は弱くて、一人では英雄には程遠い存在だ。


「いひひ。 そうですね。

お隣さんの国、救いに行きましょうか」


 エルの声は以前の凛々しさが取り戻される。 嬉しそうで、迷いが晴れたようにも見える。


「なりましょう、勇者に」


「ああ」


 二人で一つの決意をして、もう一度エルを抱き締めた。 こうすると混ざり合って一人になれたような気持ちすらしてくる。

 この決意で、エルだけでなく、俺も俺を認めることが出来たように思う。


 エルをしばらく抱き締めて、無言で後ろから頰にキスをしたり髪を撫でるなどをして可愛がる。


 エルに依存するのは可能な限り止めるが、可愛がるのならばいいだろう。

 離れていた分を取り戻すように触りまわし続ける。


 エルの魔法による暖房で室温も少しずつ上がっていき、身体が蒸されるように感じてくる。

 上着を脱ごうかと思ったが、上着を脱げばエルとの密着度があがってしまう。 今も俺に抱き付いているが、布が一枚減れば、抱き締めたときの肌の感じが全然違う。

 だが、そうしている間にも室温はどんどんと高くなり、上着の中から汗が噴き出すようだ。


 我慢比べのようになり、ひたすら我慢を続けるが、あまりに辛くなってきた。

 エルも自分で俺の膝の上に来たわけだし嫌ならば離れればいいだけだ。


 暑さに耐えきることが出来ずに、上着に手を掛けてエルにはあまり触れないようにして前を開ける。 服を脱いでも涼しい風が入ってくることもないぐらいに室内が熱せられていて、エルと俺の汗で服が肌に張り付いていた。


 そのまま上着を脱いで横に置くと、エルは暑さのせいか羞恥心からか顔を真っ赤にさせて俺を見ていて、汗で濡れた身体が嫌に艶めかしく、エルの身体を隠している服が少し憎く感じてくる。


 非常に扇情的で、今すぐにでも組み伏せてしまいたいと思うが、我慢しながら


「エル、恥ずかしいなら離れたらいい」


 エルは首をふるふると横に振り、嫌だと俺の服の裾を握る。


「その、アキさんと離れたくないいですから……」


 確かにすごく暑いけれど、離れたくないなら仕方ない。 俺もエルとは離れたくない。


「なら、仕方ないか」


「はい、仕方ないです」


 何かがおかしいような気もしなくもないが、暑さで浮かされきった頭では上手く考えをまとめることが出来ない。

 なんだかんだと言って、もう部屋に帰ってきてから一時間半は経過していている。

 考えるだけの頭はもうなく、溢れんばかりの愛に従ってエルの幼く可愛らしい姿を見続ける。


 エルは時々その視線を気にするように身を捩りながら体制を変える。 その度に服の端から肌が見えるかもしれないという期待で目を見開くが、上手く隠されて見ることが出来ない。


 幼いかんばせに汗が滲み、もじもじと恥ずかしそうに腰を動かす。

 そんな愛らしい仕草に耐えられる筈もなく、エルに手を伸ばしーー。


「アキさん。

恥ずかしいのであまり見ないでください……」


 そう言って、俺から少し離れる。 酷い生殺しである。

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